日常編 その2・体育という罠
次は体育の時間だ。
……まさか、こんなことで浮くとは思わなかった。
着替えである。
シャツを脱いだ、その瞬間だった。
「……え」
「体、やばくね?」
「ムキムキじゃん……」
ひそひそとした声が、更衣室に広がる。
(……なんでだ?)
確かに鍛えてはいた。
でも、海外では普通だった。
フランスにも、ドイツにも、俺よりでかい奴はいくらでもいた。
筋肉の塊みたいなやつだって、珍しくなかった。
だから、自分の体格を「普通」だと思っていた。
でも、日本では違ったらしい。
視線が集まるのが嫌で、俺はさっさと体操服を着た。
(……静かに過ごすって、意外と難しいな)
⸻
今日の種目は、バレーボール。
正直、少しだけ安心した。
サッカーほど目立たないと思ったからだ。
それに、経験もゼロじゃない。
イタリアにいた頃、ほんの少しだけバレーをやったことがある。
手を使う競技だが、ボールの落下地点、フェイント、戦術、瞬間的な判断——
驚くほどサッカーと共通していた。
チームを組み、まずはパス練習。
手でボールを扱う感覚には違和感があったが、新鮮で、少し楽しい。
(……悪くない)
そして、試合形式に移る。
男女混合。
ネットの高さは2メートル24センチ。
(低いな……)
体格差を考えると、正直疑問はあった。
でも、きっと「みんなで楽しむ」ためなんだろう。
そういう時代なのかもしれない。
⸻
試合開始。
相手チームには、女子バレー部の選手がいた。
次の瞬間。
——ドンッ。
強烈なスパイクが飛んでくる。
(……っ!?)
完全に油断していた。
女子だから、なんて考えた自分を殴りたくなる。
反射的に体が動いた。
……足で。
ボールは、幸運にもセッターの方向へ上がった。
「あいつ、今……足で取った?」
「え、そんなのアリなの?」
(やば……)
冷や汗が背中を伝う。
次は、攻撃の番だった。
高く上がるトス。
自然と、タイミングを測っている自分がいた。
踏み切り。
——跳ぶ。
「……たっか」
誰かの声が聞こえた気がした。
空中でボールを捉え、思い切り叩き落とす。
——バゴンッ!!
轟音が体育館に響いた。
(……これが、バレーか)
サッカーとは違う。
でも、確かに快感があった。
着地して、我に返る。
……まただ。
全員が、こっちを見ている。
「ジャンプ力おかしくない?」
「今、ボール見えなかったんだけど……」
ヒソヒソと声が聞こえる。
もう、勘弁してほしい。
叶弥は、ゆっくり息を吐いた。
(……学校では、静かに過ごそう)
そう、心に誓った。
——この誓いが、ほとんど守られないことを、
彼はまだ知らない。
次回で日常編が最後になります。




