3話 訓練してたら目標ができました
太陽が真上に輝く昼間というのに紅い空、そんな異様な世界の中に昨日召還された救世主様達は午前中の戦う訓練を終え休憩をしている。
私の名はサイホーン、この砦の最終決定権を持つ者だ。
人前では威厳を保つために一人称を「我」とかにしているが、あまり慣れたものではなく困っている。
そんな私だが、昔は王都で騎士長クラスの職に就いていたこともあり、つい半年ほど前ここに配属された。
配属された理由の一つはこの砦の最終決定権を持つ者が死んだためその代わりとして、二つ目はこの砦を守る兵及び、半年後に現れると言われていた救世主の教育。
まさか本当に救世主が現れるとは思ってもいなかったが、現れてくれた以上、職務を全うしようではないか。
始めのうちに教える内容は基本的なことばかりでいいだろう。
この世界での戦いで最も大事なものは魔力だ。
魔力が無くなれば体を動かすことすら出来なくなり下手したら死ぬ。それくらい魔力は大切なものなのだ。
よって最初に行う訓練は魔法に使う魔力を調節し長期戦を生き抜くための術を身につけさせること。
彼らは疲れたと口々に言っていたが聞こえない振りをする。
いざという時に死なれては困るからな。
魔力は集中力にも影響を及ぼすものであり訓練開始二時間で集中力が低下しているのが見て取れた。
タクヤを除いてはな。
始めての訓練だから仕方無いのは分かるがもっと頑張ってもらわないと。
それにしてもタクヤが集中のスキルを持っていてよかった。最初の訓練でいきなり絶望されても困るからな。
そんな思いを抱きながらも休憩を満喫する救世主達を見やると呑気に話しているのが目に映る。
「剣術などの訓練よりも魔力行使を優先させるところから魔法は相当強力な代物みたいだね」
「ああ、そうだね。俺達はこの世界の人よりも魔力が高いから使いこなせると魔族も怖くないな」
「早く実践やってみてえ」
昨日の今日だが皆は仲が良さそうだなタクヤを除いてだが。
ステータスのこともありタクヤは一人孤立しているようだったが、訓練を重ねれば差も埋まるだろう……埋まってください。
さて、タクヤが挫折しないことが唯一の不安だが、訓練に戻りますか。
こうして訓練の日々は始まった。
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この世界に来て早くも一週間が経った。
俺は相変わらず最弱救世主として訓練している。
俺の今のステータスはこんな感じだ。
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タクヤ 16歳 レベル3
固有魔法:植物
筋力 320
抗力 340
体力 310
瞬発 330
魔力 380
スキル:集中Ⅱ・魔力移動
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少しは成長しただろ?
他の奴らには及ばないがな!皆のステータスはオール900でレベルは10。成長早すぎ追いつけねーよ。
埋まるどころか広がるステータスの差を痛感しながらも今日もいつもと同じように午前中は固有魔法の鍛錬をする。午後からは剣術の鍛錬になっているが俺は午後からの剣術の鍛錬から外され一人で固有魔法の鍛錬だ。
剣術の鍛錬は偶数人が教えやすいらしいな。
まぁ、俺みたいな雑魚に教える余裕は無いらしい。
もちろん俺に不満は無い。
皆より弱いから仕方ないさ。
その分、固有魔法のみに専念して一箇所だけでも皆に追いつけるならそれで良いと思ってるからな。
剣術の鍛錬から外してもらえるおかげで俺は植物魔法の強さに気づけた。
午前中に皆の魔法を色々見るからに、炎の玉を造って的に攻撃したり、水のレーザーを放ったり、風を纏い高速で移動したり、重力を操作して 空を飛ぶ鳥を地に落としたり。
結構派手にやってるが、魔力を大量に消費しているみたいだ、それに集中もすぐに低下してしまっているから魔法の連発もままならないようだ、俺とは違って。
俺の魔法は素晴らしい。
まず、魔力が尽きないことだ。植物の特性である光合成が発動して魔力が無限に供給される、日光が当たるときに限るがな。
それでも充分すぎるアドバンテージだ。おかげて地面からは根っこをはやしたい放題根っこで攻撃し放題だ。
そして俺には目標ができた。
それは植物魔法をバカにした奴らに根っこによる触手プレイを体感させることだ! 俺の魔法があれば難しいことではないはずだ!
実際に猫っぽい動物で練習しはじめているが、なかなかうまくいかない。
力加減が難しいな……力が弱いと拘束がすぐに解けてしまう。逆に強すぎると体を潰してしまうし滑らかな動きで的確な部位に当てることができなければ何の意味もない。
そう、とても難しいのだ。
だがこれが完成したら俺は最凶になれる!
これが救世主(笑)の目標だ。
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召還より三週間が過ぎた。
快晴の午後、皆とは一週間遅れてだが今日から俺も砦近隣の魔物の退治に加えてもらえるようになった。
俺のステータスはだいぶ成長したが、ユウ達には遠く及ばない。だが最近は魔力操作の技術が上がってきているのが実感できる。
触手プレイ計画の実行も近いな。
こうして初の魔物退治がはじまった。
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「目覚めよ体内に宿る熱き炎!『焔槍』」
ユウの正面の空間にぼわっと炎が吹き出し、そのまま槍の形を造りだし、ユウの合図で背の小さい鹿のような魔物をめがけて飛来する。
「ぎゃああああああ」
飛来した炎の槍は無防備な魔物の胴体に直撃すると一気に炎が魔物の全身を包みこみやがて魔物は消し炭となった。
「流石はユウ殿、その魔法の威力! 御見それ致しました」
兵隊の言葉をユウはサラッと聞き流しながらあきれた顔で隣を見る。
そこには余裕の表情で魔法を使うコハルの姿があった。
「世界の理を滅する力私は求める!『超重力』」
コハルが魔法を行使するとゴブリンという魔物は声をあげる間もなく上から襲い来るちょっとしたクレーターができるほどの重力に押しつぶされ跡形も無く消滅した、正確に言うならば上から押しつぶされた感じだ。
「まったく……詠唱終了時より約一秒で終わらせるコハルの魔法のほうが俺の魔法なんかよりもすごいっての」
「どお? 私の魔法はすごいでしょ?」
とドヤ顔で語るコハルの自慢げな声が響く。俺には皮肉にしか聞こえない。
さて、俺はというと。
片足を地面に踏みつけるとの目標のゴブリンという魔物の足元から根が生え足と腕に絡みつき動きを封じる。
「後は剣で斬るだけだな」
常時発動型魔法の俺には詠唱する必要がないよってイメージするだけで魔法を行使できるようになっていた。
魔法名を言う方がイメージがしやすくなり魔法の威力も上がるそうだが恥ずかしくてできたもんじゃない。
そういうこともあり根に強い威力を載せることができないが、威力を出せるようになると根っこで串刺しなんてできそうだ。
そんな残念な俺を見ていつもカナが馬鹿にしたように笑っている。
「タクヤはだめねー足止めしかできないなんて」
「うるさいぞカナ、俺なりには成長しているからいいんだよ」
「あーそう」
そう言うと別の魔物を探しにどこかに行ってしまう。
この頃になってだがカナがやたらと突っかかってくる。正直めんどくさい。
クソゥ、いつかこいつをグヘヘヘヘ。
時間が経つににつれ俺は悪者みたいになっていくが問題ないだろう。
そして時間は過ぎていく。
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ここは魔族の支配地バルシオン元は人間の領地だった場所だが今は魔族しかいない。つまり人間は皆殺しされ占領された。その割には人間の住んでいた建物はきれいに残されているが建物を立て直すコスト的なものを考えてのことだろう。
そして、そんな土地の正門の前で馬に跨り空を見上げていた一人の男魔族が近くに駆け寄ってきた魔族に話かけた。
「準備はできたか?」
「もうすぐ完了とのことです」
人間の数も少なくなってきたこれも我らの王のおかげだ。もうすぐ魔族に勝利が訪れるそのためにも急がなくては。
「そうか……準備が整い次第、人間狩りを再開する、次の目的地はウォグリアだ。他のやつらにも伝えとけ」
「了解しました!」
人間抹殺する! すべては魔族の王のために!