第二章・部活編ー入部
放課後の校舎は、少しだけ静かだった。
下駄箱を抜けると、風に乗ってボールの音が聞こえる。
乾いた音。一定のリズム。
叶弥は、足を止めた。
グラウンドではサッカー部が練習していた。
声は出ている。
動きも、悪くない。
でも――
(少し、詰まりすぎてる)
誰に言うでもなく、そう思った。
立ち位置が近い。
判断が、半拍遅れる。
頭の中で、勝手に修正案が浮かぶ。
それ以上は考えない。
ただ、見ていた。
「見学か?」
横から声がした。
振り向くと、れんがいた。
ジャージ姿で、タオルを首にかけている。
これから体育館に行くのだろう。
「いや」
「入るんだろ?」
即答、というほどでもない。
確かめるような口調だった。
「……まあ」
れんは、少しだけ笑った。
「だよな。見てりゃ分かる。じゃあ俺、部活あるから行くわ」
そう言って、れんは体育館に向かっていった。
それ以上、何も言わない。
サッカーの話もしない。
れんは、そういうやつだった。
⸻
翌日。
事務室で、入部届を出した。
顧問は軽く目を通し、スタンプを押す。
「今日から慣らしで、一緒に練習してもらう形になるが、いけるか?」
「はい。問題ありません。」
紙の上に、自分の名前が残った。
羽谷 叶弥。
ペンを置いた音が、やけに大きく聞こえた。
事務的な会話を終え、事務室を後にする。
⸻
グラウンドに出ると、すでに部員たちが散らばっていた。
キャプテンの声が響く。
「集合ー!」
声に引かれるように、部員たちが集まる。
監督が前に出た。
「今日の練習メニューを伝える。その前に一人紹介する」
一瞬、視線が集まる。
「転校生の羽谷だ。今日からサッカー部に入部することになった」
「羽谷 叶弥です。これからよろしくお願いします」
短く頭を下げる。
「分からないことも多いと思う。色々教えてやってくれ」
「はい!」
「じゃあ、練習に取り掛かってくれ」
そう言って、監督は手を叩いた。
グラウンドに立つ。
土の感触。
芝の匂い。
久しぶりなのに、違和感はなかった。
円陣が組まれる。
「一年、声出せよ!」
上級生の声が飛ぶ。
叶弥は、短く返事をした。
「はい」
それ以上、出しゃばらない。
準備運動。
パス回し。
ボールは来る。
でも、多くはない。
(……これでいい)
無理に要求しない。
流れを見る。
相手の体の向き。
味方の立ち位置。
空いたスペース。
判断は、自然と終わっていた。
一度だけ、ワンタッチで落とした。
味方が一瞬、戸惑う。
でも、その先でスペースが空く。
「今の、なんでそこ?」
誰かが言った。
驚きとも疑問ともつかない声だった。
叶弥は答えなかった。
聞かれていない。
⸻
三年のキャプテン――センターバックのレギュラーが、腕を組んで立っていた。
(走ってないように見えるな)
でも、視線は切れていない。
間合いも、ズレていない。
(……サボってるわけじゃない)
違和感だけが残った。
第二章が始まりました。
これから叶弥の部活シーンを書いていきます。
引き続き読んでもらえると嬉しいです!




