Quantum-mechanistic Job Hunting(量子的な就活)
Quantum-mechanistic Job Hunting(量子的な就活)
Experiments
ある日の早朝、ファインマンに電話が来た。
「おめでとうございます。ノーブル・エンタープライズの内定が決まりました。承諾の返答をお願いし..」
ファインマンは苛立って電話を切ると叫んだ。
「合否通知が遅れたり、お祈りメールすらくれないくせに、やっと内定がきたら朝の3時半じゃねーか! どこの企業もふざけやがって!」
ファインマンはスマホの電源を切って二度寝した。
しばらくして、何度も鳴るドアのチャイムで起こされた。玄関にいたのはTime就職エージェントだった。この誘いを断れば毎日朝の3時半に電話や訪問が来るとエージェントに諭されて、ファインマンは渋々内定を承諾し、三度寝した。
ボーアの元にも、ノーブル・エンタープライズ社からの内定連絡が来た。
「承諾します。所で、最終面接で議論した件ですが、あれから考えた所....」
それから入社までの間、ボーアの長い議論は続いた。
イグノーブル出版の内定者懇談会に参加したガモフは、隣に座ったホシという男性に声をかけた。
「趣味で、トムキンスが物理定数が変わった世界を冒険する小説を書いているんですが」
「自分も変わったガジェットが出る短編小説を書いてます」
ガモフは意外な共通点を見つけて喜んだ。
「今度一緒に、SF小説誌を作りませんか? 名前はビッグバンとかどうです?」
「うーん..ビッグバンの始まりという事で、宇宙の塵みたいな名前はどうですか」
そこでガモフの電話が鳴った。
「ノーブル・エンタープライズとイグノーブル出版のダブル内定! ガイムさんに続く二人目だ!」
ガモフは思わず叫んでいた。承諾しようとした時、ホシと眼が合った。彼の眼はUFOを見つけた様に輝いていた。
「非常にありがたいのですが、既に内定を頂いているので辞退します」
「あ、あの、辞退します。そんな大企業に入る資格なんてないです。目立たずに生きていたいです」
ディラックは内定連絡の電話を切った。
しばらくして、恩師のラザフォードから電話が来て説得が始まったが、ディラックの声は聞こえなかった。
「ディラッ君。多分、電話越しに首を単振動させて拒否してるんだろうけど、電話だから声を出さないと分からないんだ」
「ゆ..有名になりたくないです」
「もし断ったら、君はもっと有名になるよ。素通りすると思ったアルファ粒子が反射してきたみたいに。そうしたら、もっと大勢の人が押しかけるよ。そして喋らなければもっと探求してくるよ。それでも入社しないのかい?」
ディラックは、その光景を想像して怯えた。陽電子の海の中に、一つだけ発生した電子の様にすぐに対消滅するだろう。
「ν、入社します。目立たない普通の人でいたいです」
パウリの元にも連絡があった。
「自分には周辺の装置を壊す効果があるのですが大丈夫ですか?」
「はい。知っています。効果が周りに及ばない特殊加工を施した137号室を用意しました」
「部屋番号が、微細構造定数の逆数というのが気に入ったので就職します」
同じ頃、ハイゼンベルクは、遠くの島で憂鬱な長期休暇を送っていた。長期休暇で就活自体が一時停止となっていたが、精神的には一時も休まらなかった。
更にストレスが原因で花粉症になっていたので、その療養も兼ねていた。
ハイゼンベルクは、就活に全く役立たない『西東詩集』を投げ捨てると、鼻をかみ、かんだティッシュを眺めた。それはキンワイプだった。
鼻が痛い原因は、キンワイプでかんでいたからだった。ガモフが悪戯でティッシュのケースにキンワイプを入れていた。
今度、ガモフを一日中キンワイプ卓球につき合わせてやろうと考えながら、ティッシュを買いに町に行くと、不在着信がたくさんある事に気付いた。宿は外れの方にあって電波が届かなかった。
その時、電話が鳴った。それはノーブル・エンタープライズの内定連絡で、すぐに承諾した。
世の中は不確定だ。ハイゼンベルクは不確定な未来に希望を抱いて、朝日を眺めた。
Theory
量子力学においては、ハイゼンベルクの不確定性原理よりΔx・Δp≧h/4πが成り立つ。
つまり、古典力学ではありえない事も起こりうる。
これと同じように、目標よりも更に上位の企業に就職する事もできる。
量子力学の創立者たちは、自ら、その事を実証した。