第1話~私、村を救います~
目を開く。心地よい太陽の暖かさが私を迎える。
「あ、おかーさん!おねーさんがおきたよー!」
横を見ると、可愛い女の子が母親を呼んでいる。可愛い。健気で可愛い。
「あら、大丈夫なの?驚いたわよ、家の前に貴女が倒れてたんだもの……」
奥から可愛い女の子の母親が出てくる。どうやら私は気を失っていたらしい。
「すみません、ありがとうございました」
……んー?ちょっと声が違うなーって、転生したんだった。
さて、どうしようかな?取り合えず、ここがどこか訊いてみよう。
「あのー、此処はどこですか?」
「此処はダイナー村だけど……」
「ダイナー村!?」
ダイナー村。それはあのゲーム……【ブレイブラッド】の村である。
しかも、強制敗北イベントによって魔王軍に滅ぼされてしまう村。
そんな村に、私は居るのだ。
不味い、もし私が勇者だとしたら、この村は……
「……そうだ!」
もし私が勇者なら、システムデバイス……メニュー画面を開く道具があるはずだ。
私が服のポケットを探すと、スマホ型のそれが見つかった。
現状の確認をするためにそれを起動させる。すると、私の想像を超えた現実が待っていた。
「村……人?」
この世界の私の名前らしい“アイ”の横にある職業欄には、確かに【村人】の2文字が入っている。
更に、ステータスはカンスト、レベルは上限の99。スキルは【システムコマンド】の1つだけ。
持ち物は……今装備している服と、このデバイス【ファウル】だけだ。
ってか私可愛いな。赤いポニーテールで長身、尚且つ美白っ……!
「ご飯出来ましたよーって何してるんですか?」
ハッ!つい自分の世界に入ってしまった……
「すみません、ご飯までいただいてしまって……」
「気にしないでいいのよ。私は他人の世話をするのが大好きだから」
ご飯なう。美味しいなこのご飯。
そして何よりもっ!!幼女の隣で食べるご飯は最高だっ!
ーでも、この親子はいずれ消えてしまう。運命が村ごと消してしまう。
そう思うと、心が苦しくなる。
「……おねーさん」
急に幼女ちゃんが話しかけてきたのでビックリして振り向くと、幼女ちゃんが変顔をしていた。
「……ふふっ」
ダメだ、可愛い!可愛い娘過ぎて笑っちゃう……
「おとーさんがいってたよ、れでぃはわらってたほうがいいって」
驚いた。どうやら顔に出ていたようだ。
「だからね、おとーさんがまおーをやっつけてかえってくるまでわらってくらすことにしたんだ!」
そう言ってニカッと笑う幼女ちゃんを見て、モヤモヤが吹き飛んだ。
ー守ろう。運命をぶち壊して、父親の帰りを待つ、この笑顔を。
大丈夫、私には力がある。全て変えられる、圧倒的な力が。
だから、勇者が来る前に、魔王を倒す。そして、この村を守る。
私は美味しそうにシチューを啜る幼女ちゃんを見ながら、そう決意したのだった。