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全国大会編⑦・「来ない」

後半が始まる。


俺は最前線に立つ。


相手の最終ラインを見る。


――変わっている。


さっきまで中央にいた若い二人が、少し外にズレている。


その代わりに。


中央に立っているのは――


あの男。


元プロのセンターバック。


真壁。


ほんの一瞬。


俺と目が合う。


(俺を見る気か)


キックオフ。


ボールが動く。


中盤で一度繋ぎ、右サイドへ。


俺は最終ラインの間に立つ。


動かない。


様子を見る。


真壁も動かない。


距離は、一定。


詰めてもこない。


離れもしない。


(……なるほど)


軽く落ちる。


中盤が縦を見る。


だが――


真壁はついてこない。


ラインを崩さない。


代わりに、後ろから若いCBが寄ってくる。


(役割分担か)


もう一歩落ちる。


そこで初めて、真壁が動いた。


静かに、距離を詰めてくる。


慌てない。


急がない。


逃げ場を削る動き。


(さすがだな)


思わず、少しだけ口元が上がる。


俺はボールを受ける。


背中に、重い圧。


さっきの若手とは、違う。


――真壁だ。


俺は一度、ボールを足裏で止める。


背中越しに重さが伝わる。


押してくるわけじゃない。


だが、逃げ道は消えている。


(…近いな)


軽く体を預ける。


びくともしない。


無理に反転すれば、刈られる。


なら――


ワンタッチで落とす。


中盤が受ける。


俺はすぐに動き直す。


裏へ。


真壁は――来ない。


ラインを崩さない。


代わりに、横のCBが寄る。


(そういう守りか)


ボールはサイドへ展開される。


俺は再び中央に戻る。


そのとき。


真壁が、初めて口を開いた。


「……落ち着いてんなぁ、坊主」


低い声。


俺は振り向かない。


ただ、少しだけ笑う。


(そっちこそ)


ーーー


数分後。


中盤でボールが奪われる。


味方が前を向く。


縦を見る。


俺は、半歩だけ外へ流れる。


真壁の視界から、少し外れる。


パスが来る。


トラップ。


同時に体を入れる。


だが――


重い。


背中に、さっきよりも強い圧。


またも真壁だ。


俺は反転を狙う。


右足でボールを引く。


一瞬、体が開く。


その瞬間。


真壁の足が伸びた。


ボールだけを、正確に弾く。


俺の体は崩れない。


しかしボールは、もう足元にはない。


若いCBが拾う。


カウンター。


「ナイス、真壁さん!」


後ろから声が飛ぶ。


俺は一歩だけ立ち止まる。


(……今のか)


真壁は振り向かない。


すぐにラインへ戻る。


何事もなかったように。


さっきの一瞬。


分かったことがある。


(足を出すタイミング)


速さ。


読みでもない。


反応でもない。


間合いだ。


俺はゆっくりとポジションへ戻る。


真壁がこちらを見る。


ほんのわずか。


目が細くなる。


俺は視線を外す。


(記憶した。次はない)


ーーー


また数分後。


再びチャンスが来る。


中盤でボールが奪われる。


味方が前を向く。


縦を見る。


俺はまた、半歩だけ外へ流れる。


真壁の視界から、少し外れる。


(さっきと同じ形だ)


パスが出る。


足元。


トラップ。


背中に圧。


真壁。


さっきと同じ距離。


同じ間合い。


同じタイミングで――


足が来る。


その瞬間。


俺は触らない。


ボールを、流す。


真壁の足が空を切る。


体を入れ替える。


一歩で前へ出る。


「…っとまじか!?」


背後で芝が鳴る。


だが遅い。


前を向く。


だが。


すぐ横から影が来る。


若いCB。


カバー。


コースを絞る動き。


完全なフリーにはならない。


(いい連携だな)


それでも。


一歩だけ持ち出す。


体をぶつけられる。


バランスが崩れる。


それでも振り抜く。


低い弾道。


キーパーの指先に触れ

ポストを叩く。


ガゴォーン!!


鈍い音がグラウンドに響く。


外へ弾かれる。


「……チッ、っぶねぇ」


誰かが舌打ちする。


俺は立ち上がる。


視線を上げる。


真壁が、こちらを見ていた。


ほんの少しだけ。


口元が上がっていた。


(次は何をしてくる)


ーーー


次のプレー。


ビルドアップ。


最終ラインからボランチへ。


顔が上がる。


俺を見る。


だが。


パスは来ない。


横へ。


サイドへ展開。


もう一度。


中盤。


俺は中央で待つ。


半歩だけ、空く。


出せる角度。


しかし、ボランチが止まる。


迷う。


(これは、まさか....)


その瞬間。


影が伸びる。


真壁だ。


ラインを押し上げながら、パスコースを消している。


俺への縦の線だけを、きれいに塞ぐ。


味方は外へ逃がす。


右サイド。


だがそこにも、すぐに寄せが来る。


ボールが回らない。


もう一度、中盤へ。


顔が上がる。


俺と目が合う。


その間に。


真壁が、半歩だけ体をずらす。


縦のコースが、完全に消える。


結局、後ろへ戻る。


「ナイス!」


社会人の声が飛ぶ。


俺は中央で立ったまま。


ボールは回る。


それでも俺には来ない。


守っているのは、俺ではなかった。


俺へ行く道。


ボールが奪われる。


対処方が、ない。


(この形のままじゃ、無理だ)


カウンター。


一気に前へ運ばれる。


「戻れ!」


味方の声。


守備に走る。


グラウンドの流れが、少しずつ変わっていく。


遠くで、真壁の声が聞こえた。


「そこ閉めろ!」


「縦、切れ!」


組織が動く。


ラインが揃う。


俺は遠くでボールを見つめていた。


ボールはもう....


来ない。

少し更新の間隔が空くこともありますが、変わらず書き続けていきます。整えながら進めていきます。

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