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ミニゲーム前編

基礎練習を一通り終えたあと、ミニゲームに入った。


人数は五対五。

ゴールは小さく、ピッチは狭い。


最初の数分は、普通だった。

声が出て、ボールが回る。

特別な違和感は、ない。


——少しずつ、変わった。


右サイドでボールが動く。

相手の視線が、一瞬だけ中に寄った。


——今。


体が、勝手に前へ出る。

一歩、二歩。

完全にフリー。


……来ない。


ボールは逆へ展開され、

叶弥は取り残された形で戻る。


「……あ」


誰かが、短く声を漏らした。

責める響きじゃない。

ただ、空気が一段、硬くなる。


次のプレー。


足元に入ったボールを、止めない。

ワンタッチで、斜め後ろに落とす。


(次は、ここだ)


そう思った瞬間——

そこに、味方はいなかった。


ボールだけが転がり、相手に奪われる。


「……え?」


今度は、はっきりと聞こえた。

言葉は少ない。

でも、視線が増える。


ミスが出るたび、声が減っていく。

笑いも、消える。


俺は何も言わない。

言い訳もしない。


ただ、配置を見る。


立ち位置。

距離。

判断のテンポ。


——ズレている。


技術じゃない。

共有されていないだけだ。


誰に言うでもなく、そう思った。



少し離れた場所。

また、キャプテンは様子を見ていた。


センターバックのレギュラーである彼は

試合の流れも、全体の配置も、自然と目に入った。


さっきから、ひとりだけ気になる動きがある。


走っているようで、走っていない。

顔は上がっているのに、ボールを欲しがる素振りがない。


それでもやっぱりサボっているわけじゃない。

間合いは外さないし、パスコースも消えていない。


ただ――

“次”を、もう見ている感じがした。


——違う。


理由は言葉にならない。

ただ、胸の奥に引っかかる。


キャプテンは、一度だけ視線を外す。

監督の方を見る。


「……あいつ、ちょっと変です」


小さな声だった。

評価でも、告げ口でもない。


監督は何も言わず、頷いた。


「次、途中から一人入るぞ」


その一言で、空気が変わった。


キャプテンが、ピッチに入る。


叶弥は、ちらりと見る。


——観られている。


それだけは、分かった。


ホイッスルが鳴る。


ミニゲームが始まった。


キャプテンは敵側、センターバックの位置に入る。


キャプテンは敵の動きより、味方の配置を先に見ていた。

センターバックの癖だった。


自然とラインが締まる。声を出さなくても、周囲が合わせてくる。


(……視野が広いな)


叶弥は前線にいた。

動き出しは早いが、要求はしない。


パスコースが一瞬、開く。

叶弥はそこを見る。


——出ない。


味方は別の方向を選ぶ。


もう一度、角度を変える。

背後のスペースが空く。


——気づかれない。


キャプテンは、後ろからそれを見ていた。


(自分からは行かない)

(でも、待ってるわけでもない)


奇妙だった。

普通なら、苛立つか、手を挙げる。


叶弥はしない。


一度だけ、ワンタッチで落とす。

味方が少し戸惑う。


その一瞬で、スペースが生まれる。


キャプテンの眉がわずかに動いた。


(……今の、意図的だな)


叶弥は、もう一度周囲を見る。

味方の位置。

相手の体の向き。


選択肢は、消えていく。


パスは、通らない。

抜けても、使われない。


(……なるほど)


キャプテンは気づいた。

叶弥は“独り”になっている。


もう一度、パスの選択肢を探す素振りを見せたあと――

叶弥は、仕方がないように前を向いた。


キャプテンが一歩、前に出る。

間合いを詰める。


(来い)


その瞬間、叶弥の重心がわずかに沈んだ。


——ここからだ。

次回はミニゲーム後編です。

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