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第13話 ヘルカント族


 ヘルカント族最南端の村、ウーステン


「止まれ!何者だっ」


 北の雄族の一つ、ヘルカント族最南端の村のウーステン。

 その前の道でアルトリウス一行はヘルカント戦士達から誰何される。


「アルクイン族ファンガス氏族の娘、レリアです」

「アルクイン族の戦士、イヴリン」

「帝国軍北西辺境担当司令官、ガイウス・アルトリウスである」


 3人がそれぞれ名乗りを上げるが、最後のアルトリウスの名乗りを聞いた戦士たちがいきり立った。


「何!?」

「西方帝国かっ!」


 10数名の戦士達が房付きの槍を構え、アルトリウスに殺到する。

 抵抗の姿勢を示したイヴリンを制し、アルトリウスは鋭く指示を飛ばした。


「戦士イヴリン、レリア嬢と馬を守って退くである」

「……くっ、分かった」


 形勢を見て自分達が著しく不利であることを悟り、イヴリンは全てをアルトリウスに任せることにしてその手から手綱を取り、長剣を抜きつつ後方へと下がる。

 イヴリンに手を引かれ、レリアも顔を青くしながらもその指示に従った。

 後方に2人が退き、また正面の戦士達以外に人の気配が無い事を確認してからアルトリウスは白の聖剣をゆっくりと抜いた。

 うっすらと白く淡い光を帯び、冷気を発するその剣を見た戦士達の目が厳しい物へと変わる。


「……きさま?」

「うわははははは!心して掛かってくるが良い!我は強いであるぞ!」


 剣を肩口に構え、アルトリウスが高笑いと共に宣言すると、戦士達はますますいきり立ち、槍先を鋭く突き出しつつアルトリウスへと突っ込んでいった。


「ふんむ!」


 最初に突き出された2本の槍の穂先を斬り飛ばし、慌てる2人の戦士を放置してその後ろに居た戦士と切り結ぶアルトリウス。

 更に横から鋭く疲れた槍のけら首を掴んで頑丈な槍の柄を左手一本で折り砕く。


「甘いのである!」


 切り結んでいた戦士の槍を跳ね上げ、柄の中間を一撃で切り分け、更に槍を砕かれて呆然としている戦士の隙を突いてその腹を剣の柄で打ち据え、返す刀で突き込まれた槍の穂先を剣で逸らし、その持ち主が前のめりになって晒した首筋を手刀で打った。

 どさりと倒れる戦士を尻目に、槍を切られた戦士達が短刀を手に体当たりしてきたのをかわしざま、左の者の背に肘を落とし、右の者の腹に膝を打ち上げる。

 次いで怯んだ戦士たちに対し攻めに転じたアルトリウスは、相次いで2人の戦士の槍を打ち落としながらその手の甲を浅く切りつけ、慌てて槍を突き出した別の戦士には槍を左手で掴んで引き込み、その顔面を分厚い掌で張り倒してしまう。


 崩れ落ちる戦士を後方へ投げ捨て、その横で驚いて固まっていた戦士たちの脇をすり抜けながら剣を振るってそのわき腹と腕を浅く切り、走り抜けた。

 そして正面に居た戦士に真っ向から切りつけ、アルトリウスの斬撃を防ごうと目の前へかざした槍ごと眉間を浅く切りつけた。


「ぐおっ!?」

「戦士長!」


 どうやら今のが戦士長だったらしい。


 アルトリウスはその戦士長を守ろうと駆けつけてきた若い戦士を2人を切り伏せて蹴倒し、更に向かって来たもう1人の戦士の槍を叩き斬る。


「そこまでだ!」


 身構えなおしたアルトリウスに、後ろから声が掛かった。

 見れば剣を取り落としたイヴリンが押さえられ、レリアがその横で戦士に捕らえられている。


「随分であるな、誇り高きアルビオニウスの戦士とは思えん」

「う、うるさいっ。卑怯な帝国人め!」

「我は何も卑怯な事などしていないであるぞ?」


 意味ありげな目を、2人の女性を抑えている戦士たちの方向へ向けると、アルトリウスに近寄っていた戦士と立ち上がった戦士長が嫌な顔をする。


「……アルトリウス」


 そのアルトリウスにうめくように言うイヴリンへ、アルトリウスは近寄ってきた戦士に鞘へ収めた白の聖剣を手渡し、優しく言った。


「気にするな戦士イヴリン。身体も本調子とは程遠かろう、むしろ誓いを果たせぬ我が情けなかったのである」

「ごちゃごちゃしゃべるな!行け!」


 アルトリウスの身体を探り、他に武器が無い事を確かめてから戦士がその頭を小突く。


「乱暴はよすのである」

「うるさい!」


 一瞬怒気を含むアルトリウスだったが、連れて来られたレリアとイヴリンを見て握った拳を解いて両手を挙げた。


「分かった分かった、だがくれぐれも2人には手を出すでないぞ」

「……ふん」


 どんと戦士長がアルトリウスの背中をどやしつけ、先へ進むよう促す。

 アルトリウスは仕方なしに指示されたとおり、戦士の後に続いて歩き始めるのだった。

 





 ウーステン村、村長の館


「これはご挨拶であるな。話し合いをするのではないのか?」

「黙れ帝国人め!」


 アルトリウスの言葉にいきり立つヘルカント族の若い戦士。

 一方のアルトリウスは鼻先に突き付けられた槍の穂先をものともせずに、悠然と腕を組んで椅子に座っている。

 その周囲にはヘルカント族の特徴である、房付きの槍を構えた戦士がアルトリウスの周囲を隙間無く取り囲んでいた。

 鋭い槍の穂先を全方位から突きつけられているにも関わらず、動じた様子を見せずアルトリウスは肩をすくめて言葉を発する。


「こんな事をしても何の解決にもならんであるぞ?」

「ふん、解決するかどうか決めるのはお前ではないわ」


 1人の長老と思しき白く長い顎鬚を生やした威丈夫がアルトリウスへ鋭い口調で告げる。

 そちらを見れば、アルトリウスが連れてきたレリアとイヴリンの姿があった。

 歯を食いしばり、戦士達に剣を取り上げられて押さえ込まれているイヴリンと、その後で槍を突きつけられて震えているレリアを申し訳なさそうに見るアルトリウス。


「まあ、2人の令嬢を傷付けないと言うのであれば、我は貴様らに従うのである」

「くどいぞ帝国人!我らは約束を違えないっ!貴様らと違ってなっ」





 オウェニ族の村を巡回し、何れも貧しさと閉塞感にあえいでいるオウェニ族の現状をしっかりと把握したアルトリウスは、その北方、ヘルカント族の領域へと踏み込んだ。

しかしながら友好的なアルトリウスの態度も通じることなく、最初の集落でもあるウーステンの村に着くなり、アルトリウス達は拘束されてしまう。

 レリアとイヴリンはそれぞれアルクイン族の有名人であり、当初は拘束されなかったのだが、アルトリウスが示した激烈な抵抗にヘルカント族ウーステン村の村長は、彼女らを人質に取る以外に手段が無かったのだ。

 レリアを守って奮闘するイヴリンだったが、手傷を負わされるに至ってアルトリウスは抵抗を止め、その結果3人は村へと連行されたのだった。


 席に座らされたアルトリウスに、さっそく戦士達が尋問を始める。


「さて、帝国人、お前らは一体何処から攻めてくるのか?」

「あん?」

「とぼけるな!言え!」

「……攻める事はしないと思うのである」

「ふざけるな!」

「いやいや、今帝国はこんな所まで攻め込んで来る様な余裕は無いのである」

「何だと!」

「何だと、と言われてもな……」

「正直に白状しろ!」

「攻めては来ないと思うである」

「嘘をつけ!!何処から来るんだ!」


 がっとアルトリウスの襟首を掴み、戦士が顔を真っ赤にして問い詰める。

 しかしアルトリウスはため息を吐くと、面倒臭そうに答えた。


「……攻めるのならば海軍を使って海から上陸するであるな」

「さっきは来ないと言っていただろう!どっちが本当なんだ!本当の事を言えと言っている!」

「……一体おぬし達は我に何を言わせたいのであるか?」

「本当の事だ!」


 呆れてアルトリウスが逆に問うと、その戦士は大真面目に言う。

 流石にこの不毛な遣り取りが馬鹿らしくなり、アルトリウスは横を向いて再度ため息を吐いてから言った。


「おぬし達の言うところの“本当の事”を教えてくれれば、我が適当に脚色して言ってやるである~」

「ふざけるな!」


 ぐっと身体を持ち上げられ、首を締め上げられる形になったアルトリウスは、自分の柄襟首を掴み上げている戦士の親指を捻り上げる。

 ぷちぷちと軽く何かの千切れるような不安感あふれる音が小さく響き、アルトリウスを締め上げていた戦士の悲鳴が響き渡る。

 とっさに1人の戦士が槍を突き込むが、アルトリウスは頭を後ろへ反らせてその穂先をかわし、目の前を通過した槍を両手で持つと一気に圧し折った。

 次いで差し込まれた槍を片手で掴むと思い切り引き付け、戦士の顔面を肘で打って槍を奪い、周囲の槍の穂先を打ち払う。


「貴様!」

「わはははは!スキだらけである!」


 慌てて払われた槍を構えなおしてアルトリウスに襲い掛かるヘルカントの戦士たち。

 しかしアルトリウスは奪った槍を逆さまに持つと、その柄で近づいて来た戦士の脳天を打ち、手を払い、膝を叩いて腹を突き、肩を打つ。

 そうして次々と周囲の戦士を戦闘不能にしてからレリアとイヴリンの元へ駆け寄った。

 2人を拘束している戦士が慌てて槍を向けるが、アルトリウスにその槍をあえなく絡め取られて槍を奪われ、相次いで頭を打ち据えられて昏倒する。


「無事であるか2人とも……済まないのである」

「いや、すまないアルトリウス」

「ありがとうございます」


 イヴリンとレリアが自分達を気遣うアルトリウスに礼を述べる。

 イヴリンは少し怪我もあるようだが、身体に大きな異常が無い事を見て取り、アルトリウスも少し肩の力を抜く。


「おのれっ!」


 その僅かな時間を隙と見た1人の戦士が怒号と共に槍を振るう。

 追いかけて襲い掛かってきたその戦士の胸を突いて退け、更にかかって来ようとする戦士達を手で制し、アルトリウスは痛みで白目を剥き、泡を吹いた戦士を放り投げると口を開いた。


「おっと、そこまでである。我の実力をもう少し発揮しても良いが、次は刃を使わせて貰うであるぞ?」


 アルトリウスの言葉に明らかに怯み、包囲の輪を広げる戦士達。

 その様子を見て取り、アルトリウスはにやっと笑みを浮かべて言葉を継ぐ。


「もう分かったであろう。おぬしらでは束になっても我に勝てん。死人が出ぬ内に止めておくのである」

「く、くそっ」


 戦士の1人が悪態をつくが、槍の穂先を前にして構えを直したアルトリウスに、威圧されて一歩下がる。


「いい加減にして貰いたいものであるな」

「な、何をだ?」

「我はここに話しをしに来たのである、断じて戦の為ではない」


 アルトリウスの言葉で、戦士たちが怒る。


「それが話をしに来た者の態度か!」

「おぬしらは話を聞く者の態度では無いなあ~んん?」

「貴様!」


 馬鹿にされている事に気付いた戦士達が殺気立ち、槍を持つ手に力を込めた。

 が、今までの飄々とした雰囲気を消し、鋭い視線を周囲に放ったアルトリウスに圧倒されて身体を固める。

 しばらくにらみ合いが続くが、やがて長老が進み出るとゆっくり言葉を発した。


「……聞くだけなら聞いてやろう」

「ほう、そうか?そうであるならば話をしようではないか」


 アルトリウスは持っていた槍をイヴリンへ預け、先程まで座っていたテーブルと椅子を元の位置に戻すと、悠然と腰掛けた。

 あっけに取られてその仕草を見ていたヘルカントの戦士や長老達は、アルトリウスが振り向いて物問いたげにしているのを見てはっと我に返る。

 そしてそれぞれの位置に腰掛け始めた。

 周囲に破損した槍やその穂先が散乱し、血が飛び散っているが気を失っていた戦士は他の戦士達の手によって外へと運び出されてゆく。


「まずは我の仲介を成してくれる者を紹介したいのである」


 アルトリウスはそう言ってイヴリンとレリアを手招きして自分の横へと座らせた。


「……アルクイン族ファンガス氏族のレリアです」

「アルクインのイヴリンだ……」


 アルトリウスに手で促されて自己紹介する2人、その名前に聞き覚えのある村長と戦士長が目を見開く。


「そして我は……」

「西方帝国のアルトリウス司令官、だったな?」


 更に自己紹介をしようとしたアルトリウスを遮る長老と思しき男。

 アルトリウスは片眉を上げ、面白そうに言葉を発する。


「いかにも、で?」

「わしはヘルカント族ウーステン村長のデリクゥースだ」

「ウーステン村戦士長、オニーリ」


 相次いで自己紹介をする村長と戦士長に、アルトリウスはにっこり微笑んだ。


「では、話し合いであるな!」


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