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全国大会編⑤・「初見」

週末。


監督のツテで組まれた練習試合。


グラウンドに着く。


キャプテンが号令をかける。


「整列! 今日はよろしくお願いします!」


社会人チームの面々が、こちらを向いた。


「ああ、今日はよろしくな。怪我だけは気をつけろよ」


柔らかい声。

どこにでもいそうな、大人たち。


だが——


相手は社会人チーム。

元プロ経験者もいると聞いた。


アップが始まる。


トラップ一つで分かる。


ボールが、足に吸いつく。


体の厚み。

当たりの重さ。

寄せの速さ。


空気が、違う。


「……高校生相手に本気かよ」


誰かが小さく呟いた。


相手は強い。


だからこそ、どこまで通用するか試してみたい。


俺は最前線に立つ。


センターバック若手の二人。

一人は明らかに百八十後半。

もう一人は低いが、目が鋭い。


ふとサイドを見る。


そこに、ひとりだけ空気の違う男がいた。


短く刈った髪。

落ち着いた立ち姿。


ベテランの風貌。


(あれが……)


元プロか。


だが、今は対峙しない。


男はサイドに立ったまま、こちらを静かに見ていた。


ホイッスル。


(まずは、初見でどこまで崩れる)


視界の端で、CBの立ち位置を測る。


距離。

重心。

足の向き。


(最初の一手で、反応を見る)


立ち上がりは探り合い。


社会人のプレスは速い。

パスのズレを見逃さない。


だが――


10分。


右サイドでキャプテンが奪う。


相手のパスを読み切り、体を差し込む。


ボールを収めると、すぐには縦へ出さない。


一度、後ろへ落とす。


最終ラインへ。


そこから逆サイドへ展開。


社会人の守備がスライドする。


ブロックは整う。


中央は閉じられる。


俺は最前線で動かない。


CBの視界の外へ、半歩ずれる。


ボランチが顔を上げる。


一瞬、迷う。


縦は狭い。


外も詰まっている。


それでも。


強い縦パスが差し込まれる。


(来るのか)


俺は受ける“ふり”をする。


一歩、足元へ寄る。


CBも前に出る。


その瞬間。


足を振らない。


ボールをわざと通す。


股下を抜けたボールが、背後へ転がる。


俺は反転。


一瞬遅れたCBの外を回る。


背中に腕が伸びる。


だが、間に合わない。


完全に入れ替わる。


(遅い)


GKが前へ出る。


迷わない。


左足を振り抜く。


ネットが揺れる。


静まり返る一瞬。


「……おいおいディフェンダー

           今のは止めろよ」


低い声が背後で漏れる。


俺は振り返らない。


(初見は、通る)


再開。


今度はポスト。


背負ったまま、ワンタッチでボールを横に流す。


一瞬、マークが外れる。


反転。


ペナルティエリアの外。


間合いが空く。


迷わず振り抜く。


枠内。


GKが弾く。


「ほんとに高校生か?」


相手ベンチから声が飛ぶ。


30分。


カウンター。


味方が運ぶ。


中央を駆け上がる。


俺は並走しない。


一度、右へ流れる。


CBがついてくる。


「そっち行くな!」


低い声が飛ぶ。


だが、もう遅い。


中央にぽっかりと穴が空く。


味方が顔を上げる。


俺は外へ流れた足を止める。


一瞬、減速。


次の瞬間、内へ反転。


CBの重心が外に残る。


ふわりと浮いたロブパスが、中央へ落ちてくる。


時間が伸びる。


(間に合わない)


背後で、スパイクが芝を削る音。


落下点に滑り込む。


右足。


ダイレクト。


低く抑えた弾道。


ネットが揺れる。


二点目。


息を呑む静寂。


「……釣られたな」


社会人CBが吐き捨てる。


味方の歓声。


ベンチが立ち上がる。


監督は腕を組んだまま。


社会人CBが俺を見る。


今度は、少し距離を詰めて。


再開後。


マークがきつくなる。


背中にかかる圧が増す。


一度、ワンタッチで落とす。


相手が一歩、前に出る。


(来た)


すぐに反転。


背後へ走る。


味方がワンタッチでスルーパス。


抜け出す。


だが――


横から、もう一人。


完全に遅れたはずの足が伸びる。


削りにくる。


体がぶつかる。


重い衝撃。


それでも軸はぶれない。


倒れない。


半歩だけ、前に残る。


振り抜く。


低い弾道。


ポストを叩く。


ガンッ!


鈍い音が響く。


外へ弾かれる。


決定機。


惜しくも外れる。


「……今の止めきれねぇかぁ」

「ああ、すげぇ体幹だ……」


小さく聞こえた。


前半終了。


2-0。


通用している。


押している——とさえ言える。


だが...


ベンチへ戻る途中、相手CBとすれ違う。


低い声。


「前向かせすぎたな」


隣のCBが短く返す。


「次、距離詰めるか。挟むぞ」


——修正が早い。


初見だから、通った。


次——同じ形は、ない。


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