43話 森を抜けて
生い茂る木々の中に荒廃しきった小屋のような建物が不自然にも一軒だけ建っている。
その小屋に窓は一切無いが壁のあちらこちらに穴が開いていてドアを開けずとも中の様子をうかがえることができる有様で見る限りでは屋根は無いようだ。
そしてその残念極まりない建物の前に疲れ切った様子で佇むタクヤとリン。
「やっと着いたな」
「ええ」
ここまで来るのに約十日。
この十日間で遭遇した魔物の数は数えきれない程だった。
連続して出現する魔物のせいで睡眠時間を奪われたのだ。交代で休んではいたが、二人で見張りと休憩を回すのは難し過ぎた。
「この中に転移魔法陣があるんだよな?」
「昔と変わってなければあるはずよ」
疲れていることもあり会話も確認程度しかしていない。
まずは建物の中で休むべきだな。
見た感じまともに休めるような環境では無いことは分かっているが、今の俺達には睡眠が必要だ。
「リンあの建物の中で休憩にしよう」
「うん」
強大なステータスを所持していても睡眠欲には敵わない。
ステータスとは健康体の下で初めて発揮する力なのだ。底なしの体力でも寝なければ疲れる。
よろよろと小屋に近づきドアを開けて中に入る。
うわ、汚い……。
小屋の中には草が生えたり石が転がっていたり木材が腐ったりしていて、おまけに屋根は無くとても休めるような環境ではなかった。
取り敢えず転移魔法陣があることを確認し、大樹で簡易ベッドを作り俺とリンはそこに寝転ぶ。
「せめて屋根のある空間で休みたかったな」
無い天井を見上げて呟く。
無いものねだりしても仕方ないか。
「一旦寝て次に目覚めたときから行動開始だ」
俺は傍で横になっているリンに呼びかけたがリンはすでに寝ていた。
「お疲れさん……」
小さく囁き目を閉じる。
目を閉じて数秒もいらなかったであろう、俺は直ぐに眠りについた。
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「よし、リンも起きたか」
「おはようタクヤ」
どれくらい眠ったのか分からないが取り敢えず昼だ。
俺達が眠りに着いたのも昼だった。
数時間程度寝たのか、はたまた一日以上眠ったのか……
見方によっちゃ深刻そうな問題だが、これからの動きに支障はないだろう。
そう考えた俺はリンが完全に目覚めるまでボーとして待つ。
「準備オッケーだよタクヤ」
「おう、それじゃあ行きますか」
「レッツゴー」
この小屋が小さな空間なこともあって立ちあがればすぐそこに魔法陣が展開されている。
その魔法陣にリンが魔力を流して転移する。
転移はこれで三度目の経験になるが目が眩むほどの光を浴びることには慣れない。
「んっとここは……」
「転移成功ね」
辺りは真っ暗で何も見えないが状況の把握に徹する。
「リン、ここは?」
「ここは、魔族の町に近い場所に位置するただの転移魔法陣のある祠です」
……面白くねーな。
「本当は?」
「ただの祠だよ」
リンは再度そう言いながら魔法を行使した。
『灯火』
リンが辺りを照らしたおかげで視野が広がり目を疑う。
本当に何も無いな……
残念な程に何も無いただの祠。あるのは地面に転移魔法陣があるくらい。
「ほら、こんなに何も無い場所をどう説明していいか分からなかったのよ」
それで楽しませたいと誤魔化したのか……
「確かに説明しにくいな」
「でしょ!」
俺の賛同に喜んでいるリンに微笑んでいるとリンはそのままの雰囲気で聞いてくる。
「で、これからどうするの?」
「これからね……何も問題が無ければ魔族の町に行ってみようか」
「ん、分かった」
行動の方針を共有して祠を出るために歩き出す。
歩くこと数分で祠から出ることが出来たがやはり何も無かった。
何も無いからこそ、ここに転移魔法陣があることが知れ渡らないのか。
自分の中で結論を出し外の景色を眺める。
今はまだ茂みの中にいるがちょっと歩けば南北に分かれる馬車が一台通れるか通れないか程度の道が見える。
祠は茂みに隠れるようにしてあるため、普通に歩いているだけでは気づけなさそうだ。
「南と北……どっちに行く?」
「じゃあ北にしようか」
「分かったわ」
俺に確認をとったリンは地図を眺め何かを調べている。
「ん、この先にはエスタという町があるみたい」
「あいよ」
俺は軽く返事をして歩き出す。それにつられてリンも俺に追いつき隣を歩く。
「ねえ、タクヤ」
「なんだ?」
「大樹……使わないの?」
大樹による森以外の場所での移動にはいつも大樹を使っていたからか、ただリンが歩きたくないだけなのか分からんがここでの使用は避けたいところだな。
「この辺で大樹の使用は危ないかな」
「何が?」
「道は狭いし、速すぎて事故起こしそうだ」
リンはその場面を想像でもしたのか黙りこくった。
「と言う訳で歩きましょう」
そんなに残念そうな顔しないでくれよ。
「ほら、この場所がダメなだけだからさ……もっと広い道に出たら大樹で移動しよう」
「わかったわ」
そんなかんなで俺達は北にあるエスタという町を目指す。
「徒歩だとどれくらいかかりそうだ?」
つい気になって聞いてみる。
大樹を使わないから聞いといて損は無いだろう。
「え~と、ここが道のどの辺り位置するかにもよるけど……」
あ、そっか。
南の町に近い場所だとかかる時間も増えるか……
「ここが、南北の町までの距離を四等分に分けて考えて、北よりだと五日かな」
と、いうことは、中間だと十日になるな……
「まあ、分かったわ。ゆっくりと景色でも眺めながら歩こうか」
「そうね」
とは言ったものの、この位置が南寄りで無いことを祈りながら歩く俺だった。
「ねえ、タクヤ。町に着いたらまず何をするの?」
「バルシオンのときと同じようにまずは、一番偉いやつと話に行こう」
「了解よ」




