全国大会編②・「最適化」
練習が始まる。
「切り替え早く! 寄せろ!」
キャプテンの声が、乾いた空気を震わせる。
俺は最前線に立つ。
相手CBの間。
オフサイドラインぎりぎり。
背後にはスペース。
前にはボール。
視界の端で、ボールが動く。
CBからボランチへ。
そこから右サイドへ展開。
俺は動かない。
まだ、出る場面じゃない。
ウイングが仕掛ける。
SBが外を回る。
相手SBが引く。
CBの視線が一瞬だけ外へ流れる。
その瞬間、俺は一歩だけ下がった。
右CBが迷う。
ついてくるか。
ラインを保つか。
判断が一瞬遅れる。
ラインに、わずかな隙間が生まれた。
(今だ)
右サイドからクロス。
俺はニアへ潰れる。
DFの前に身体を滑り込ませる。
ヘディング。
ゴール。
「ナイス羽谷!」
歓声が上がる。
悪くない。
いつもの形だ。
――だが。
次の攻撃。
左サイドで数的優位ができている。
SBとウイング。
相手は一枚。
本来なら、そのまま崩せる形だ。
それでも。
ボールは一度、中央の俺へ差し込まれた。
(……通すのか)
ポストで落とす。
ダイレクト。
ミドルシュート。
枠内。
「やっぱ羽谷通すと安定するな」
誰かが言う。
三本目。
今度はカウンター。
ウイングが前を向いている。
スペースもある。
自分で行ける距離だ。
それでも。
斜めに、俺へ預ける。
(……また俺か)
誰も無理をしない。
ワンタッチ。
裏へスルー。
走り込んだ味方が振り抜く。
ゴール。
正しい。
全部、正しい。
成功率は高い。
俺を使えば、崩れる。
でも。
(最初から、俺が終点になってる)
給水。
「最近さ、結局羽谷だよな」
誰かが笑いながら言う。
「そりゃそうだろ。一番確実だし」
笑い混じりの声。
冗談半分。でも、本音。
俺は軽く笑っておいた。
「はは、どうも」
けれど胸の奥は静かだった。
練習終盤のミニゲーム。
俺が中央に立つだけで、
味方の立ち位置が変わる。
“俺が決める前提”の幅。
“俺が落とす前提”の距離。
俺が触れることが、前提。
(……構造が、俺中心に固まってる)
最後のプレー。
右から速いクロス。
俺は跳ばない。
あえてスルーした。
ボールはそのままファーへ流れる。
味方が、一瞬遅れる。
「え?」
誰かの声。
その一拍。
そのズレ。
胸の奥が、冷える。
全国大会まで、あと一ヶ月。
チームは今、俺に最適化されている。
それは強さか。
それとも....




