18話 そっちがその気なら……
「人間と協力はできない」
イスカルからそう言われ俺は絶望した。
このままではこの町を守れないことに。
まさかここで断られるとは思ってもいなかった。
「な、ならどうやってこの町を守るんだよ!」
つい投げやりな口調になってしまう。
「援軍を……要請する……」
その言葉を聞くなりリンが問いかる。
「あなたは戦うこと好き?」
その言葉どこまでも冷たく言い放たれ、部屋中を凍らせるようなものに俺は感じたが、イスカルは何も感じなかったのか、変わらない口調で答えた。
「あまり好きではないな……」
やはり、その言葉。魔族は戦いを好まない。知っていたよ。
だから俺は引く、普段は戦いを好まないが守るために自分達の力だけで戦うことを決意しているんだ。もう交渉はできない。
「そうかよ……」
そう言いながら俺は席を立ち帰ることをアピールするとその動作を見てイスカルは立ちあがり礼を言ってきたので軽く笑って見せる。
「後で後悔しても遅いからな……」
そう言い残し建物を後にした。
その後、俺達は当てもなくただ町をさまよう。フードを深くかぶっていることもあって周りの魔族は俺が人間とは思いもせず何気ない日常を送っている。
横に並んで歩いているリンは何か言おうと顔を上げては下を向き俯くを繰り返していた。
小一時間くらいたった時リンは何かを決心し口を開いた。
「ねえ、このままでいいの?」
その言葉は責めているような口調に近かったが言葉の裏に心配が隠れていることはわかっている。
そして、勿論このままで良いわけがない。だから俺は考えている、どうするべきかを。
このまま帰ることはできない、かといってこの町に滞在するための金もない、さっきの交渉が成立していればこうなることはなかったと、他に良い方法があったのではと悔やんでしまう。
そして思いつく。
「俺達は勝手にこの町を救ったって事にしたらどうかな?」
「…………いいと思うよ」
だが救世主が今どれくらいの強さを持っているのかを知らない以上、この手は確実性が無い。そのことはリンも重々承知しているだろうし、いつ来るかもわからない敵を待つのはかなり疲れる。
たしか、ここに来る前、アールスはかなり騒がしかったな。
もしも騒がしい原因がバルシオン奪還作戦の決行前日のパレードだったとしたら後二日もしないうちにこの町に救世主がやって来て、この町にいる魔族は殲滅されるだろう。
敵はすぐに来る……俺達にできることはと言えば二つ。
一つは新しい植物の知識を得ることだが、そんなに都合よく特殊な植物が生えているわけもなく諦める。
二つ目なんだが……これはリン次第ですぐにできることで、今は何もせずに救世主が来た時にするのが一番効果的なためその時を待つ。
本格的にすることがなくなったな。
日もだいぶ傾き夕方に見える赤い太陽をじっと眺める。
そんな時リンの声で我に返った。
「タクヤ、何かおかしい……空気中の魔力の流れが変化したの」
ん? 何それ? 空気中の魔力の変化なんて感じ取れるものなのか?
魔族ってすごいなーと関心していると俺の魔力サーチが異変がを告げた。
——町の南側に二つ北側に二つの大きな魔力反応が合計四つ。
「リン、救世主が来た!」
リンは分かっているとばかりにうなずく。リンの目は俺の指示を待っているようだった。
よし、冷静さを保っているな……
その事を確認し俺は自分の腕を切り取り、五等分に切り分けながらリンに言う。
「救世主が四人で二組に分かれて攻めてくるのは想定済みだ……だから俺達も二手
に分かれて一対二で対処する。
救世主の強さは分からんから勝てないと思ったらすぐに合流し二対二で確実に倒す方法に変更、これでいく」
リンはうなずいて聞いていたが俺の行動に疑問を持ったのかすぐに動こうとしなかった。
「よし、完成だ……」
俺はそう言いながらバラバラになった腕を集めリンのポケットに忍ばせた。
「いいかリン……これには大量の魔力が詰まっている。もし魔力切れが起きた時に食べるんだ……いいな?」
そう俺が言うと最初からわかっていたのか聞き終わる前から嫌そうな表情だったが、俺の死なないで欲しいという願いが伝わったのかすぐにうなずいた。
「よし、行動開始だ! 俺が南を担当、リンは北だ! 魔族の安全を最優先すること、守るためであったら救世主は殺しても構わない」
「了解!」
リンは走っていった
「よし……と」
俺は切り取った腕を生やし、ちゃんと機能することを確認し町の南へ移動を開始しようとしたとき、大地が激しく揺れ体勢を崩した。
「おっと」
数秒間による地震のような揺れが収まり、何事かと辺りを見渡し観察すると、建物が崩壊し砂埃が舞う中、周りとは明らかに違う魔力を持った二つの人影が揺らめいている。
その影がふとブレルとその近くにある人影が崩れ落ちる。
そして周りの人影は次々に散っていくが、二つの人影に追いつかれて動かなくなる。
やがて建物の崩壊が終わり、舞い上がった砂埃も晴れたところで影の正体が二人の人間であることを視認し、それが救世主であることを理解した。
それにしても早すぎる。
この町は中心から端までは五キロメートルはある。奴らはその距離を数分で移動したという事になる
そんなことを考えていると俺の近くにいた武器を構えた魔族の肢体が切り裂かれた。
刀を持ち魔族を切り裂いた本人と視線が交わったときやばいと思った俺は体を曲げ回避行動をとったがその時には俺の左腕が宙を舞っていた。
んっ!
とっさの出来事に驚きながらも地面に仕込んでいた移動用大樹を使い距離をとる。
「お前は逃げないんだな……」
ニヤニヤとしながら話かけながらゆっくりと後ろから歩いてくる人間に無視をきめどう対処するかを考える。
まだ太陽が沈んでないから魔力は無限にあるがそれでもこのスピード焦らされる。
追いつけないわけではない、だが気を抜くとポロッとやられてしまう。
それに相手は二人もいる……気を引き締めなくては。
そして俺は観察する一人は腰に刀を下げている、もう一人は武器のようなものは持っていない。
「あいつは今まで見てきた中で一番強そうだ……俺が相手をするシンは手を出すなよ」
「ああ、わかったよコウヘイ」
「じゃあいくぞ魔族! 死ね!」
コウヘイと呼ばれた救世主は拳を作り突っ込んでくる。
俺は地面を軽く踏み俺とコウヘイの間を大樹で塞ぐ。が何事もなかったかのように作った拳で大樹を粉砕した。
「残念だったな魔族」
そう言いのながら拳を振り上げ、間合いを詰め振り下ろす。俺はその拳を片手でいなし、瞬時に地面から生やした無数の根でコウヘイの体を貫き、身体の自由を奪った。
「ぐああああ」
コウヘイは体を貫かれ悲痛の声を上げる。
「残念だったな……人間」
まあ、俺も人間なんですけどね。
コウヘイが体を貫かれたまま拘束されている姿を見て、シンは「馬鹿な……」と驚きながらも、刀を鞘から抜刀した。
すぐに俺に切り掛かってくると思ったがその場で中段に構えたまま動かない。
詠唱しているのか。
シンの周りに魔力が集まるのを感じ、詠唱の終わる前に大樹で攻撃しようとしたが間に合わない。
「荒ぶる大地よ我にその力を示し邪悪を滅ぼせ!『崩壊振』」
シン詠唱が終わり、集まった魔力が散乱すると、目の前まで迫っていた大樹が粉々に粉砕された。
「ッ————」
奴の魔法が何なのかわからないが、攻撃の手を休めない。
『弾樹』
俺は右手を向け大量の樹の弾を打ち込み続けるが、シン目の前で粉々になってゆく。
そして、シンは構えを崩し詠唱をしながら走ってくる。
詠唱をしている間も魔法の効力が切れたわけではないのか。
俺の使う魔法は例外なく粉々になる。
そして間合いが詰まったときシンは上段に構え直した刀を振り下ろしながら詠唱を終え、魔法を使う。
『破壊振』
魔法を使ったが刀身には変化が見られない。振り下ろされる斬撃をぎりぎりでかわしたときに確認し距離をとろうと地面を蹴ったとき、地面が揺れ体勢を崩した。
「もらった!!」
この致命的な隙を突くように振り下ろした刀を横に薙ぎ払う、とっさに大樹を地面から生やしガードを試みるものの甲斐なく俺の胴体ごとスパッと両断した。
「早く、コウヘイを助けないと……」
俺が両断されるのを見たシンは背中を向け納刀した。
俺の血が飛び散っていないということに違和感は無いのか?
俺は即座に胴体を再生させ、大樹を使いながら脇腹に回し蹴りをぶち込み吹き飛ばす。
「ガハッ……」
吹き飛ばされた先には先ほどセットした大樹があり、その大樹には根が針のように生えている。
シンはいきなり吹き飛ばされたことに何をされたのか把握すらままならないまま大樹にぶつかり、尖った根に体を貫かれ血まみれになり大樹に張り付いたまま動かなくなった。
けっこう危なかったな……それにこいつらの固有魔法はなんだったんだ?
まあ、俺の持っているステータスプレートで調べれば済むことなので、俺は未だに意識を残したまま拘束されているコウヘイに歩み寄った。
明けましておめでとうございます
これからも「様々な魔法の中の植物使い」をよろしくお願いします




