日常編その3・昼休み
そして、いつもの昼休み。
(この時間が一番落ち着くわ)
いつものように、叶弥は携帯を操作していた。
画面にはサッカーゲームが映っている。
「お、それ最新のやつ?」
突然、横から声がした。
顔を上げると、
背が高くて、やたら明るそうな男が立っていた。
「……何?」
「いや、最近となりのクラスに転校生が来たって聞いてさ。
色々噂が立ってて、ちょっと話してみたかったんだ」
遠慮がない。
距離も近い。
(なんだこいつ。それに“噂”ってなんだよ……まじでやめてくれ)
「俺、桐島 蓮。バスケ部。隣のクラスだぜ」
そう言いながら、断りもなく椅子に座る。
「羽谷くん、だっけ?
なんか“近寄りがたい”って言われてるぞ」
直球すぎる。
「……放っとけ」
「だよな、はは。でもさ」
桐島は、画面を覗き込んだ。
「その配置、右サイド使わないの?」
一瞬、叶弥の指が止まる。
「……使う。このあと、相手が寄った瞬間に」
「お、分かってんじゃん」
ニッと笑った。
しばらく、二人で並んで画面を見る。
桐島は、それ以上踏み込んでこない。
質問もしない。
過去も聞かない。
ただ、隣にいるだけだ。
「なあ」
「なに」
「俺もそのゲームやってるんだけどさ。対戦やらね?」
(ちょうどAI戦に飽きてきたとこだ。
人間相手も、暇つぶしにはなるか)
「……まあ、いいよ。やろうぜ」
「おっしゃ!決まり〜」
対戦が始まった。
(ここをこうしたら……よし、いける)
――と思った瞬間、ボールを奪われた。
(組み立ては悪くなかったのに……止めなきゃ。
この流れなら、次はここに来るはず……ここだ!
……は?)
「よっしゃー!! ゴールだぜ!」
「くそ……読んでたはずなのに」
「ふふ、俺を甘く見すぎたようだな!」
(こいつ、異様にゲームが上手すぎる。
指捌きどうなってんだ。プロかよ)
気づけば時間は過ぎていた。
結果は――負け。
「俺の勝ち〜!」
「くっ……もう一回頼む」
「はは、意外と負けず嫌いだな。
でももう昼休み終わりだ。また明日やろうぜ!」
(もうチャイムがなるのか。
思ったより、時間が早く感じたな。
……こんな昼休み、初めてだ)
「分かった。明日やろう」
「りょーかいっ」
数日後。
いつの間にか、昼休みは二人で過ごすようになっていた。
相変わらず、こいつには勝てない。
でも、不思議と悪い気分じゃない。
「なあ、羽谷」
「叶弥でいい」
一瞬きょとんとした顔をしてから、
桐島は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、きょうや。
俺も“れん”でいいから」
「うん、れん。よろしく」
「ああ! こちらこそよろしくな〜」
憂鬱だった学校も、
少しはマシになりそうだった。
その時の俺は、まだ知らなかった。
ただの学校生活で、ただの昼休みで、
ただサッカーが好きなだけだと思っていた日々が、
この先、何度も思い出すことになる「始まり」だったなんて。
これで日常編は終わりです。
次回から第ニ章に入ります。




