第六章・全国大会編「再始動」
全国大会まで、残り一ヶ月。
スパイクの裏で芝を踏みしめながら、俺は空を見上げた。
終わったはずの県大会の余韻は、もうどこにもない。
歓声も、スタンドも、トロフィーも。
グラウンドには、ただ朝の風が流れているだけだった。
「集合!」
キャプテンの声が鋭く飛んだ。
散らばっていた部員たちが、一斉に中央へ集まる。
円ができる。
自然と前列に立つ者、後ろに下がる者。
誰も決めていないのに、いつも同じ配置になる。
チームの距離感。
それが、そのまま形になっていた。
監督がゆっくりと前に出る。
誰も喋らない。
数秒の沈黙。
それだけで、空気が締まる。
「県大会を終え、今日からまた練習を再開する」
低く、落ち着いた声。
「県大会で見つけた課題を意識しながら改善していく。と言っても、全国まで一ヶ月しかない」
風が芝を揺らす。
誰も目を逸らさない。
「新しいことを増やすのではなく、ミスを減らしていくことを優先する」
一拍。
「完成度を上げる。以上だ」
短い。
けれど、十分だった。
“上積み”じゃない。
“削る”作業。
余計な動き。
迷い。
半拍遅い判断。
それを一つずつ、削り落とす。
派手さはないが、一番難しい。
「よし、各自アップ入れ!」
キャプテンの声で円が崩れる。
ボールの転がる音。
スパイクが芝を削る音。
仲間同士の短い声掛け。
「ナイス!」
「もう一丁!」
「切り替え!」
いつも通りの練習が始まる。
だが、どこか空気が違う。
県大会を勝ち抜いた自信。
それと同時に、全国という未知。
俺は軽くボールを蹴り上げ、胸で収める。
トラップは悪くない。
ボールが、足元に吸い付く。
感覚は問題ない。
それでも――
(ミスを減らせ、か)
胸の内で、監督の言葉をなぞる。
ミスとは何だ。
パスがずれることか。
シュートを外すことか。
それとも――判断か。
選択の数は、無数にある。
右か左か。
縦か横か。
仕掛けるか、預けるか。
正解なんて、その瞬間には分からない。
結果が出て、初めて「正解」や「ミス」と呼ばれる。
選択する前から、それをミスだと決めつけることはできない。
なら――
本当に減らすべきものは、何なんだ。
「羽谷、回せ!」
呼ばれて顔を上げる。
ボールが足元へ滑ってくる。
俺はワンタッチで落とし、すぐに次のスペースを見る。
(考えすぎか)
そう思いながらも、胸の奥のざらつきは消えなかった。
練習は、もう始まっている。
全国まで、残り一ヶ月。
チームの“再始動”が、静かに動き出した。
全国大会編が始まりました。
ここからは全国の舞台です。
熱い試合をお届けできればと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。




