私のなんでもない一日
「おはよう、朝だよ起きて」
旦那様の声で目が覚めます。
どこの漫画に出しても恥ずかしくない完璧超人の旦那様は料理の腕だってプロ級で、朝が弱い(主に原因は旦那様ですが)私に朝食を用意して起こしてくれます。
「おはよう」
「今日は会議があるから出社しなきゃいけない日なんだ、夕方には帰ってくるから、夕飯何か食べたいものある?」
そんな話をしながら旦那様は私を抱き上げてダイニングまで運んでくれます。
結婚当初は膝の上で手ずから食べさせてもらっていましたが、最近は自分で食べるようになってきました。
それでも油断するとすぐ膝の上に連れ去られるのですが。
「あなたの作るものはなんでも美味しいけど、今日はお魚の気分ね」
プロ並みの料理に何の注文も本来無いのですが、「なんでもいい」は旦那様の嫌う言葉なので大まかな要望を伝えます。
「そうか、じゃあ帰りにスーパーにでも寄って良さそうな魚を見て決めるね」
「うん、楽しみにしてる」
基本的に在宅ワークの旦那様は普段も決してだらしない格好などせず、シャツにスラックスが標準装備ですが、月に数回ある会議に出社する際のスーツ姿の旦那様はいつもの数倍素敵に輝いて見えます。
「サンドイッチ作って冷蔵庫に入れてあるからお昼に食べてね」
「わかったわ、ありがとうあなた、行ってらっしゃい」
玄関までお見送りをし、ドアが閉じた途端、世界が急速に色を失ったように感じられてしまいます。
完璧超人な旦那様が家事も全てやってしまうので、どこにも手を掛ける必要がないほど部屋は整っています。
旦那様の希望で大学卒業と同時に結婚してしまったので社会人経験もありませんし、旦那様はそこそこ高給取りなので私が働く必要はないと言っています。
まあ、それ以前に学生時代に株やらでだいぶ稼いだそうですが、その理由が「結婚する時に苦労させたくないから」とか、確かに物心つく頃には傍にいて「大きくなったら結婚しようね」と何度も言われていましたが、どれだけ長期計画なんでしょう。
話はそれましたが、専業主婦と言うには余りにも何もしていませんし、旦那様の「僕に愛される事が仕事だよ」という言葉だって私の慰めにはなりませんでした。
しかし、私と離れたくないが為に在宅ワークを選択している旦那様が私が外で働くのを許すはずもなく、それでもどこまでも私に甘い旦那様は、私の趣味のビーズアクセサリーや布小物をネットで売ると言う時間の潰し方を考え出しました。
私の作品が売れるとは到底思えないし、そもそも機械に詳しくないので無理だと思ったんですが、作ったものを写真撮影して原価をメモして撮影順に整理さえしておけば、後は旦那様が全てしてくれると言うのでお任せしてみることにしました。
私の我儘で旦那様の負担が増えるという結果になってしまったと気付いた時には落ち込みましたが、ネット販売に興味があるのか嬉々として色々やっていました。
「君の全てに関わっていたいし、僕が管理すればどう言う人が君の作品を買ったのか把握できるし、こう言う小物類は女の人が作ってる事が多いから、変なナンパメールや下品なメールが来て君の目に触れるのも耐えられない、だから気にしないで」
少し対人恐怖症恐怖のケがあるので売買メールの遣り取りも緊張しますし、ナンパメールとか怖いです。
喜んで全部旦那様に丸投げしてしまいました。
私の作品が載ったページを見せてもらいましたがとても可愛く出来ていて作品が何割増しかに見えて、実物を見てがっかりされないか心配になるほどでした。
旦那様の仕事部屋と私の作業部屋は一緒なので部屋にいつもある気配が無いだけで全く作業する気が起きません。
納品ノルマがあるわけでもないですし、作業を早々に切り上げ布団に潜り込みます。
昨夜の疲れも完全に取れたとは言えませんし、旦那様の薫りがするベッドで休むことにしましょう。
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目が覚めるとお昼を少し回ったあたりでした。
まだ6時間近く旦那様に会えないなんて……寂しい。
旦那様に作ってもらったサンドイッチ、いつもの通りプロ並みの味のはずなのに少しも美味しく感じません。
食事は何を食べるかじゃなく誰と食べるかだ、というのが身に沁みます。
頑張って2切れ食べましたがそれ以上は頑張れませんでした。
こんな時はネットでも見て時間を潰しましょう。
機械に弱いといっても検索位はできるんです。
よく使う通販サイトは旦那様にお気に入りに入れてもらいましたし。
旦那様のパソコンも自由に使っていいとは言われてますけど、仕事場に入る気は失せているのでソファに寝ころんでタブレット端末です。
家の中でしか使えない仕様ですが、家から出る時はほぼ旦那様と一緒なので、不便を感じたことなんてありません。
ワイヤー在庫減ってるのがあったんでした、ああ、丸カンも注文しておかないと。
あ、この新作ビーズ可愛いですね、今持ってるトンボ玉と合わせてネックレス作っても可愛いでしょうか。
こうやって考えている間は寂しさを忘れていられます。
そうこうしているとメールが入りました。
『久々に会ってお茶でもしない? 土日の都合のいい日連絡請う』
おお、高校時代の友人からです。
完璧超人の旦那様がいつも傍にいた為に女子からのやっかみが凄くて、友人は常に狭く深くだった私の数少ない友人です。
友人を装って旦那様に近づこうとする人も何人もいたのでそういうことの無い人と言うと狭くなってしまうのはしょうがないんでしょう、と早い段階で諦めたので、まあそれはいいんです。
その分私の友人は思慮深く豪胆な人が多いです。
旦那様の篩にかけられても怒るでなく「あんた愛されてるね」と笑ってくれるメンタリティにどれだけ救われたかわかりません。
ちゃんとした返信は帰宅した旦那様の予定を聞いてからにする趣旨の返信をしておきましょう。
旦那様が私に話していない予定があるかもしれませんしね。
ちなみに未だにガラケーな私、通話とメールがあれば事足りてしまうので替え時を逃しまくっています。
でもちゃんとGPS機能付いているので、もし迷子になっても旦那様に電話するだけでちゃんとすぐ助けに来てくれるようになって、旦那様に連絡しても自分のいる場所自体がわからなくて、旦那様を走り回らせた昔を思うと、便利な世の中になったものだと思います。
さて、旦那様が帰ってくるまであと1時間半といったところでしょうか、思ったより時間が潰せましたね。
旦那様がいる間はネットを見ようなんて殆ど思わない分こういう時に纏めて色々片付けてしまうせいでしょうか?
作業部屋で作業する気になれないのは変わりませんが、リビングで常用パーツを作っておきましょうか、それなら準備もすぐですし、いつやめても大丈夫です。
しばらく作業を続けていると旦那様からの着信がありました。
音だけで旦那様からだとわかるようにしてもらってるのですぐにわかります。
出る間も無く切れた時は『駅に着いたよ』の合図です。
早速リビングを片付けてしまいましょう、あと約10分で旦那様が帰ってきます。
作業部屋へ荷物を戻し、待ちきれず玄関をうろついてしまいます。
「ただいま、出迎えててくれたんだね、ありがとう」
「お帰りなさいあなた、お疲れ様」
つい嬉くて抱きついてしまった私に優しくキスをしてくれます。
旦那様がいるだけで世界が色づいて見えるから不思議です。
このまま抱え上げられてソファでしばらくイチャイチャというのもよくあるパターンですが、今日は朝言っていた通りスーパーの買い物袋があるので旦那様はダイニングへ直行、私は旦那様から預かった仕事用鞄を仕事部屋へ運んでからダイニングです。
「鞄ありがとう、鮭が良いのがあったんだ、塩焼きとムニエルどっちが良い?」
「じゃあ塩焼きかな朝も昼も洋食だったし」
旦那様は手際も良いので今日のような出掛けた日は30分程度で食事を作り終えてしまいます。
冷蔵庫を開けた時少ししか減っていないサンドイッチに心配されてしまいましたが、二度寝してしまったので食欲が無かったと言ったら一応納得してくれました。
旦那様がいないと食事もまともに出来ないと思われたら益々出社を渋るようになってしまいます、それはダメです。
食事中、友人からのメールの話題を出すと、今週末はお出掛けを予定していたそうで、来週以降に会うことにしました。
明日以降またしばらくはずっと一緒なので、メールが来る都度相談することにしましょう。
旦那様の出社日は、離れていた時間を取り戻すように双方がいつも以上にスキンシップ過多になります。
なんと言うかいつもは『傍にいないと不安』なのが『くっついてないと不安』になる感じです。
さんざんくっついて、寝て起きたら落ち着いているので良しとします。
この日は結局殆ど仕事もしないまま一杯愛してもらって、気が付いたら一緒に湯船に浸かっていて、全身洗ってもらった挙句布団まで運んでもらって眠りにつくことになりました。
こんな素敵な旦那様がいて私本当に幸せだなぁ。
溺愛束縛系ヤンデレに雁字搦めにされているのに気付かず
のほほんと幸せに何の問題もなく暮らしてる子を書いてみたくなった。
変な先入観あるとアレかなーとタグにはヤンデレ入れてませんすみません。
多分夫がしてること箇条書きにしただけで束縛具合に引くとおもう。
本当は書いてないけど、部屋毎に隠しカメラあって自分の留守中逐一監視してるとか、数カ月に一度友人と会う以外は夫と一緒の時以外一歩も妻を外に出してないとか、友人と会ってる間GPSと盗聴器が大活躍とか
全部内緒でよろしくお願いします。