12話 魔族の町
視界は闇に包まれていた。
教会の地下で転移魔法陣に魔力を流し転移した俺達の視界は一瞬で変わり目の前にあったはずの壁と灯りは無くなり、何も見えないが、リンが隣にいることだけが繋いだ手から伝わってくる。
「暗いな……」
ぽつりと呟く俺、そして俺の隣にいるリンの詠唱の声が聞こえた。
『灯火』
詠唱を終えたリンの指先を中心に小さな火が灯るとそこら一体の空間を明るくする。そしてある程度の視界を取り戻した俺とリンは辺りを一瞥し状況を整理する。
とりあえず転移に成功したみたいだな。そして今いる場所なんだが……
ここは……倉庫か物置部屋か?
目に映ったのは埃を被った道具や箱などの大量の物が乱雑に置かれている光景だった。
「埃っぽくて咳がでるな……」
「こんな場所早く出ましょ……」
部屋は長い時間放置されていたためかひどい異臭が散漫して虫の死骸とかも落ちてたりする。
意外と広い倉庫のようで、出口を探すのに数分の時間を要し一つの扉を発見した。
扉の隙間からは光がはみ出しており扉の向こうが屋外であることを予想させる。
——魔力
リンが扉を開こうと手を掛けたとき扉の向こうに複数の魔力を感知し、リンを制止させた。
「魔物とは別の魔力を感知した魔力の量的におそらく魔族だ……どうする?」
リンは気にした様子もなく余裕の表情で俺に大丈夫と告げ扉をバンッと開く。
「「「…………ん!」」」
すると辺りは静まり返り俺達に目が集まる。どうやらここは町の広間のようで多くの魔族が集まっていた。
視界に入る魔族の全員が人間よりも耳が長く背が低いため種族は同じと見て取ることができる。
ゴブリンの上位種か?
ゴブリンの特徴である背の低さと耳の長さから予想した俺だったが俺達を見る目の多さに肩を震わせ、とっさに数歩後ずさった。決してリンの後ろに隠れたわけじゃないんだからね、勘違いしないでよね。
そして集まった魔族達はひそひそと何かを話している。
会話の内容が伝わってくるから人間と使う言語は同じみたいだな。
「に、人間だ——」
「何故こんな場所に——」
「早く——」
会話の内容と場の雰囲気から察するにとても友好的には思えない。
不安を覚えた俺はリンの様子を窺ったが。
余裕の表情で扉を開けたリンはまだ何も言わずにただ立ち尽くしている。いや何かを待っているようにも見える。
リンがたくましく見えるそんな時ざわつく有象無象の中から拳程度の大きさの岩石が飛んできた。とっさの出来事だったが手から生やした根で岩石を貫き粉砕させ身を守りリンに小声で話しかける。
「リン……攻撃されたどうすればいい?」
攻撃してきた魔族は予想外な結果になったのか唖然とし立ち尽くしているようだ。
「……何もしないで」
そう言うリンは平然とした様子で騒ぎを嗅ぎ付け集まり続ける魔族を見ている。
それから数秒経過したときリンは集まった魔族達に語りだす。
「私たちは、世界の平和を願ってるわ。私は人間との共存する世界を目指し旅をしている」
半分真実で半分嘘のセリフはかなり大きめの声で放たれその言葉は周りのざわめきをかき消したがそれは一時的に過ぎなかった。
「あの子は魔族だったのか——」
「尻尾からしてデーモン種ね——」
「さっきの言葉——」
「人間と共存だなんて——」
「ばかげてやがる——」
魔族は人間を嫌っているのか……人間も魔族を嫌ってるからどっちもどっちだな。この考えが無くならないと平和なんて来るはずない。
俺は帰ってくる反応を見てこの町の一番偉いやつと話すのが手っ取り早いと判断した。
そして魔族ははじめはこそこそと隣にいるやつと話す魔族共だったが次第に声が大きくなり内容も疑問から罵倒へと変化していく。
リンの話には耳を傾けることなく、ざわめく魔族。
そして集まった魔族の数が百を超えた辺りで罵倒の言葉を浴びせるだけにはとどまらず、投石や魔法まで飛んでくるようになった。
そんな状況になるとは思っておらず、うまくいかないこの状況イライラが募り、この魔族共を全て死体に変えるための方法を考えるたくなるが、そんなことしてしまえばこれからの活動に支障をきたすことになるのは間違いないため、リンを飛んでる魔法や投石から根で守りながら気を静める。
俺に当たる分には構わないが、リンが傷つくのだけは許せない。
一つまた一つと飛んでくる岩石と魔法。
リンは動かずにただ立っているだけだがその目には涙を浮べている。
そんなリンを見ていたためか俺の防御を掻い潜った岩石の一つがリンの頭に直撃した。
「いっ」
血を流しながら頭を押さえて痛みに耐えるリン。
そんな彼女を見て耐え切れなくなった俺は我慢できずに叫んだ。
「リンに傷を負わせたのはどこのどいつだ!」
騒然とした雰囲気の中では俺の言葉は他の声にかき消され意味をなくし、むなしくも投石は続く。
心が折れそうな状況が続いている時、はるか後方から一つの怒鳴り声に近い声が響いた。
「何のさわぎだ」
誰よりも威圧的で空気が振動する程の大きさで発せられた声で、ざわめきは無くなり、しんと静まり返る。
するとその声の主がいるであろう場所より魔族共が左右に分かれ道を開けていく。
最初は何が起こったのか理解できなかった俺だが一つだけ周りの魔族とは比べ物にならない強い魔力を持った魔族が近づいてきていることが分かり状況を把握する。
そして背は高く横にも大きい魔族がこちらに向かって歩いてくることから強い魔力を持っているのはこいつだと判断しそいつが歩みを止めるまで待つとそいつは俺とリンの正面まで来て立ち止まった。
背は高めと思ったが俺と同じくらいだったがこいつは強い。
体から溢れんばかりの魔力の量と覇気は他の魔族とは比べ物にもならない。
そんなことを考えている間にやってきた巨体の魔族に他の魔族が後ろから状況を説明を受け、何かを考えた後俺に声を掛けた。
「我名はダージュ。人間、お前はそこのデーモンの娘と共に人間と魔族の共存する平和な世界を夢見ているらしいな」
イメージ通りの威圧的な口調だが怯むことは無い。
「それがどうした?」
俺は冷たい口調で言い返すがダージュは口元をつり上げまるで面白がっている様子へと変わる。
「お前達の考えは面白いと思うぞ。だがな共存するには圧倒的に足りないものが人間にある」
そんなもん言われなくても分かっている。
「力だ。人間には力が無い。よって共存したところで平和はこない」
やっぱりか……
一番の権力者であろう魔族の理解を求めるのは無理かと思い落胆する俺。
そんな俺を見てダージュは相変わらずの表情で提案してくる。
「なんなら、ここで諦めがつくように私が決闘をして、人間と魔族の力の差を見せつけてやろう」
そう言いながら周りの魔族から鉄の棒を借りて俺と距離を置き中段に構えた。
その言動で周りにいた魔族共は少しずつ離れていく。
その様子を見て俺はリンを俺の後ろに隠すように前に出て間合いを詰めて向かい合う。
こういう状況では力比べに勝ったやつが主導権をにぎることができるんだよな。
「よくぞ来た。我に決闘を挑まれて立ち向かってくる者は魔族にもなかなかいないのだが……そうだぬしの名を聞いてやろう、名はなんだ?」
強い圧力を感じるが魔王に比べれば大したことない。
「俺の名はタクヤだ……」
「ほう、覚えといてやろう。では早速……死ね」
そう言い残すとダージュは中段に構えた鉄の棒を居合切りのような軌道で振り抜いてくる。
互いの距離は約三メートルでこの間合いでそのスピードなら普通の人間なら反応はできても体が動かないだろう。
ダージュが鉄の棒を振り始めたタイミングで俺は地面を軽く踏み鉄の棒が俺に届く直前に地面から複数の大樹を瞬時に生やしてその中の一本で鉄の棒を受け止める。
俺に力が無いと高を括っていたのであろうダージュの目には驚愕がはしりその隙に他の大樹がダージュの体に次々と絡みつき抵抗させる間もなく全身を拘束した。
そして急に体の自由を奪われ焦りを見せるダージュに哀れみの表情を向けながらも俺はダージュの顔の前に手を伸ばし魔力を込め言い放つ。
「死ぬのはお前だったな」
その一言でダージュの体から力が抜けていくのが分かり、ダージュから戦う意思が消えたため魔法は使わず脚以外の拘束を解く拘束を解く。
するとダージュは手に持っていた鉄の棒を捨てて両手を上げた。
「我の負けだ……」
「人間もけっこう強いから気をつけろよ」
どや顔で一言言いダージュの拘束を完全に解いてやったところで今まで俺の後ろに振り向きリンの様子も見ると、リンの頭にあるはずの怪我は完治しており血で汚れた顔もいつの間にかきれいになくなっている。
「私ちょっとくらいなら怪我治せる」
俺の視線に気づくとそう言いながら笑みを浮かべて近づいてきた。
そんなリンは悪戯が成功した子供のような表情をしていてそれを見てふと気付いたことを聞いてみる。
「リンまさかこの状況を狙ってたな」
「今回は運がよかっただけ」
え、笑顔が眩しいぜ。
満面の笑みで告げるリンだがやがてその顔が悪魔的なものへと変化していくと。
「さて、人間に負け命まで救ってもらったダージュさん、お話をしましょう」
その冷たい声はダージュの背筋を凍らせるには十分な威力があり、断ることをさせない。
周りにいた魔族共は一番強いダージュが人間に負けた驚愕の結果に何も言えずにただ経ち尽くす。そして断ることのできないダージュは少し怯えているようにも見える。
そりゃあ、今までの常識を覆す事象が起こったのだ怯えても仕方ない。
リンはそんな様子のダージュを気に留めることなく質問を始めた。
「あなたは何のために人間を殺すの?」




