初めてのトラブル
突然コックピットの中に、不安を煽るような警告音が鳴り響いた。画面を見ると、エンジントラブルの表示がある。両翼のエンジンが、両方とも止まってしまったようだ。
「き、機長! エンジンが全てストップしたようです!」
副操縦士になりたての僕は、何の前触れもなく、いきなりのトラブル発生に混乱していた。そもそもこんなことは初めてだった。どうしていいのかわからない。
訓練の時は、今どきの飛行機はコンピュータで安全管理がばっちりできているから、こういうトラブルは滅多に起こることがないので、心配する必要はないなんて言われたというのに、ばっちり起こっているではないか。たった数回のフライトでこんな事態に巻き込まれるなんて。なんてツイてないんだ。
がたがたと揺れ始める機体に、俺の心拍数が徐々に上がっていく。完全にパニックになって、あたふたと挙動不審な行動をしている。
「ど、どうしたらいいのでしょうか……。私はこのようなエンジントラブルは初めてで、た、対処の仕方が……」
そんな僕を尻目に、機長は全く動じることなく、
「落ち着け! 焦ってもどうにもならないぞ! しっかりしろ!」
と冷静に注意する。
そうだ。この機長は飛行時間六千時間を超えるベテランパイロットだ。そのどっしりと構えた、威厳さえも感じられる風格に、狼狽しきっていた僕は段々と平静さを取り戻しつつあった。
やはり機長は頼もしい。彼なら、的確な指示を与えてくれるだろう。
その機長が放った一言で、コックピットに何とも言えない沈黙が訪れた。
「私もこんなエンジントラブルは初めてだ」