春と夏の境界線
掲載日:2026/08/04
「わたしね、春と夏の境界線が見えるの」
彼女はそう言ってふわりと笑った。
あなたにだけ教えてあげる、と。
ふたりの間にそっと秘密を置くように。
おかしくって、僕は訊いた。
それってどこに見えるの?いつ見えるの?
「多分ね、あと1ヶ月くらいしたら」
それが、僕と彼女の出会いだった。
それから僕らは話をした。
毎日話して、それでも話は尽きなかった。
面白かった小説や映画の話、好きなラジオ番組の話。
旅に行った先で見た、忘れられない景色。
今までで一番おいしかった料理の話。
大人になったらやりたいこと、子どものうちにやりたいこと。
話している時の彼女は明るくて、柔らかくて、きらきらしていた。
気づいたら、僕は彼女のことを好きになっていた。
僕はそのことを彼女に伝えた。
出会ってから、1ヶ月が経っていた。
「見えたよ、春と夏の境界線」
出会いの春が過ぎ去って、青い夏がやってくる。




