44話 エスタにたどり着いた
歩く道の周囲は木々が並んで生えていているだけで地面はなんの整備もされておらず、デコボコとしていて非常に歩きずらい。そんな道を肩を並べて歩く二人は何ともないといった様子だ。
「ずいぶんと歩いたが……リンどうだ?」
「まだ魔力感知にかかるものは無いわ」
広範囲を感知可能になったリンにタクヤは魔力を感知させ後どれくらいの距離かを確認しようとしていた。
それでも感知可能な範囲に人か魔族がいないと何の意味もないから近くに在るのか無いのかを確かめるていどだ。
「あ、複数の魔力を見つけたわ」
「やっとか」
丁度十日間歩く位置に転移魔法陣はあったのか。
やっとの思いで見つけて興奮を覚える俺もいたが、頭は冷静だった。
「後どれくらいで着く?」
「このペースだと後一時間くらいかな」
「分かった」
俺は軽く返事をしながら立ち止まり、自分の左腕を切り落としそれを細かく刻んでリンに渡す。
「一応、念のためにな」
「う、分かったわ」
あまり良い反応を示さなかったがリンは三個ほどをポケットにしまって、残りを異空間へと放り込んだ。
使う機会の無いように俺が上手く動けばそれだけで済む話だから頑張るか。
今回は戦闘に発展させないと目標を立てて歩き出す。
「イスカルみたいに話の分かる奴だといいわね」
「ちょ、フラグ建てんなよ」
これでもう簡単に事が進んでくれることは無いだろう。
やらかしてくれたな。
嘆いても仕方ないのでそのまま本当にそうならない祈った。
「きっと上手くいくわ」
小さく呟くリンの一言で彼女も真剣なんだと思い俺はリンの頭をわしゃわしゃとしてやり、何事もなかったかのようにして歩き続ける。
「ちょっと、なによ」
「なんでもないさ」
「もお」
リンはぷんすかしながら俺によって荒らされた髪を整えながら再び俺の横を歩き始めた。
一時間ほど経ち俺とリンは目的地であるエスタの中を歩いてる。
その町にはしっぽの生えた魔族ばかりが町の通りを行き来しているようにも見えるがごく少数だがしっぽの無い魔族もいた。
「栄えていないわけでもなさそうだな」
町を歩きながら町の様子を観察する俺はちゃんとフード付きのローブを纏い一目で人間であることが分からないようにしている。
「ん、でもこの町の魔族は大概心眼を持っているから……フード意味ない」
ローブを纏い隣を歩くリンは町に入る前にも一度忠告したセリフをもう一度言った。
「気持ちだよ、気持ち」
少しでも俺が人間であることがばれないようにしたい。
「それでも心眼は便利そうだな」
「ええ、ある程度なら透けて見えるようになるからね」
日本にいた頃に心眼なんてスキルを持っていればどんなに素晴らしかったことか。
「タクヤのエッチ……私というものがありながら」
「な、何もやましい事は考えてないぞ」
「私、タクヤの考えてること全部分かる」
くう、なんてことだ。我の天使はそこまでお見通しというわけか。
「ま、まあ、何だ? いろいろだな」
「うん、何を言いたいのか分からないわ」
だろうな。俺も分からんから。
そうして、町の中をぐるりと回った俺とリンは見てきたなかで、一番偉いやつがいそうな建物の前にたどり着く。
「礼儀を忘れるなよ」
「分かってるわ」
「あと、俺は何も話せないから」
「大丈夫、任せて」
最後に確認をとり俺とリンは扉を開き中に入った。
おお! でかい!
まず目に入って来たのは大きなソファとそこに座る大柄な男の魔族。
「誰だ?」
トーンの低い声が俺とリンに向けられ、それと同時に周りで働く魔族の視線を集めた。
そんな緊張する雰囲気の中でもリンは特に気にした様子もなく話し始める。
「私はリン、それと隣にいるのはタクヤ。ここにこの町で一番力を持った魔族がいると思い話をしに来たわ」
部屋全体に通った声を聞いたソファに座る大柄な魔族が最初に反応を示した。
「ほう、俺がこの町を仕切っている。名はエビルだ。リンと言ったな? 何用だ?」
お、意外と社交的なやつだな。
「あなたは魔王の事をどう思っているの?」
いやいやいや、唐突すぎるだろ。リンよ大丈夫なのか?
びっくりするくらい突然過ぎてこの話の最も肝心な部分を聞き出そうとするリンに俺ばかりでなく、俺達を様子を見る周りの魔族にまで動揺が走る。
「何を言い出すかと思えばそんなことか……」
溜息の混ざったような言い方をするエビル。そんなエビルの目を見つめるリン。
「魔王様は正義だ」
「「…………」」
ま、まあ。そう考えるやつもいるよな普通に。
「分かったわ、それじゃあ私達は帰るわね。答えてくれてありがとう」
突然現れ、一つの質問を投げかけすぐに帰る俺達は失礼なやつなのかもしれないが、相手が魔王賛成派なのだから、話をしても仕方がない。
俺とリンはエビルに背を向け歩き出そうとしたが、引き留められた。
「おい、そこの人間止まれ」
ばれていたか……
呼び止められたらしかたない。俺はゆっくりと振り返りエビルを見る。
「なんでしょう」
「人間よ名は確か……タクヤと言ったな」
「そうですが」
エビルは何かを考えるように黙った。
しばらくしてエビルは口を開く。
「お前だったか」
「何がだ?」
まったく謎のセリフに俺は一気に慎重になる。
「イスカルから聞いたことがある」
ここでイスカルが登場するのか。
「奴は言っていた。魔王についてどう思うのかを聞く魔族と人間の二人組がいてそいつらは魔王を討とうとする奴らだと」
俺とリンはイスカルに裏切られたのか?
あってほしくない予感が俺の脳裏をよぎるが冷静さを維持させ質問へと移った。
「それがどうした?」
冷たく言い放ち警戒をアピールする事は忘れない。
「分かるぞ。私には分かる……」
なんだこいつは……何が分かったんだ?
「その強さのあまりに私の心眼をもってしても見ることの出来ないステータス。敵わないこともわかる」
心眼を使ったのか。それでも見ることの出来ないのはレベル差があるためか。
ある程度の予測を立ててエビルのセリフに注意を向ける。
「だが、まだ覚醒はしていない。あいつとは全然違うタイプの救世主だな」
救世主か……この場合俺以外の救世主を指しているはずだ……
「ちなみにその救世主とはどんな人間だ?」
「なんだ? 知らんのか」
この流れだと俺以外にもレベルが高い救世主がいることになる。
なんとしてもその情報を得なくては。
余計に緊張感の走るなかリンだけは平然としていたがそれも続かなかった。
リンは俺にだけ聞こえる声で話す。
「タクヤ救世主が現れたわ」
このタイミングでか……
「数は?」
「一人よ」
冗談だろ? ——いやいやここでリンが冗談を言うはずがない。
「距離は?」
「まだこの町に入ったばかりの所よ」
小声で会話をする俺とリンを前にしてエビルは不信そうに俺とリンを眺めていたが突然表情が明るくなった。
「ほう、あいつが帰ってきたみたいだな」
心眼は広範囲を見ることが出来るのか。
分析する俺を他所にエビルは少し弾んだ声で言った。
「あと数分もすればここに来るだろう」
それにしても魔族を知り合いとする救世主はどんな奴だよしかも一人か……
意外と俺と分かり合えそうなやつかもしれないと期待する自分がいた。




