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ドール  作者: タンポポ
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第1話〜悲しみも秘密…それがあなたの鏡〜

相変わらずこの街は賑やかな所だな。


こんな昼間っから制服を着て街中を歩いてたって特に目立たない。


たまに今時の若者は…!

なんて陰口がコソコソと聞こえてくる。


まぁ当然だ、今は確かに平日の昼間、学生なら授業を受けている時間帯なのだが、俺は煙草を吸いながら街の中をプラプラと歩いていた。


別に学校が嫌いとかイジメられたとかそんなんじゃない。イジメなんかとは昔から無縁だった。


むしろ学校は好きな方だし友達だって親友と呼べる奴がたくさんいるくらいだ。


じゃあなぜって…?

失恋したんだよ…。凄い好きだった、もしかしたら向こうも俺に気があるんじゃないかなんて思っていた。


でもそれは俺の勘違いだったみたいで、そいつには彼氏ができちゃったみたいなんだ。


それでどうでも良くなった。


学校だって、過去も未来も、今の自分だって…。


生きていく上では必ず辛い事なんかいくらでもある。人間には『自由』なんかないんだ。もし自由な奴がいる…いや、居たのだったらそいつは牢屋の中とかにいるんだろうな。もしくは世間のはみ出し者だ。


社会のルールを守れず好き勝手やったんだろう。仕事もせずに外に出ずに…『自由』に行き着いた奴に待っているのは『孤独』。

二人揃えば意見の違いから自由じゃなくなるって事だ。



だからこそ人間は支えられて生きている。親、友達、夢、金、恋人…。


高校生なんて所詮まだ餓鬼であって親に食わせてもらっている。小遣い稼ぎに始めたバイトと堅苦しい学校は辛い。


そんな時に支えが救ってくれるはず。今までの俺なら、あいつの返事を待つ。そう考えるだけで不思議と頑張れた。


でも今はもうそれがない。これが失恋なんだ。


自殺したい奴なんて馬鹿だと思っていたけど、今はその気持ちがなんとなく分かる気がした。


歩いているのに歩いている感覚がない。

呼吸をしているかどうかさえ定かではなくなっていた。


でも、こんな悲しさを人に言えないのが俺の損な性格。


言った所で何も解決しないし、大切な友達だからこそ心配をかけたくない。


結局、最後に解決させるのは自分自身なのだ。


だから俺は秘密にしてきた。


そんな時、目に止まった店があった。


他の店はオシャレな飾りや雰囲気で、流行りを手に入れているのに対して、なんだこの店は?


センスも感じられないボロボロな店。こんな店がこの街の中にあるってだけで浮いている。なぜ取り壊されないのかが不思議なくらいだ。


表の看板には、人…からの次の文字がかすれて読めない。何を扱っているのかすら分からない店に客など来るだろうか?


しかし、なぜか俺は自然とその中に吸い込まれる様に店内に足を踏み入れた。



〜ガラガッ…ガラガラ〜


スライドさせるドアだってまともに開いてくれず、途中で何かに引っ掛かった。ここまでボロなのかとため息が出る。


店内をパッと見回すと、壁には蜘蛛の巣、床にはホコリと酷いものがあった。しかし、商品だけは綺麗だった。


むしろ綺麗すぎて目立つ。まるで目立ちたい奴の様に俺には見えた。

人…ではない、人形だ。無数も並ぶ様々な姿形の人形。この店は人形屋だった事が判明した。


『うざってぇ…』


ポロッと本音が零れた。それもそのはず、先ほどまでの(無)の感情より(怒)の感情が溢れていた。


「何かありましたかな?」


声の主は年老いた老人。

すぐ目の前からしたが、人の気配なんて微塵も感じなかった。


『い、いや…』


失礼と知りながらも驚いてしまった。


なにせヨボヨボのしいさんが不気味に笑っているんだ。無理もない。


「青年、名は何と申す?」


『一樹……間嶺一樹まねき かずきだ』


なんで初来店の、何も買ってない客の俺がいきなりこんなじいさんに名前を教えなくちゃいけないんだ?

って思ったけどなぜかこの老人には不思議なオーラがあって…いつの間にかペースに乗せられているような気分になってしまう。


「随分と溜まった怒り。いや、これは悲しさの方かな?…お前さんにピッタリの物があるぞい?」


そう言って老人が人差し指を向けた方を見ると、やはり人形が置いてあった。


しかし、この人形には他の人形とどこか違う雰囲気があった。


まるで自分が1番だと言う心の叫びが聞こえてきそうな程、メイクや髪を染めた人形に比べると、どこかおとなしい感じがする。


体長は30センチくらいだろうか。他の人形に比べれば明らかに一回り小さいサイズ。服装も姉のお下がりを着る妹の様な、古びた衣類。麦藁帽子を被った黒い髪。


まぁ、どこにでも売っていそうな…というより、売り残りそうな人形だった。


『じいさん、この人形がどうかしたのか?まさか、高校二年にもなって…しかも男の俺に買えって言うのか?』


皮肉たっぷりの口調で俺は老人に言ってのけた。


「ヒヒヒ…」


老人はまたしても不気味に笑い指差している。


その指先は人形の足元に向いていた。


『紙…?』


値段でも書いてあるのか?

と、手にとって見てみるとそこにはこう書かれていた。


【悲しみも秘密。それが、あなたの鏡】


まさに今の俺にピッタリの言葉。それで余計に腹が立った。


『うるせぇよ!!』


俺はそう言い放ち、その紙を勢いよく真っ二つに引き裂いた。

怒りを抑えられない俺は人形を抱えて店を飛び出した。代金など払っていない。しかしそんな事が頭に回らないほど血が上っていた。




「ヒヒヒ…やっと見つけたのう。さて、これからあの青年と人形がどうなるのか楽しみじゃて…ヒヒ」


老人は一樹が走っていく背中を見送って独り言を呟いき、闇の中に姿を消した。

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