勇者ちゃんにキスしないと戦えない(百合)
私はいつだって、キスをするときに緊張してしまう。
魔物の気配が、すぐそこまで迫っている。足裏に感じる地響きは、大型モンスターのものだろうか。この状況でも長い睫毛が近付いて、柔らかく唇が触れ合って緊張を溶かしていく。背伸びをしたリーシャが踵を下ろすと、えへへと無邪気に笑って拳を握り、つぎに背の高い女が私の頬に触れて口付けて、囁くように言った。
「安心して、すぐに終わらせるわ」
「そうそうリーシャたちに任せて!」
——その直後、地面が大きく揺れた。地面を突き破って顔を出したのは、モグラ型のモンスター・モグモンラで先が鋭利な矛になった両手で土を払うと、耳をつんざくような奇声をあげた。その奇声はすさまじいもので、木々を揺らすほどの衝撃波が肌を揺らして、掠れた刺激が表面を走る。
「うわー! うるさっ!」
リーシャが迷惑そうな顔で顔を顰めて耳を押さえる。犬型の獣人にとっては、その音が何倍にも聞こえる筈だ。しかし、手元に眩い光の帯を灯した彼女の口元には未だ余裕があり、口角を吊り上げると光の帯がオーラとなって全身を包んだ。
「私、まだまだ満足してないんだから早く倒しちゃわないとね! エルシー、サポートおねがい!」
「言われなくとも、──アイスリンク」
リーシャが地を蹴った瞬間、その体は光の筋となった。
「キュ、ィッ?!」
一筋の光がモグモンラへと距離を詰めて、反応しきれないモグモンラが声をあげながら考え無しに矛となった手を振り下ろす。しかし細い光の筋を捉えるほどの速さはない。
それどころか振り落とした先は硬く凍りついており、そこから矛に伸びる霜はモグモンラの四肢を凍り付けて自由を奪う。それによりがら空きになった頭上には光が飛び上がり──リーシャが、拳を燃やしながら叫んだ。
「最大エネルギーでいっくよぉ! メテオストライク!」
*
「いやぁ、いつもながらリーシャとエルシーの連携はバッチリだったね」
焼けた肉がジュウッ、と音を立てて脂を弾く。地中の中で活発に動くモグモンラは、見た目に反してよく脂がのっている。煙に溶け込んだ肉に擦りこんだ果実とスパイスのタレの匂いにはどこか爽やかさがある。
強火で一気に焼いて表面をカリッと仕上げたあと、網から下ろした肉を裂く。別に裂かなくてもこのまま食べられるのだが、今日はコ〇トコで売っているようなハイローラーを作りたい。
「あーん……早く食べたいよ~」
「リーシャ、もう少し我慢しろ」
「エルシーはお腹空いてないの?」
「空いてる」
「だよねぇ」
うちの子たちが腹ペコなようなので、急がなければならない。
クレープみたいに薄く焼いた皮に千切りにしてマヨネーズを和えたキャベツと人参、それからホロホロに裂いた肉を横並びに置いて、しっかりと海苔巻きみたいにクルリと巻く。それを食べやすいように切り分けながら、「ハイローラーって西洋風な海苔巻きっぽい」と思ったが、味は抜群にパンチのあるものだった。
柑橘系のさわやかな風味と、それを邪魔しないピリリと効いたスパイス。お肉に塩味がある分、マヨネーズを和えただけの野菜が甘く感じる。それなのにあれだけお腹がすいたと言っていたリーシャとエルシーの反応は普通で、私ばかりがまいにちその美味しさに舌鼓を打っている。
食べ終えて一息つくと、リーシャが甘えた声を出しながら、私の方へと身を寄せた。犬の獣人なのに、そのすり寄り方は慎重で「それじゃあ、もういいよね?」と囁く声は猫撫で声だ。
「う……リーシャ、もう少し待って……」
「やーだ♡」
拒否も出来ず、というか、断られてリーシャの唇が触れる。ちゅ、ちゅと遊ぶように口付けて、時には遊ぶように下唇を噛まれて。その小さな唇は柔らかいが──普段は長く続くそれが十秒と立たずに離れる。
リーシャは口を押えながら耳を垂らした。
「ひい~~辛い、ユーシャのおくち辛いよぉ」
「あ、ごめん。さっき食べたばっかりだから」
「どれどれ」
「んむ、ちょ、える、エルシー……ッ」
「ん……ピリリとするキスも中々だな……」
交代とばかりに豊満な胸を押し付けるエルシーは、深く唇を重ねた。その上、兎に角長い。呼吸が続かずに顔を傾けて中断しても、執拗に唇を狙われて塞がれてしまう。キスが続き、意識がボウと散漫になった頃合い、リーシャが耳元で囁いた。
「ユーシャのキスが、私たちのエネルギーなんだから諦めて?」
……うう、こんなスキル、もういやだ!
最後まで見て下さり、ありがとうございました。




