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王都探検・後

魔術師カミルが黒髪美少女の手を引いて王城にやってきた。


この異常事態にまず高笛で第一報が流れ、口早い侍女筆頭に城内に知れ渡ることとなる。


「……ん?高笛が鳴った?カミルがやって来たのか?」


もちろん、城内巡回勤務中のディートリヒのところにも。


巡回勤務は2名一組で行われる。ディートリヒと組んだ隊員は、今日の不幸を一瞬にして悟る。

魔術師カミルはディートリヒが大のお気に入り。ディートリヒのところにいずれ姿を現すに違いない。


「…みたいだな。おい、ディートリヒ。さっさと巡回終わらすぞ、急げ!」

「あ?うん、わかった。カリカリすんなって」

「俺にはお前が焦らないのが不思議だ!」

「俺だってさっきから妙な胸騒ぎ…いや胸の高鳴り?が止まらなくて」

「……」

「お前にじゃねえよ!変な目で見るな!!」



怒鳴り合いながら、ディートリヒ達は広大な中庭に出る。

最も人が紛れやすいこの場所は、楽なようで注意がいる。



そうして中庭に出た2人を、上から見守る影があった。


「ほーら、あれが城内巡回中の近衛隊だよ〜。ああして警備して回るんだ。お城でパーティがあるときは、もっと大勢でやるけどね」

「すっごい、広いお庭だね。綺麗だね」

「あれ?そっち?まあいいけど」


魔術師カミルは、()だといってハルを城内に連れ込んだ。

ハルはてっきり外から見て終わりと思っていたので、城内を歩いたことで理解できる許容量がぶっ飛んだ。

つまり、軽い現実逃避だ。


カミルとハルがいる部屋は、客人のためのサロンだろう。

豪華絢爛に整えられた部屋の窓から、2人は身を乗り出して外を眺めていた。


「今右を歩いているのがディートリヒだね」

「見えるの?すごい」

「あれ?ハルは見えない?」

「…ちょっと遠いかな」


ハルに見えるのは、背格好ぐらいだ。制帽をかぶっているので、髪色もよく分からない。


「…もう少し近くか。よし、ハル、ちょっと待ってて」

「え?」


カミルはそう言うとハルを置いて転移した。

残されたハルは、部屋の中にひとり佇んでしまう。


コン、コン


「は、はいっ!」


そのとき、扉を叩く音が聞こえてハルは思わず返事をした。

扉が開いて姿を現したのは、ハルの知らない武人だった。

豪奢な衣装に胸当てと立派な剣を帯刀していて、鍛え上げられた体躯をさらに立派に見せていた。

萎縮しそうになるが、その武人はハルを見てわずかに微笑んでくれたので、ほっと肩の力が抜ける。

よく見れば、武人といっても白い口髭を生やした優しそうなおじさんだ。


「こんにちは、お嬢さん。魔術師カミルはこちらにいたのではないかな?」

「あ、カミル様は…今どっか行きました。ちょっと待っててと言っていたので、その内戻ってくると思います」


ハルは素直にそう告げたが、そうしてもよいと思わせる包容力がその武人にあったのだ。


(素敵なおじさんだな)


ハルは、一瞬でその武人が好きになった。


「ふむ…それでは、一緒に待たせてもらおうかな。構わないか?お嬢さん」

「はい、もちろん」


長椅子に座る武人の隣に座り、ハルはにっこり笑った。




「ところで、お嬢さんは魔術師カミルと知り合いか?」

「あ、はい。会ったばかりですけど、色々してくださいます」


数分後、ハルは、武人のおじさまの膝に乗っていた。

武人のおじさまの隣に座って、じいっと見つめていたら、膝に乗せてくれたのだ。


誰かの膝に乗るなんていつぶりだろう!

ハルは幸せだった遠い記憶を思い返してニコニコしていた。

武人は、そんなハルの様子に気づいたのか、黙ってハルのいいようにさせてくれる。



「ただいまハル〜…って、うわ!なにその状況!俺がいない間に何面白いことになってんの!」

「おかえりなさい、カミル様」


カミルが部屋に戻ってきたのはそんな時だった。

笑うカミルを見て、ハルは、10歳にもなって膝に乗ってるなんて子どもっぽいかな、と武人の膝から降りようとした。


が、がっちり腕を押さえられ、降りれなくなった。


「おじさん?」

「ふむ…本当にカミルが戻ってきたな。魔術師カミルよ、覚悟は決まっておろうな」

「覚悟も何も、今暇じゃないからまた後でいいかなっ?!」

「待てっ!待たぬかっ!」



カミルはにっこり笑うと、廊下に飛び出ていった。

武人はカミルを追いかけようと急いで立ち上がった。


「きゃあっ」

「む!これはいかん、すまないなお嬢さん。怪我はないか?」


膝に座っていたハルは、床に転がった。

武人はハルを助け起こしてくれるが、廊下に出て行ったカミルが気になるようだ。


「誰か!誰かおらぬか!魔術師カミルを捕らえろ!儂の前にひっ捕えい!!」




******





つい先ほど、魔術師カミルが転移した先は、ディートリヒのところだった。

「うわ!魔術師カミルだ!」

「カミル?お前、ハルのところから帰ってきたのか?俺の頼んだことは出来たか?ハルをミリアムさんのところには送ってきたのか?帰ってきたにしては早くないか?」


「…ディートリヒは、もう少しハル以外のことを俺に聞いてもいいと思う」


開口一番にハルのことばかり言われて、カミルは辟易とした口調で答えた。

ディートリヒの隣でびびる隊員は完全に無視されている。


「いやだって、今日はハルのことでお前に頼みごとを…ん?お前、なんか今日甘い香りがするぞ」

「ミセス・ボヌールのところに寄ったからね」


ミセス・ボヌールといえば、カミルのよく利用する服飾店だったか、とディートリヒは思い出す。

いや待て、俺が今日こいつに頼んだことは、ちゃんと仕上げてきてくれたのか?


にこやかに笑うカミルに、ディートリヒは少し不安を感じた。


「…それで、カミル、何か用か?」

「ああ、うん。ふふふ。突然だけど移動してもらうよ、ほいっとな〜」

「あ?!何をーーーー」


ディートリヒの抗議の声は、途中でかき消された。

強制的に転移させられたらしい。目を開くと、そこは城内の廊下だった。


「ここは…二階の客人用の東棟か…?」

ディートリヒと一緒に飛ばされた同僚が言うとおり、ここは東棟のようだ。




どきん、

とディートリヒの胸が高鳴った。

今日の昼間から感じていた、胸騒ぎが、はっきりと音になったようだった。


「ん?なんだ、この…胸の高鳴り…」

「おいディートリヒ。突然気持ち悪いことを言うな」

「こっちか…?」


ディートリヒは廊下を進む。

ふうわりと、甘い香りが鼻に付く。

「これ、さっきの甘い香りか…?」

「いや何も感じねえよ。どうしたディートリヒ。大丈夫か?」


同僚はディートリヒの様子に大きく狼狽えた。

いきなり胸の高鳴りやら甘い香りやら、幻覚でも見ているんじゃないかと心配になる。

「変なキノコでも食べたのか?隊長には黙ってやるから無理すんなよ」



そのとき、客室の一室から魔術師カミルが飛び出してきた。

続いて聞こえたのは、聞く者を従えさせる力強い怒号。


「誰か!誰かおらぬか!魔術師カミルを捕らえろ!儂の前にひっ捕えい!」


「カミル?!お前何やったんだ?!」

「げ!ディートリヒ!なんてタイミング…よく来たね!俺を捕まえるよりもいいこと教えてあげようか?!」

「は?!」


ディートリヒは、咄嗟にカミルを捕まえようと腕を伸ばしたが、カミルの言葉に一瞬隙を生んでしまった。その隙を逃すカミルじゃない。身を屈めて避けるとそのまま転移してどこかに移動してしまった。


「申し訳ございません、閣下!カミルを逃してしまいました!」


ディートリヒは怒号の持ち主に報告をと部屋のなかに立ち入った。

部屋のなかには、やはり、この国の将軍閣下がいた。

魔術師カミルに恐れをなさず、自由奔放を許さず、徹底的に立ち向かうのはこの人ぐらいだ。


先日、ディートリヒがやり過ぎた捕り物も、注意はしたが笑って見過ごしてくれる、豪気な人物でもある。


「ディートリヒか!ちょうどよい、このお嬢さんが、魔術師カミルの知り合いらしいのだが…。ん?どうしたのだ、お嬢さん」


将軍閣下に促されて向けた目線の先、ディートリヒは、天使を見たかと思った。








「お嬢さん、どうしたのだ?」


ハルは、まさかの事態に動揺していた。

動揺のあまり、椅子の下に潜り込んでクッションを頭にうつぶせてしまったのも仕方ない。


カミルに連れられて王城に来て、見知らぬ素敵な武人のおじさまに甘えてしまい、ついにはディートリヒがそこにいるらしい。


内緒も何もなくなった。

ディートリヒにどんな顔をして会えばいいのか、ハルは分からなくて思わず隠れてしまったのだ。


でも、隠れていても仕方ない。

なんだか悔しいけれど、ハルはもぞもぞと椅子の下から這い出ると、ディートリヒを見た。



……バタンッ


「ディー?!」

「ディートリヒ?!どうしたのだ、誰か!衛生兵…いや医師を呼べ!ディートリヒの様子が…」


目の前でディートリヒが倒れた。

前向きに、手もつかず。

ビタンッ!と痛そうな音で体を叩きつけたが、ディートリヒはしばらく体を震わせた後丸まって身悶えし始めた。


「ディー?!大丈夫?!ディー?!」


内緒も何もない。

ハルは自分が変装しているのも忘れてディートリヒに駆け寄って体を揺さぶった。


「あ…」

「ディー?!」

「ああああっ!!ハルーッ!ハルーッ!!これは夢?!幻?!天使が目の前に現れた!赤毛のハルも大好きだけど黒髪美少女とか俺の何を試そうとしているのっ!あああハルーッ!!」


ディートリヒがぐねぐねと体を震わせた。

ハルの方を見ようとして、眩しそうに目を細めて、また見ようとして。

その姿はまるで太陽に焦がれるミミズのようだった。


「ハル!ちょっと化粧もした?!駄目だよ王都には危ない人間もたくさんいるんだから、そんなに可愛くしたら誘拐されるよ?!」

「え、あ、え、うん」

「そんなに可愛いドレスも着て!ドレスを貰ったの?!誰から?!着せたってことはつまり脱がせ…駄目だっ!俺のハルにふしだらなことをしようとするなんて許せないっ!」


何を思ったのかギンギンと目を血走らせるディートリヒ。

前屈みに悶え始めると「可愛すぎるのも罪だなんてっ…ああ!ハルは俺に遣わされた天使…邪なことを考えるな俺。すうはあ、すうはあ」とぶつぶつ呟く。



ハルは、ディーの体からそっと手を離して、二歩下がった。

将軍閣下も、そっとハルを背にかばった。


「…ディートリヒ。まさか…」

「ハルーッ!可愛いよ俺のハルーッ!いや待て俺。俺のなんてそんな恥ずかしい、照れちゃう」

「もしかしなくとも…このお嬢さんを…」

「お嬢さんを?!お嬢さん?!お嬢さんを俺にください?!」

「ディートリヒ……!」



ハルには、将軍閣下は見えない涙を拭ったように見えた。


「お嬢さん、儂の部下が、なにか仕出かしていないか、大変申し訳なく思っている」

「……えっと、最近、色々とよくしてくださいます」


綺麗に土下座する将軍閣下に、ハルは焦った。

だけど、ディートリヒのしてくれたことは一言では言いにくくて、曖昧な言い方になってしまった。


「困ったことがあればいつでも相談するように。魔術師カミルも、面倒をかけているかもしれんな…」

「いえ、カミル様も、…色々とよくしてくださいます」


魔術師カミルがしたことも、一言では言いにくかった。


ディートリヒが身悶えする横で、将軍閣下は深く深くハルに頭を下げた。

頭を下げられて萎縮するハル。



駆けつけた医師は、その様子に大きく困惑したという。

もちろんディートリヒの同僚も。





そしてまた、彼らの姿を見て、大笑いしている魔術師の影があったとかなんとか。





後日、ハルが「お父さんみたい」と懐いてしまい、ディートリヒから「娘さんを俺にくださいっ!」と頼まれる将軍閣下も、いたとかなんとか。









ラスト、ちょっぴり力尽きました。笑

もしかして後日追記編集したら活動報告にてお知らせします( ^ω^ )←うっすらとした可能性しかない



ディートリヒの暴走っぷりはいかがでしたか?笑


感想(ツッコミ)お待ちしています!!


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