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19話 リンのたたかい

  ————六百メートル先南西方向に人間の魔力元を感知。


  救世主達もこっち近づいてきてるから後一分もしないうちに遭遇するわね。


  「タクヤの期待に応えないと……」


  上がる鼓動を抑え、ポケットに手をいれ中にある物を触りながら走る。


  無いとは思うけどもしもの時は食べないといけないのよね。


  私のポケットには五等分に切り分けられたタクヤの腕が入っている。これはタクヤが私の身を案じて渡してくれたもの。心配性なタクヤに魔力切れを起こした時に食べろと言われたけど、あまり気が進まないのよね。なんかタクヤを食べていると感じてしまうから……。でも私は生き残らないといけないからね、我慢するわ。


  さて、そろそろ始まるわ……愛しのタクヤを裏切った連中を葬る時——じゃなかった、魔族の救出が。


  決意を口にしていると、まだだいぶ遠くに見えるが一人の魔族が刀を持った人間に襲われかかっているのが映った。


  危ない!


 そう思った時には一番使い慣れた魔法を完成させ放射していた。


『雷光』


  高温のレーザー状の雷が光の速度で一直線に人間の胴体を目標に放射される。

  この魔法を視界外から放たれてそれをよけることができるのは高度な魔力感知を持つ者か思考速度を上げることができる者、或はただ運がいい者だけだと思っているが故に、今放った魔法は確実に武器を振り下ろそうとしている者の胴体に風穴を開け、魔族を死から救う未来を予測した。

  が雷光は的を外れ遠くに建つ建物を轟音と共に破壊したが人間はそのまま何事もなかったかのように、武器を振り下ろし魔族を両断した。


  たいがいの魔族の皮膚は人間よりも強固なもので刀で一刀両断なんてそうとうな腕が無いとできるはずもない。がそれを簡単にやってのけた人間と今から魔族を守りながら戦うことになる。その人間は刀の技術を持っていながら雷光をかわすだけの魔法を隠していることがわかった上に今は姿こそ見えないが近くにもう一人いることも知っている。


  とりあえず体中に魔力を纏い運動能力と防御力を向上させ様子をみる。

  さっきの雷光を放ったのが私だと気付いた人間は逃げ惑う魔族への攻撃を止め顔をこちらに向けたまま動かない。


  まだ距離があるから表情を確認することはできないが、伝わってくる殺気は並のものじゃないことは明白だ。


「さて……私が魔族の逃げる時間をつくってあげる……」


  私は小さく呟き手のひらに魔力を込め連続で雷光を放つ。

  魔法は人間の脚、腕、胴体、首と様々な場所をめがけて放たれたがすべての雷光は外れ奥の地面や建物などを破壊する。


  なんでよ!


  人間はまったく動いたようには見えなかった、それなのに雷光は外れる。


「まさか、タクヤが言っていた固有魔法ってやつが関係してるのかな? 種類が強化系なら、私の認識できないくらいの速さで避けたのなら辻褄が合うわね……」


  相手が認識不可能な速さで行動できるのなら私に勝ち目など存在しない。

  だが、まだ確証がないしこのまま引けばタクヤになんの情報も与えることができないのは気が引ける、だからもう一人を探す。


  ——私から見て南東側の建物の影に魔力元。


  魔力感知で二人目の場所を特定したとき、さっきまで動かなかった救世主が刀を構えこちらに走りだした。


  まずはこいつの処理が先ね——遅い……。雷光を避けるスピードで動けばこの間合いも一瞬で詰めることもできたはずよ……まあいいわ魔法を使われる前に終わらせる。


  まだ距離が十分にあるから私は右手を前に伸ばし短く詠唱する。


「悪魔の心臓を貫く数多の光『拡光槍』」


  手に集まった光の粒がいくつもの槍の形状を作り飛んでいく。

  一点集中型の魔法はスピードの速い奴には意味が無いとふんだ私は拡散型の範囲攻撃で敵の動きを鈍らせ、隙ができれば一点集中型の一撃必殺で終わらせるこれが最善手だと思っている。

  救世主にはやはり魔法が当たらない。当たりそうなところまで飛んでいくが槍は救世主には当たらず後ろの背景に飛んでいく。


  避ける動作を視認できないが、左右に跳んだりバックステップを踏んだりしなら走ってくるから避けずらい角度があるのかな?


  だから槍は向かってくる救世主の逃げ場をなくすように放たれ、時にストレート時にカーブといったフェイントを混ぜた攻撃を繰り出す。

  その間も右手で槍を連続で作り飛ばし続け、余った左手には強い魔法をいつでも行使できるように魔力を集める。

 数秒間の攻防の果てに救世主との距離もだいぶ詰まり元々あった距離が半分以下になり表情を確認できるくらいになった時に勝負を決める一手を打った。


『散雷』


 その一言で今まで放たれていたすべての槍が一瞬のうちにバラバラに崩れ散弾のごとく四方八方へと撃ち込まれた。


  避けて後ろに飛んでいった槍が真横にある槍が、目の前の槍が、かわすまでもなく標的から大きく外れた槍が一斉に小さな拡散弾となり救世主を襲う。逃げ場を完全に潰した攻撃これを避けることは不可能、だから左手に集めた魔力を解放する。


無限光粒砲アンリミテッドシャイニング


  死の宣告を下すかのように放たれた光のレーザーは地面を削りながら進み散雷で動きの止まる直前の救世主を襲おうとしたとき。


  もう一人の魔力が消——後ろ!


  建物の影に隠れていた、いや攻撃のタイミングを待っていた救世主の魔力が一時的に消え一秒も経たないうちに真後ろに移動していた。

  魔法を放つ時に生まれる隙を狙った完璧なタイミングでの奇襲……普通の人間なら絶対にかわすことはできないだろう……だが


 私は魔族であり魔王の娘、その程度の奇襲なんてたやすくかわせるわ。


  私はしっぽを地面にたたきつけ反動で左前に跳び、案の定攻撃を仕掛けていたもう一人の救世主の曲刀の斬撃をかわし体ごと振り返ると同時に左手で放ち続けているレーザーを薙ぎ払うように横に動かし周りの建物を破壊しながら軌道を変え、そのまま攻撃後に固まったままの救世主に向ける。


  散雷で動きを止めた救世主に当てることはできなかったが散雷でも十分だろう、もう一人のほうはこのレーザーで仕留める。


  とっさではあったが問題なく救世主の抹殺ができると確信しての行動だったが


「ん?」


  救世主は無限光粒砲を目の前にして笑みを浮かべると何も無い空間がわずかに歪みレーザーを吸い込んだ。

  そして救世主は口を開く。


「退くぞノブアキ、あいつらと合流だ」


  返事を待つことなく二人の足元に魔法陣が現れ魔法を行使した。


『転移』


 そう唱えると二人の姿が消えた。


「逃げられたわね……」


  一人取り残された私は一度も攻撃を当てることができなかったことに落ち込みそうになるが、やつらの言葉を思い出し焦る。


「タクヤが危ない!」


  そう思うとすぐに動く。


『瞬雷』


  脚に雷を纏わせ移動能力をを引き上げる。


 待っててねタクヤすぐに行くから……


 私はタクヤの戦っている場所を目指し走りだした。




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