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1話 召喚

「うっひょひょーい!テンション上がるわぁい!」


 季節の変化で少し肌寒くなりつつある朝の街、一人大声ではしゃいでいる俺、三木タクヤは周囲の人々に冷ややかな視線を向けられるのも気にせずに走っている。

 向かう先は学校だ。今日はこれまでの人生16年間の中でも最も特別な日となっている。


  俺、今日好きな子に告白されます! そして大人の階段上ります! 応援よろしく!


 最近、俺の運は最高潮だ、自販機の前で100円見つけたり、パ〇ドラで星6キャラ当たるし、好きな子に手紙で呼び出されるし♡


 お父さんお母さん今まで僕を育ててくれてありがとぉ、俺は幸せになってみせるぜ☆

 これより俺のバラ色学園生活が始まる!



ガシャン



 うかうかしていた俺にマンションから落下してきたなにかが俺の頭に当たった。


 花瓶……か……。


 一連の流れを見ていた人間の作り出す荒らただしい雰囲気の中、花瓶に生けられていた血のように赤い花を横目に俺の意識は遠のいていった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「彼らには申し訳ないことをしたと思っている」


 照明の機材が一切なく暗く静寂を保った無駄に広い部屋に一人の老人の言葉が響いた。


「それでは始めようかの、人類の希望の召還を」


 老人の言葉を受けると同時に部屋いっぱいの地面に描かれていた一つの円型のなかに複雑な記号やら図形が描かれた模様が光り輝く。


「これで世界に平和が訪れる日にまた一歩近づいたのう……。彼らにとっては大きな迷惑じゃろうが……是非私たちの力になってほしいのう……」


 力の無く発せられた老人の言葉を最後に模様の輝きは消え、その部屋は再び闇が訪れた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「知らない天井だ……」


 意識が覚醒した俺は上半身を起こし周囲を見渡すがここがどこなのかさっぱりわからない。


 病院とは思えないような部屋だな。


 周囲を見渡し終えて気づいたことは。この部屋は広すぎている、周りにはぽつぽつと人が地面に寝転がっている。


 わけが分からない……何故こうなった? あそこで寝ている奴らはなんなんだ?


「イッツ……」


 混乱していたせいで今頃になってやってきた頭痛に頭を押さえながら立ち上がり一番近くで寝転がっている奴に声をかけてみたが反応が無い。


  死んでいるのか? いや、呼吸はしている眠っているだけか……よかった……


「おい! そこのあんた!」


 ホットした間に俺は急に呼びかけられ、それに驚きながら振り返るとそこには剣幕な表情をし、俺と同じくブレザータイプの学生服を身にまとった背の高い男がいた。

 一応俺に対して言ったのかを周りを見て確認して応答する。


「なんだ?」

「あんたはここがどこだかわかるか?」

「いや、わからない……おまえはわかるか?」

「知ってたらきかねーよ」

 

 ……それもそうだよなぁ、知ってることをわざわざ聞いたりなんかしないか。


 そう思いながら短く切られた後ろ髪をかきむしるその男を観察する。


「あんたはここに来る前に何をしていた?」

「俺は頭を打って意識がなくなって気がついたらここにいたぞ」


 俺の情報の詳細を細かく語る趣味は持ち合わせてないからいいよね? 嘘はついてないよ?


「そうか……あんたもそうだったのか……」

「あんたもってことはおまえも意識がなくなったらここにいたのか?」

「ああそうだよ。俺は火事に巻き込まれて意識を失った」

「へー、そうなのかとても気の毒だなご愁傷様です」


 ん? なんかおかしくね?


「あのさ……俺たちって死んでるんじゃね?」

「あ? そんなバカな話があるかよ。死んでたら話すことできねーじゃん」

「よく考えろよ。普通火事に巻き込まれて意識失ったら死ぬって。俺は一瞬で意識を失えなかったから死んでるだろう」

「あ……」


 やっと気づいたか。


 ここでもう一度周囲を見渡すとまだ数人だが、さっきまで寝ていた奴らが起き上がり状況を把握しようとしどろもどろになりながらもコミュニティを作りあっている。


「みんな俺達のように意識を失ってからここに来たのかもな」


 勝手に予測したことを言いながら男に向き直るとその男から焦燥の色は消え表情は比較的穏やかに変わっていた。


「そうかもな……おっと、焦りすぎてて名乗り忘れてたぜ、俺の名前は如月ユウだ。高校1年だ気軽にユウって呼んでくれ」

「了解したユウ。俺は三木タクヤ、俺も高校1年だ。俺もタクヤでいい」

「よろしくなタクヤ」

「こちらこそよろしく」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて……そろそろ2時間くらい経つのだが……」


 身につけていた腕時計を見つめ時間を確認し部屋中を見渡すが寝ている人は一人もいない。


「おい、タクヤあそこの壁が扉みたいなものに変わっているぞ」

「ああ、気づいている……怪しいな……」


 今までに分かったことはこの場所に来るまでに所持していた物は身につけていた物以外は何も持っていないことだけで、部屋中の人は起き上がったが状況は変わってない俺たちは部屋に放置されたままだ。


 おかしい、このままだと何もわからないし変わらない。


 この広すぎる部屋は学校の教室16部屋を合わせたくらいの広さをもっている。そして中にいる人は俺を合わせて25人そして全員知らない人でそのほとんどが学生服を着ている。


 皆が皆、誰かこの状況について教えてくれと思い出したときに、扉から白髪で飾り気のない服を着たおっさんが現れ皆が注目する中コツコツと歩き部屋の中央で立ち止まる。するとおっさんはマイクを通したような声量で俺達に語り始めた。


「訳があって言葉を発することができないようにさせてもらった」


 おっさんの第一声に驚き試す。


 あ……ほんとだしゃべれねー


「えー、本日は突然な呼び出し誠に申し訳ないと思っておる。今、皆はきっと混乱していることじゃろう、なんせ意識を失って目を覚ましたらこのただ広いだけの空間に閉じ込められていて、意識を失う前には死を体験されているのじゃから」


 誰だ? このおっさん……


「教会の者が協力して皆を呼び出すことに成功したのじゃ。我々の目的は一つじゃ……君たちに世界を救ってほしいのじゃ」


 ここにいるすべての人が呆けた顔をしている。


 ま、それもそうか、死んだと思ったらおっさんに世界を救ってほしいなんて言われたら呆けちまうわ。


 そして真顔のおっさんは続ける。


「おぬしらは死んでおるがために元の世界には戻れんのじゃ。よっておぬしらの選択肢は二つじゃ。

 一つ目は、これから強いステータスを得た上で世界を救うこと。

 二つ目は、この部屋で死ぬことじゃ」


 どっちも不幸話じゃないか! 俺の最高潮の運はどこにいったのよさ。


「さて、これから皆が向かう先の事を説明しよう。 そこは、魔族に支配されかけている場所じゃ。そこには魔力が存在し、その世界の人は誰でも使えるのじゃ、じゃがその世界で魔法は基本的に個人の特性にあったものしか使えないのじゃ。

 つまり、普通は1人一種類の魔法だけじゃたまにイレギュラーも存在するがのう。

 何故俺らが? と思っておるじゃろうから説明するのう。おぬしらの世界の住民はこちらの世界の住民よりステータスの上昇率が高いことが判明したことと、魔力と肉体が絡み合いやすいのじゃ、よって我々の世界の人よりも強力な魔法を行使できるようになるのじゃ。これは魔族に対抗するために取れる最終手段だったのじゃ」


 ……あんまりじゃないか? これから戦いの日々が始まるのか? 辛いなぁ


 率直な感想が頭を巡るなか、おっさんの真顔を消えニヤけた面に変わっていた。


「おぬしらには魔族を倒して人類の平和な生活を作ることに協力して欲しいのじゃ。それではファイトじゃよ!」


 その言葉を最後に白髪のおっさん元来た扉の向こうに行ってしまった。


「「「………………」」」


「また、放置されたな」

「そうみたいだな……とりあえず俺はおっさんについて行ってみる。タクヤはどうする?」

「そうだな……俺もついて行くことにするよ」

「了解! んじゃ、一緒に行きますか!」

「おう!」


 俺は扉のノブをまわして開けてみたが扉の向こうは白く染まっていて見えない。


「なんだ、これは?」


 扉を開けば壁、そう見えていた。

 だがしばらく観察していると


「壁にしては何か違うな」


 この部屋の周りの壁と扉を開けて現れた壁を比較してみると少し色が灰色に近いし、なにより平面ではなく少し、ほんの少しだが膨らんだり引っ込んだりしている。


「白い膜のようなものが張ってる」


 そう結論づけた俺はそっと膜を触ろうと試みて右手を出すと触ろうとしたが右手は壁にめり込むように手首から先が膜の向こう側へ消えていた。


「て、手が……大丈夫か!?」

「大丈夫だ、手はちゃんとつながっているみたいだ、感覚が残ってる」

「そ、そうか。安心したぞ」


 心配させんじゃねーよと軽く叩き安堵の息を漏らしたユウに少し申し訳なく思うがこれが俺クオリティー。


「それで、手はどんな感じだ?」

「ああ、なんだか手だけが別の空間にあるみたいだ」


 実際に俺の右手は風の吹きつける感覚を味わっている。

 右手だけが影響を受けて俺の胴体には風を感じない。

 そして腕を膜から引っ張り抜こうとしてもびくともしないがその逆はできる。

 そこまでの状況なら取れる選択肢は一つだ。

 意を決した俺は高らかに笑いユウに告げた。


「というわけで行ってきます!」


 ユウの返事を待たずに俺は膜の向こうへと吸い込まれるように踏み出す。


「あー、待てよ! 俺をおいて行くんじゃねーよ」


 後ろでわーわー言っているが無視。

 顔が膜に当たるときに視界が白く包まれる、あまりにも眩しさに目を閉じるが足は止めない。やがて眩しさから逃れた俺は閉じていた目を開け俺は。


「…………なんじゃこりゃあああああああ!」


 これでもかと思うほどの絶叫を繰り出し、俺の二回目の人生は戦いの日々へと変わっていくことになった。



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