30話 精霊の1日
なんだよ、この空気は……他の奴らとは違いすぎる……
お母さん精霊が左手は肩の高さで右手は胸の下にして半身で構えた時に見守る精霊達は黙り込み、成り行きを真剣に見つめる。
俺もいつ攻撃されても対応できるように構えて様子を見た。
お母さん精霊はそうとうな修行を積んでいるだろう、技のスピードと他の技への繋げは俺より上だと予測している。その状況の中で確実に勝利するためには……
お互いに様子を見続けること数十秒、二人が動いたのは同時だった。
俺は左拳を引いて突きの挙動に入り、それに対する精霊は両手の構えを崩すことなくそのままの姿勢で地面を蹴りお互いに間合いを詰める。
ここから先は技の出が速い方が勝利を収めると誰もが思い、それを制するのはお母さん精霊だと俺達を囲む精霊は思ったのか既に安どの表情に変わっていたがその中で一人の少女、リンだけがほくそ笑んでいた。
精霊は体を入れ替えながら胸の下に構えた右手で無駄の無い真っ直ぐな軌道で俺の首を狙うが、俺の方が少し速かった、余った右手から弾樹を放ちお互いの目の前で破裂させると同時に左手から大樹を放ちながら精霊の胴を突く。
俺の拳を振るスピードに大樹の生えるスピードが加算されて威力が上がり、精霊の拳が届く前に精霊を吹き飛ばした。
吹き飛んだ精霊は壁に激突して床に膝を突いたた精霊の脚元から大樹を生やして拘束する。勿論体に力が入りにくい姿勢で。
そして動けなくなった精霊に近づき大樹で作った木刀を首筋に当てて周りに聞こえるようにはっきりと言う
「俺の勝ちだ」
周りの精霊から安堵の表情は消え失せ呆然と見つめ、リンは当然とばかりに腕を組みうなずいている。
「参りました降参です」
俺はその台詞を聞き拘束を解いて倒れている精霊に手をさし伸ばし立ち上がらせて問う。
「俺の強さは認めてくれたか?」
「ええ、認めます」
それを聞いた周りの精霊は「嘘でしょ……」「あり得ない……」などと言葉をこぼしていたが、しばらくしてその声は「魔法を使ってまで……」「卑怯なやつ……」などと否定的な言葉へと変わっていく。
それがあまりにも不快だったのでつい、イラつき気味に言ってしまった。
「ずるい汚いは敗者の戯言だ! 覚えておけ! それにお前らは俺を殺そうとしていたよな? 最初に後ろから攻めてきたムエタイ使いの突き……あれに当たれば確実に死んでいた。それに対して俺はお前らの命は奪わなかったぞ!」
堂々とした物言いにお母さん精霊が詫びを入れる。
「殺すような技は使うなとあれほど言っていましたのに……申し訳ありません」
「別に構わんよ……慣れたことだ」
「許していただきありがとうございます」
礼を言い周りの精霊に訴える。
「皆さん私はタクヤさんの言うことは正しいと思います。私達は闘いに敗れました、タクヤさんの力を認めるべきです」
お母さん精霊の影響力は強いもので渋々といった様子ではあるものの、誰も文句を言わなくなったから、リンを隣まで来させてお辞儀をしながら言う。
「これから、ドラゴンの討伐に参加させてもらいます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
すると、一か所で拍手が鳴り出す。それは少しずつ広がっていき、やがて大多数の精霊が拍手をしている状況となり、お母さん精霊は
「ようこそ、私達の村へ。特例ではありますが、あなた達を迎え入れます」
精霊たちは拍手で俺達を迎えてくれた。
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ここは決闘の終わった後の道場。
俺とリンはこの道場で寝泊まりすることが許された。
なんとかなるもんだな……
リンと並んで床に寝ころんだ俺は反省をしている。
森の深部では野宿するつもりだったが、ドラゴンと精霊の発見で寝る場所を手に入れた。
やっぱり俺は運がいいのかな
「タクヤ……」
「なんだ?」
寝てなかったのか
「明日からドラゴンの討伐で忙しくなるよね?」
「ああ」
曖昧に返す俺にリンは囁いた。
「無茶なことはしないでね」
俺のことが心配なのか? これまでにもリンのサポートが無ければ危ない場面はたくさんあったからな。心配するのも無理ないか。
「無茶はしない、約束するよ」
そう言うとリンは俺の手を握る。
「タクヤおやすみ……」
「ああ、おやすみ」
リンを不安にさせないくらい強くならないとな。
そう思いながら俺は瞼を閉じた。
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「おはようございます」
俺は道場にやってきた精霊に挨拶した。
道場では朝早くから子供から大人までの精霊が集い稽古を始める。
見回りなどの仕事は交代制になっているから、一日に稽古に参加しない精霊はいないらしい。
こうして日々の鍛錬を怠らないことで、強い肉体と伝統の技を磨きいざという時に備えている。
あ、プウさんだ
昨日の決闘の後お母さん精霊に名前を聞いたところ、プウっていうらしい。
俺の中でプウと言えば黄色い熊というイメージしか無かったから吹き出しそうになって危なかった。
昨日の事を思い出しているとプウさんは俺に気づいて挨拶をしてくる。
「おはようタクヤさん」
「おはようございます」
道場には数人の精霊が集まったところでストレッチをはじめだし、その時間帯に参加する全員が揃うのを待つ。
全員揃ったところでプウの掛け声で稽古がスタートする。
プウの仕事はこの村一番の強さを持つことから道場での他の精霊の指導をしたりすることらしい。だから毎日参加となっている。
俺とリンはというと、ドラゴンが現れるまでは自由にしていいと言われているから、精霊達の稽古する姿を道場の隅っこに座って見物している。
稽古が始まり小一時間ほど経ったところで、プウに呼ばれて俺達も稽古に参加することになった。
稽古の内容は組手中心で基本とかが一切ない。
相手を見つけては一本とるまでの組手をする。
基本をしないでよくもそんなに技を磨けるもんだな。
と思っていたところ、組手の相手ができた。
「私はこの村の七番手となっているアリサといいます」
「俺はタクヤだ」
「それでは、お願いします」
軽く挨拶を交わし組手に入る。
アリサはボクシングの構えを作り間合いを詰め右のストレートを繰り出すが、俺はその迫る右手を掴み勢いを殺さずに背負い投げをして床にたたきつける。
「うっ……」
衝撃で声を漏らすアリサの喉元に拳を軽く当てて今ので殺していたと合図をすると
「ま、参りました」
と目をパチクリさせながら降参した。
リンはどうしているのかと思い目を向けると、クウと絶賛キャットファイトなうのようだった。
あの二人は意外と気が合うのかもな……
リンとクウの様子を眺めていると先ほど相手をしたアリサから声をかけられ振り向いた。
「さっきの技は何ですか?」
この道場では組手の後にお互いにアドバイスし合ってお互いを高め合っているが、まさか人間の俺とアドバイスし合おうとするとはね。
マイナス思考気味な俺は赤面する思いになる。
そんな嬉しいような恥ずかしい気持ちで俺はさっきの技を教えた。
「さっきのは背負い投げといって、柔術の一つだ」
「柔術?」
え、知らないの?
確かに柔術を扱っている精霊は見ないが。柔術自体が存在していなかったとは。
「柔術ってのは、相手を殺さずに捕えたり、身を守ることを中心とした技をまとめたものだ」
そう説明されたアリサは興味深そうにしているから、背負い投げのコツを教えてやると嬉しそうに礼をして他の相手を探しに行った。
こういうのも、悪くないな……
道場で組手をする機会があると知っていたのなら、もっと真面目に稽古に励んでいただろうに。
と後悔する俺がいた。




