表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/43

全国大会編③・「静かな快勝」

県大会優勝のあと、練習試合の申し込みは一気に増えた。


「ぜひ胸を貸してください」


そんな連絡が、頻繁に届くらしい。


だが全国まで残り一ヶ月。


監督は二校に絞った。


「量より質だ。怪我だけは避ける」


その一言で決まった。



一つ目の高校。


相手は隣県ベスト4の強豪。


キックオフの笛が鳴ると同時に、前線から一気に圧力が来た。


ボール保持者に二人。


縦コースを消しながら、連動してスライドする。


高校生らしい、勢いのあるプレス。


だが——


慌てるほどじゃない。


俺は最前線で、相手の最終ラインを見ていた。


右CB。


左CB。


そして、その間。


二人の距離。


ラインの高さ。


視線の動き。


少しだけ、左のCBが外を気にしている。


ウイングを警戒しているのがわかる。


その分、中央の距離がほんのわずかに広い。


10分。


ボランチから縦パスが入る。


俺はCBの間に立つ。


半身。


背後から圧が来る。


だが体を預けない。


ボールだけを触る。


ワンタッチで外へ流す。


パスを出したボランチが、すぐに返してくる。


リターン。


その瞬間。


俺は一歩、加速した。


CBの肩が並ぶ。


視界の端で、ラインを見る。


オフサイドライン。


——問題ない。


完璧。


抜け出す。


GKが前に出る。


距離が一気に詰まる。


(慌てるな)


右足を振りかぶる。


強く打つ構え。


GKの重心が、ほんのわずかに右へ寄る。


その逆へ。


インサイドで、軽く流す。


ボールは転がるようにゴールへ吸い込まれた。


ネットが揺れる。


静かな先制点。


「マジかよ……」


背後で、相手DFが呟く。


さっきまでの勢いが、


一瞬で削がれた。



20分。


左サイドが崩す。


SBがオーバーラップ。


ウイングが内側へ切り込む。


本来なら、


俺がニアへ飛び込む場面。


だが俺は、


一歩だけ遅らせた。


相手CBの体が、ニアへ寄る。


その瞬間、


中央が空く。


カットイン。


折り返し。


マイナスのボール。


俺は走り込む。


ダイレクト。


ゴール右隅。


二点目。


「やっぱ止まんねぇな……」


相手DFの声が、背中に届いた。



後半。


相手はラインを下げた。


さっきまであった裏のスペースが消える。


中央も締めてくる。


無理に裏を狙う時間じゃない。


俺は一度、


最前線から外れた。


中盤へ数歩落ちる。


一瞬だけ、


右CBがついてくる。


その瞬間。


最終ラインに、わずかな歪みが生まれる。


中央の距離が開く。


ボランチから足元へ。


受ける。


ワンタッチ。


外へ散らす。


相手が寄る。


ラインが揺れる。


戻りが遅れる。


その一瞬。


俺はまた、


前へ滑り込む。


リターンを受ける。


振り向かない。


そのまま、


スルーパス。


ラインの裏。


ウイングが走り込む。


GKと一対一。


流し込む。


三点目。


3-0。



試合終了。


握手の列。


相手キャプテンが、俺の前で止まった。


少しだけ眉を寄せている。


「……なんで、あんなに余裕があるんだ」


本気の目だった。


強がりでも、


皮肉でもない。


純粋な疑問。


答えは簡単だ。


——見えているからだ。


「そう見えたのなら、光栄です。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ