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第二十話:英雄の追跡

ジャックは宮殿の回廊を風のように駆け抜けていた。


エレナに贈った銀製のブローチ――そこに仕込んだ探知魔法のかすかな反応をたどるその速度は、もはや常人のそれではない。


一歩踏み出すごとに石畳が鳴り、凄まじい衝撃波が後方に置き去りにされていく。


「影」


短く呼びかけると、虚空がゆらりと蠢いた。


現れた漆黒の輪郭が、並走するように影から声を上げる。


「ここに」


「エレナの守護はどうなった」


「……申し訳ございません。皇帝の強大な魔力により、仕掛けた術式はすべて無効化されました」


影の声には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。


大陸最強の魔道皇帝、ヴィルヘルム。


一筋縄ではいかない怪物であることは、ジャックも百も承知だ。


だが、相手が神であろうと怪物であろうと、愛する女を奪われて黙って引き下がるつもりなど微塵もない。


ジャックの瞳に、冷酷なまでの闘志が宿る。


「もうすぐあの男の結界を叩き割る。俺が奴の相手をしている隙に、お前はエレナを保護しろ」


「御意」


辿り着いたのは、宮殿の最奥にある人気の無い一角。


そこにある何の変哲もない扉の前に、ジャックは仁王立ちになった。


ジャックは迷いなく剣を抜き放ち、その白銀の刀身に濃密なマナを纏わせる。


黄金色の光が渦巻き、周囲の空気が重低音を響かせて震えた。


「……ッ」


呼吸を整え、無造作に――横一閃。


――パリンッ!


それは、物理的な破壊音ではない。


皇国が誇る最高位の魔道結界が、ただの一撃で、概念ごと粉砕された音だった。


背後に控える影が、思わず息を呑む。


(……正気か。あの高度な結界を一撃で……なんて御方だ……!)


驚愕を置き去りに、ジャックは扉を蹴破った。


凄まじい轟音と共に、閉ざされた空間が暴かれる。


そこには、静寂の中でエレナを抱き寄せるヴィルヘルムの姿があった。


金色の瞳と、碧眼が火花を散らす。


「エレナを、迎えに来た」


低い、だが絶対の意志が籠もった声。


最愛をその手に取り戻すための、大陸最強同士の戦いが、今幕を開けた。


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