全国大会編③・「静かな快勝」
県大会優勝のあと、練習試合の申し込みは一気に増えた。
「ぜひ胸を貸してください」
そんな連絡が、頻繁に届くらしい。
だが全国まで残り一ヶ月。
監督は二校に絞った。
「量より質だ。怪我だけは避ける」
その一言で決まった。
⸻
一つ目の高校。
相手は隣県ベスト4の強豪。
キックオフの笛が鳴ると同時に、前線から一気に圧力が来た。
ボール保持者に二人。
縦コースを消しながら、連動してスライドする。
高校生らしい、勢いのあるプレス。
だが——
慌てるほどじゃない。
俺は最前線で、相手の最終ラインを見ていた。
右CB。
左CB。
そして、その間。
二人の距離。
ラインの高さ。
視線の動き。
少しだけ、左のCBが外を気にしている。
ウイングを警戒しているのがわかる。
その分、中央の距離がほんのわずかに広い。
10分。
ボランチから縦パスが入る。
俺はCBの間に立つ。
半身。
背後から圧が来る。
だが体を預けない。
ボールだけを触る。
ワンタッチで外へ流す。
パスを出したボランチが、すぐに返してくる。
リターン。
その瞬間。
俺は一歩、加速した。
CBの肩が並ぶ。
視界の端で、ラインを見る。
オフサイドライン。
——問題ない。
完璧。
抜け出す。
GKが前に出る。
距離が一気に詰まる。
(慌てるな)
右足を振りかぶる。
強く打つ構え。
GKの重心が、ほんのわずかに右へ寄る。
その逆へ。
インサイドで、軽く流す。
ボールは転がるようにゴールへ吸い込まれた。
ネットが揺れる。
静かな先制点。
「マジかよ……」
背後で、相手DFが呟く。
さっきまでの勢いが、
一瞬で削がれた。
⸻
20分。
左サイドが崩す。
SBがオーバーラップ。
ウイングが内側へ切り込む。
本来なら、
俺がニアへ飛び込む場面。
だが俺は、
一歩だけ遅らせた。
相手CBの体が、ニアへ寄る。
その瞬間、
中央が空く。
カットイン。
折り返し。
マイナスのボール。
俺は走り込む。
ダイレクト。
ゴール右隅。
二点目。
「やっぱ止まんねぇな……」
相手DFの声が、背中に届いた。
⸻
後半。
相手はラインを下げた。
さっきまであった裏のスペースが消える。
中央も締めてくる。
無理に裏を狙う時間じゃない。
俺は一度、
最前線から外れた。
中盤へ数歩落ちる。
一瞬だけ、
右CBがついてくる。
その瞬間。
最終ラインに、わずかな歪みが生まれる。
中央の距離が開く。
ボランチから足元へ。
受ける。
ワンタッチ。
外へ散らす。
相手が寄る。
ラインが揺れる。
戻りが遅れる。
その一瞬。
俺はまた、
前へ滑り込む。
リターンを受ける。
振り向かない。
そのまま、
スルーパス。
ラインの裏。
ウイングが走り込む。
GKと一対一。
流し込む。
三点目。
3-0。
⸻
試合終了。
握手の列。
相手キャプテンが、俺の前で止まった。
少しだけ眉を寄せている。
「……なんで、あんなに余裕があるんだ」
本気の目だった。
強がりでも、
皮肉でもない。
純粋な疑問。
答えは簡単だ。
——見えているからだ。
「そう見えたのなら、光栄です。」




