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第14話 ダレイル族とブリガンダイン

悲しさを紛らわせるために物語作りをしています。

感想への返事はもう少し落ち着いてから致しますのでご容赦下さい。

 ダレイル族領域、真性蛮族ブリガンダインの拠点近くの森


 ヘルカント族の村で村長と会談し、不可侵協定を結ぶ事に成功したアルトリウス。

 不可侵とは言っても互いの領域を侵さない、交易の為の通行は互いが保障するといった程度の取り決めで、しかも西方帝国とヘルカント族の間の正式な協定ではなく、あくまでアルトリウスとウーステン村との取り決めである。


 ただし相互に侵攻の兆しのあるときは通知するという際どい取り決めも結んだ。


 アルトリウスとしては周囲を制圧するまでの意思は無いので、この取り決めによってヘルカント族の協力がある程度とは言え得られるようになったのは大きいと考えていた。


「と、まあ~そっちは上手く行ったのであるが……まさかこの様な事になるとは」


 アルトリウスが今いるのは、山賊の拠点。

 しかもその山賊は流れの蛮族、ブリガンダインである。

 ブリガンダインとは、ここ北西辺境において最も野蛮で危険な蛮族で、生業が何と山賊である上に、定住しないという厄介な性質を持つ。

 元は各部族の爪弾き者が集まったのが始まりのようだが、いつしか一つの部族として活動をするようになっていったのだ。


 ただ部族とは言っても、それぞれの集団同士に連携や協力関係があるわけでなく、ばったり会えば互いに殺しあうようなどうしようもない集団である。

 奪う以外に糧を得る術を知らず、力任せ体力任せ、その時の勢い任せの戦いぶりは無秩序であると共に非常に読み辛く厄介で、帝国軍もしばしば襲われて被害を出している。

 ましてや山間の小さな村や集落ともなれば、不意を討たれて全滅する事も珍しくない。


 アルビオニウス人が最も恐れるものの一つである。


 ダレイル族の最南端の村、デレットール村でアルトリウスはまずまず順調な話合いを持つ事が出来た。

 ウーステン村のように武威を示す必要も無く、村長や長老達は仲介のレリアやイヴリンの存在を尊重し、アルトリウスの話や提案をしっかりと受け止めたのである。

 ただ、協定の締結については難色を示す村長たち。

 その理由は村とアルトリウスの個人が結ぶ協定というものに信を置けないというのと、今までそのような協定を村個別に結んだ事が無いという、至極真っ当なものではあった。


 アルトリウスが言葉を尽くして説得している最中、突如村から火の手が上がる。


 ブリガンダインの襲撃を受けたのだ。

 会談中、突如デレットール村を襲ったブリガンダインによって村に火がかけられ、その隙を突いて食料や財貨が奪われ、おまけに無防備だった村内の娘達が攫われてしまう。


「全く!全くっ、ブリガンダインどもめ!」


 よりによって会談相手である村長の娘までもが攫われてしまい、会談どころではなくなってしまったアルトリウス。

 悪い事は続く。

 村長はダレイルの南部に大きな勢力を持つ大族長マッカーレイに応援を求めると共に近隣の村々へ警告に戦士を走らせた。

 また、2度目の襲撃に備えて村の防備を固めてしまったので、ブリガンダインの討伐に割ける戦士がいなくなってしまったのである。


 マッカーレイは義侠心溢れる大族長だが、南部に勢力を持つとは言っても最南端の村に戦士を率いて来るまではそれなりに時間がかかるだろう。

 その間に村の娘達が味わう恐怖や屈辱を思えば、救出や討伐は早いに越した事は無い。

 アルトリウスはイヴリンとレリアに村の防備に協力するよう申し渡すと村長に言った。


「我がブリガンダインをやっつけてくるのである。故に討伐と村娘の救出の暁には協定を結んでもらいたいのである」

「……正気か?」


 火傷を負った村長がアルトリウスをにらみ付けるが、アルトリウスは屈託ない笑顔で言葉を継ぐ。


「わはははは、まあ死んだとしても酔狂な帝国人1人、何ほどの事もあるまいし、ブリガンダインもこの村のために帝国人が来たとも思わぬであろう。迷惑はかけん」

「帝国は……どうするのか?」

「は~ん?帝国など知った事か。我が死んだら喜ぶ者の方が多いであるぞ」


 村長の言葉にアルトリウスは肩をすくめて言う。


「しかしそれは……」

「まあ、心配要らんである。ブリガンダインとダレイル族に何の関係も無い、我が死んだらガストルク城塞に事の顛末を伝えてくれればよいである」


 尚も心配する村長の肩を軽く叩き、アルトリウスはそう言うとレリアとイヴリンに目配せをして立ち上がる。


「済まぬがしばらく時間を貰うである」

「……気をつけてくれ」

「頑張ってください」


 イヴリンとレリアは信頼の目でアルトリウスを送り出すのだった。

 






「とは言ったものの、はてどうしたものであるかなあ?」


 足跡や途中の休憩場所をたどり、アルトリウスは早くも同じ日の夕方にはブリガンダインが一時拠点としている洞窟を突き止めた。

 周囲には見張りのブリガンダインが油断無く巡回しており、洞窟の中からは攫われた女達の泣き声が聞こえてくる。


 まだ到着したばかりで乱暴されている様子は無いようだ。

 まずは腹を満たそうというのだろう、外では略奪してきたパンや食べ物の袋や樽が開かれ、家畜が捌かれており、火が幾つも焚かれている。

 村を襲撃したブリガンダインは約50名。

 盛んに歓声を上げているブリガンダインたち、ざっと数えてここにいるのは恐らく100名前後であろう。


「闇に紛れるのが一番ではあるが、余り時間をかけては娘達の心身が害されてしまうのである……むうっ」


 その内酒樽が開かれたのだろう、一際大きな歓声が上がった。


「うむ、闇と酔いの具合を見極める他ないであるな」


 アルトリウスはしばらく様子を見ることにした。






 しばらくして宴が盛りになる。


 襲撃したのはデレットール村だけではなく他の村々も襲われた様子で、ダレイル族とは服装の違う女達が酌をさせられているのが見えた。

 何人かはデレットール村の娘達も駆り出されているようだが、今のところ襲われている様子は無い。

 しかしそれも時間の問題だろう。

 酔いに狂ったブリガンダインの目が次第に情欲に染まりつつある。


「むう、見誤ってしまったのである。さっさと突入しておけば良かったのである」


 見たところ全員が酒を飲んでいるようだが、だからといって油断は禁物だ。

 しかも女達が洞窟から出されてブリガンダインと混じってしまっており、彼女らを五体満足で助けなければいけないアルトリウスとしては、ただ暴れれば良いという状況ではなくなってしまったのである。


「うぬ、仕方なし!」


 事態は悪化していたが、やるしかないアルトリウスは隠れていた木の陰からそっと這い出すのだった。





 酔っ払ったブリガンダインの1人がふらふらと森の中へ迷い込む。

 恐らく小便だろう、アルトリウスはその後をつけ、立ち止まった所で声を掛けた。


「おう、調子はどうであるか?」

「ああ?お前誰だ~……ぐうっ?」


 どんよりと酔いに侵された目でアルトリウスを振り返るその男の胸に、アルトリウスは無言で剣を突き刺した。

 口を塞いで声が漏れるのを防ぎ、そのまま事切れた男を茂みの中へ隠すと上衣を剥ぎ取って体を検める。

 男の剣と短剣を取り上げ、アルトリウスは再び洞窟の傍へ戻る。

 また酔っ払った2人が来たので、茂みから襲い掛かるアルトリウス。

 背後から首を裂き、もう1人には奪った剣で胸を刺し貫く。

 剥ぎ取った上衣をまとうと、アルトリウスはその2人が持っていた酒瓶を取る。


「すっごいくさいである」


 奪った上衣のすさまじい悪臭に顔をしかめ、アルトリウスは酒瓶を手に酒盛りの輪の中へと紛れ込む。

 ざっと見て20名前後の女達が働かされているが、皆ここが森の奥深くでどこか分からないので逃げる事に躊躇している様子がうかがえた。

 周囲をきょろきょろ見回しているのだがため息をついて下を向いているのだ。

 アルトリウスは周囲を見回し、近くへ来た無表情なまま酒瓶を運んでいた若い銀髪の女を捕まえた。


「っ!」

「おっと、静かにするである……ああ~酒持って来いこんにゃろ~!……話を聞くである」


 酔っ払った振りをして叫び声を上げるアルトリウスは、話の中に重要な伝達を入れる。

 アルトリウスの見立てどおり、冷静なその銀髪の女は叫び声も悲鳴も上げることなく、アルトリウスの言葉に黙って頷いた。


「洞窟に見張りはいるであるか?」


 コクリ


「何人であるか?」


 女は指を7本出す。


「上手く女達を誘導して洞窟へ戻るである、我も行こう」


 コクリ


「……ちょっとくらいしゃべれである」


「ちょっと……」


「もういいである……しゃべらなくとも良いである」


 諦めたアルトリウスは酔っ払った振りをして銀髪の女の方に手を回すと、その身体に寄りかかり、近くに来た別の女を抱き寄せる。


「おうら~!洞窟へ行くのである~お前ら交換である~!」


 周囲のブリガンダインの男達が下卑た笑い声を上げるのに酒瓶を持った手を振って応じ、アルトリウスは怯えているもう一人の女の首をがっちり捕まえて洞窟へ向かった。

 アルトリウスは洞窟の傍に寄ると2人の女をぱっと話し、その中へ飛び込む。


「あ~何だ手前は?」

「ふんむ!」

「おごえ?」


 真正面に立っていた男を剣の鞘で脳天を叩いて失神させると、アルトリウスは奥へと進み、現れた2人の男を相次いで一刀の元に斬り捨てる。

 むわっとするほどの熱気がこもっている洞窟はまずまずの広さがあった。

 しかし所狭しと並べられた略奪品や縄で繋がれている多数の女達が洞窟を狭く見せている。

 アルトリウスは周囲を確認し、危険が無い事を確かめると壁に寄りかかって眠る槍を持っていた男を、そのまま壁ごと白の聖剣で突き通した。

 そして槍を奪い、その先で同じように眠りこけていた別の男の首を貫く。


 慌てて駆け寄ってきた2人に抜いた槍を鋭く投げつけ、右の男の顔を粉砕すると、左の男の首を白の聖剣で裂いた。

 横合いから現れた男を白の聖剣で突き殺し、更に奥に居た者の頭を叩き割った。


「ふむ……これで全部かな?」


 何故かついて来ていた銀髪の女に問うアルトリウス。

 女は無言で頷き、最後にアルトリウスが切り捨てた男の腰から剣を取った。

 そして繋がれていた女達の縄を断ち切っていく。


「まだ外へ出るでないぞ」


 コクリと頷いた女は解放した女に剣を手渡し、女に言葉少なく言い聞かせる。


「逃げる準備をして……でも奥で隠れていて」

「わ、分かったわ」


 剣を手渡された女はアルトリウスに感謝の視線を向け、銀髪の女にそう言うと周囲の女達を解き放ち始める。

 アルトリウスは洞窟の出口へと向かうが、何故か再び銀髪の女もついてくる。


「その方……」


 アルトリウスがもの言いたげに振り返ると、その女はポツリと言った。


「シルヴィア」

「は~ん?」

「シルヴィア……ダレイル族のシルヴィア」

「そ、それだけの情報で我に何とせよと言うのであるか?」

「名前……よんで」

「……ぬう」


 そう言ったきりまた無表情のままアルトリウスの背後につくシルヴィア。

 そうこうしているうちに、再び洞窟の出入り口へと到着するアルトリウスとシルヴィア。


「で、ではシルヴィア、手筈どおり女達はこの洞窟へ誘導してくれである」

「うん……分かった」


 シルヴィアは近くに落ちていた空の酒瓶を拾うと、宴の中へと出てゆく。

 ブリガンダイン達は相当酔っているようで、シルヴィアが巧みに女達を引き剥がしていることにも気付かず、呑んで歌って暴れている。

 仕舞いには焚き火のそばの2組ばかりが剣を抜いての大喧嘩を始め、場はますます混沌としてきた。


「おうおう、蛮族の見本市であるな。幸いにも女漁りがまだ無いのが幸いであるか」


 アルトリウスがその喧騒を洞窟の陰から見てせせら笑う。

 恐らく女を求めてだろう、洞窟にふらふらと近寄ってきたブリガンダインの男はアルトリウスが陰に引き込んで始末する。

 もう少しすると、シルヴィアに誘導され、言い含められた女達が洞窟へと避難してきた。


「よしよし……この調子であるぞ」


 アルトリウスがシルヴィアの活躍を見てにやっと笑みを浮かべるが、その次の瞬間、笑顔が引き攣った。


「くそ……!」


 首領と思しき男にシルヴィアが捕まったのだ。

 特に何らかの理由があった訳でも怪しかった訳でもないだろう、ただ単に周囲から女が居なくなり、無表情ながら結構な美貌の持ち主であるシルヴィアが首領の獣欲に火を付けてしまっただけの事だ。

 それを見ていた周囲の男達も女を漁り始める。


「何と律儀な蛮族どもであるか、首領が手を出すまで控えていたのであるな」


 妙な感心をしているアルトリウスの目の前で、シルヴィアが首領に組み伏せられ、その衣服が破り捨てられる。

 無表情な視線が動揺と恐怖に揺れているのを見て取り、アルトリウスは白の聖剣を抜き放つと、臭い上衣を取り払ってゆっくりと洞窟から姿を現した。


「そこまでである!!!!」


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