日常編・「変わってゆく日常」
変化した日常の話をしようと思う。
少し印象に残る出来事があった。
あとから振り返れば、ほんの些細なことだ。
けれど、その時の俺には、妙に引っかかって残った。
下校時、靴箱へ向かっていたときのことだ。
廊下の先、靴箱の前に、女子が三人、固まって立っているのが見えた。
誰かを待っているのだろうか。
楽しそうに話している様子でもない。ただ、そこに“陣取っている”。
――邪魔だな。
もう少し別の場所で待てばいいのに。
そう思いながらも、帰るにはそこを通るしかない。
視線を逸らしつつ近づくと、そのうちの一人が、こちらを見た。
「……あ、来た。あんたが羽谷?」
ぶつけるような声。
探していた獲物を見つけた、みたいな目。
「……え、そうですけど」
思わず足が止まる。
(まさかの俺かよ。勘弁してくれ)
空気が、一瞬張りつめた。
「ごめんねー。びっくりしちゃったよねー」
そう割って入ったのは、別の女子だった。
さっきの子とは正反対の、柔らかい声色。
「実はね、この子が話あるんだって」
そう言って、彼女は一歩横にずれ、
後ろにいた一人を、軽く促した。
前に出てきたのは、気の弱そうな、小柄な女の子だった。
肩が少し内側に入り、指先が落ち着かない。
緊張しているのが、はっきり分かる。
「……うっ」
言葉を探すように、視線が揺れる。
「ほら、頑張って」
背中を押され、彼女は一度小さく息を吸った。
「あ、あの……試合、すごかったです。
か、かっこ……よくて……。
だ、だから……お友達になりたいです」
最後まで言い切ると、
逃げ場を失ったみたいに、じっとこちらを見た。
沈黙。
「そういうことだから!よろしく」
(強引だな、この人)
内心そう思いながらも、
視線の先の彼女は、必死な顔をしていた。
「……あ、よろしくです」
「映えスタ、やってんの?」
唐突な質問に、思考が一瞬止まる。
(なんだそれ)
「.....やってないっすね」
「は? なんでやってないの。普通みんなやってるでしょ」
――普通。
その言葉に、胸が少し沈む。
(あ、俺、普通じゃないんだ)
困っていると、さっきの穏やかな子が、また一歩前に出た。
「ちょっと〇〇。強引すぎ。ごめんね、羽谷くん」
そう言ってから、続ける。
「やってなくてもいいんだよ。
この子がね、友達になりたいって言ってたから声かけただけ。
あ、もちろん私たちも、仲良くなれたら嬉しいなーって思ってたの」
「……よろしく」
短く答えると、
小柄な彼女の表情が、ぱっと明るくなった。
「はい。よろしくです!」
それで、会話は終わった。
靴を履き替え、校門へ向かう足取りは、どこか落ち着かなかった。
正直、かなり驚いた。
でも――嬉しかったのも、確かだった。
ただ、それと同時に、
少しだけ申し訳なくも思った。
俺の取り柄は、サッカーくらいだ。
きっと彼女は、サッカーをしている俺に興味を持っただけだ。
それ以外の俺を知れば、
静かに、離れていくだろう。
そんな未来が、簡単に想像できてしまう。
期待されることと、
本当の自分でいること。
そのズレが、生まれ始めている。
それもまた、
今の日常に紛れ込んだ、違和感だった。
少しだけ、こういうシーンも入れてみました。
恋愛がメインになる予定はありませんが、また機会があれば書いてみるかもしれません。




