28話 キャットファイト
ここからは俺の出番だな。
そう思った俺はリンに落ち着くように言って座らせ、俺もその場に座る。
「すみませんね。お礼をしたいと招いておきながらこの仕打ちは本当に……」
「いえいえ、いきなりここにやってきた私たちにも非はあると思います」
腑に落ちないといった様子のクウを他所目に会話が始まる。
「ですが、ここは精霊の住処です。あなた方がこの場所を誰にも話さないと誓われるのなら他の者には村を救ってくれた英雄と言うことにして、生きてお返しいたしましょう」
どうですか? とばかりに上から物を言う精霊。
「私たちはこの場所の存在を外には漏らさないことを誓いましょう。それに私は魔王の敵でありながら、人間の敵でもあります」
「ほう……不思議な方ですね……それを信じるとでも?」
「ではこうしましょう。私たちがこの近くにくるドラゴンを退治するというのはどうでしょうか? 元々この森に住まうつもりでやってきましたし。ここで生活させて下さればいずれ信じらずにはいられなくなりますよ」
「軟弱な人間に……ふふふ、面白いですね。ここに居座ることを許可します。ただし先ほどルウの話した程の力が無いと判断した時点で抹殺させていただきます。この取り決めは村の全ての精霊に伝えますので気兼ねすることなく生活してください」
「感謝します」
妙な取り決めをしたところでクウが割って入った。
「お母様、納得がいきません! すぐに殺っちゃいましょうよ」
「今の話がわかりませんでしたか?」
母の言うことに逆らえずにグヌヌとこらえるクウ。
それを見て「絶対に何処かで邪魔されるな」と確信できる。
そう思ったさなかことは起きた。
「私と決闘なさい!」
そのセリフに場の皆が氷ついたが売り言葉に買い言葉、「上等じゃねえか」と返してしまい慌てたが、もう遅かった。
家にいた全ての者は外に出る。
「さあて、やってやろうじゃない」
と気合十分なクウの前に俺は立ち、かかってこいと挑発する。
そこで、クウは疑問を口にした。
「え? なんで人間の方がくるのよ? そこの魔族あなたよ!」
その台詞を聞き俺は「え? 俺じゃないの?」と皆の顔を見て回るが、クウとそのお母様は「お前じゃねーよ」といった顔をしているから皆に聞こえるように「俺がドラゴンを倒しましたよ!」と言うが「寝言は寝て言え」とでも言いたげな雰囲気になったから渋々リンと交代する。
悔しいところだがここは我慢しよう、きっとリンがやってくれるはずだ。
俺はルウとそのお母さんが並んで座っている大きな岩のリンと交代して余ったスペースに座る。
「冗談がお好きなんですね?」
お母さん精霊が話かけてくるがクウの正面に移動したリンが俺に顔を向け親指を立てて顔をキリッとさせているからお母さんの言葉に笑みで返す。
「開始の合図をしてあげては?」
「それもそうね……二人とも頑張ってね!」
……今の合図か? まさかな……頑張ってねが合図なんてないよな?
そう思った時に始まった。
早速始まった決闘は魔法のぶつけ合いになると思っていたがそうはならなかった。
リンは手に魔力を集めていくがクウは何処かで見たことのある構えをとった。
「あの構えは……」
そう口にした時にクウは地面を蹴って飛び込む。
「ムエタイか!?」
リンはいきなり懐に飛び込んで来られて反応はするもののクウの右肘がリンの胸の下の溝にめり込み吹き飛ばす。
それにしても何か妙だったな。あれくらいのスピードならリンは魔法で凌ぐことくらいたやすいだろうに。
開始して一分も経たないうちに吹き飛ばされた私は痛む胸の下を押さえ苦痛の表情で立ちあがる。
「何なのよもう」
別に集中していなかったわけでもない、なのにいつの間にか懐に入られていた。
出方を見ている暇はなさそうね……
手段を考えながら魔力を集める。
クウはまた今までに見たことの無い猫のように両手を頭の前に置いた構えを作り動かない。
何かをされる前に終わらせよう。
そう思い右手を出し魔法を放とうとしたときには、またクウに懐への侵入を許してしまい、今度はクウの膝が横腹に食い込みタクヤのいる岩の近くまで吹き飛ばされた。
「うう……」
「おいおいなんだよこの種族は」
「勝敗は見えましたね」
リンじゃ勝てなさそうだな……
「やはりドラゴンを倒したのは嘘でしたか」
「いや、嘘じゃない。今のリンには相手が悪いみたいだな」
「はて、この惨状を目にして嘘でないと?」
「ああ、ドラゴンなんてもんは強い魔力をぶつけるだけで倒せる……が、今相手にしているのは武術の達人だろ。あんな図体の大きい獲物にたいして、素早く小回りの利く相手だ、違いすぎる」
「あの子はこの村でも五本の指に入るくらい強くなりましたからね」
あの強さの納得がいったわ
「さっきもリンが懐に入るのを許していたが、あれだろ? 微妙な重心移動と鍛え抜かれた体幹を最大限に生かした動きだからあのスピードでも簡単に懐に潜れるんだろ?」
古武術とかいう日本武術の特殊な移動技みたいだな……あれってムエタイの構えからできたのか……
ちなみに俺の父親が武道に精通していることもあって、小さい頃からそう言った技があることは聞かされていた。強制されなかったから俺は武道なんて、かじる程度にしかやったことないけどな!
「よくご存じで」
「まあね、俺もけっこう強いよ」
とは言ってみたもののお母さんは「フフフ」と笑うだけで相手にしてくれない。
諦めてリンとクウがどうなったのか気になり目を向けるとリンは捕まっていた。
あれはプロレスで言うと十字固めだな。
リンは苦痛の表情を浮かべながらも必死に抵抗し振り払おうと試みているようだが、リンよ……それはそう簡単には抜けられないぞ。
クウがリンの首と胸に両足を乗せてリンの右腕を引きちぎらんとばかりの勢いで両手で掴んだ腕を引き伸ばす。
「いやああああ」
涙を浮かべてジタバタと悶えようとするが完璧に技が決まっており動けずにいる。
そして数秒が経ちもう一度クウが力を加えた時、ボキッと鈍い音が響いた。
「ああああああああ」
「お母さま、速く止めないと……腕折れたんじゃ……」
リンの絶叫を聞き中止を呼びかけるルウにお母さんは
「まだ終わってませんよ……降伏、または意識を手放したときに決闘は終わります」
冷たく言い放たれた言葉にルウは黙り込む。
「リンは強いから大丈夫だよ……」
大丈夫だよな? 頑張ってくれるよな?
そう思ったときリンのお尻の下の地面がじわじわと湿っていくのが見える。
それを見たクウは「お、お漏らしですか!? 汚いじゃない」と笑いながら技を解いて離れた。
リンは折られて右腕を左手で押さえ涙を払いゆっくりと立ちあがる。
丁度俺に背を向けている位置にいるから漏らした跡がくっきりと浮かんでいてそれを見た隣の精霊共は可哀想な者を見るようだった。
「よくも……よくもタクヤの前で……恥を掻かせてくれたわね……」
涙涙に言うリンの小者臭満載な台詞を聞き俺の背中に悪寒が走った。
あ、クウの命はこれまでのようだな。
そう思った時リンの体内から大量の黒い魔力が吹き出して、突風を起こし木々を揺らす。
「タクヤの前で恥をかかせた罪はとても重いの……」
思い出せばリンと出会って間もないころ、リンのステータスに魔力解放とかいうスキルがあったな。
吹き出る魔力は収まることなくリンを包み、黒いベールを纏っているようだ。
それを見たクウは呆然と「な、何ですか……」と言いながら突っ立っている。
そんなクウにリンは容赦無く今までされたように正面から突っ込みクウの胸の下の溝に肘をめり込ませて吹き飛ばす。
肘がめり込む瞬間にクウの背中から衝撃波よのうな空気の揺れが見えたことから、肘で胴体に穴でも開けるくらいの勢いがあったんじゃないかと思える。
俺の隣に座る二人は事態の変化に両目を見開いている。
リンの速さに圧倒されたのだろうな。
今までのクウのスピードを自転車と例えるなら、今さっきのリンの速さは新幹線だな。俺も残像がちょっとしか見えなかった。
なんとか立ちあがったクウにまた一瞬で間合いを詰めて脚を払い仰向けに倒す、リンはその上にまたがり、左手でクウの首を掴み固定して余った右腕には魔力を集める。
クウは首を押さえる手を両手で掴み振り払おうとするがびくともしない。リンは魔力でステータスを上げているのだろう。
最初は足をバタバタと動かしていたクウだったが力が抜けたように動かなくなるシャーという音が聞こえ出し地面を濡らす。
「あれあれ? お漏らしですか? 汚いですね?」
リンがそう言った時にはすでにクウは意識を手放していた。




