県大会編・「チームの勝利」
インタビューを終え、俺はロッカールームへ向かった。
廊下のざわめきが、扉一枚で途切れる。
ノブに手をかけ、開けた瞬間——
歓声が、もう一度弾けた。
「お疲れ! 今日は大活躍だな!」
「天才すぎて驚いたよ!」
「なんで今まで隠してたんだよ!」
汗と制汗剤の匂い。
笑い声。
興奮がまだ残っている。
祝福だと分かっている。
けれど——
「……ああ、はい。ありがとうございます」
それしか言葉が出なかった。
嬉しくないわけじゃない。
ただ、胸の奥に、うまく形にならない違和感が引っかかっている。
(隠してた、か……)
俺は、ただ選んできただけだ。
その空気を、静かに断ち切ったのはキャプテンだった。
「お前ら。“隠してた”とか、どうでもいいだろ」
声を荒げない。
それでも自然と、部屋が静まる。
「これはチームの勝利だ。
みんなで戦って、みんなで勝った。それでいいじゃないか」
視線が、俺に向く。
「羽谷も、困ってるだろ?」
「……はい」
素直に頷いた。
一歩前に出て、頭を下げる。
「皆さんの判断と、最後まで粘り強く戦ってくれたおかげで勝てました。
自分は、その中で少し力になれただけです」
本心だった。
一人で壊した試合じゃない。
信じて蹴ってくれたパスがあった。
半拍を取り戻した守備があった。
「キャプテンの言う通り、これはチームの勝利だと思います。
本当に、ありがとうございました」
顔を上げると、キャプテンがふっと笑っていた。
「ああ。俺たちは勝ったんだ。
このまま、全国大会も頑張ろうぜ」
その一言で、空気がほどける。
「……確かにそうだな。悪かった、羽谷」
「すまん、ちょっと舞い上がってた」
「ああ、これからも一緒に全国で戦おうな!」
笑い声が戻る。
さっきまでの“個人”の熱が、
“チーム”の温度に戻っていく。
俺はその中で、静かに息を吐いた。
——ここにいていい。
そんな感覚が、ようやく胸に落ちた。
やがて監督が前に立つ。
「今日は、本当によく戦った」
余計な言葉はない。
「今日の試合で、それぞれ課題も見えたはずだ。
だがまずは、しっかり喜べ」
一拍。
「次は全国大会だ。
切り替えて、また一から積み上げていこう。以上。お疲れ様」
「ありがとうございました!」
声が揃う。
その響きは、試合前よりも、わずかに力強かった。
解散後、俺は一人、家路につく。
夜風が、火照った身体を冷ます。
スタジアムの灯りが、遠ざかっていく。
ドリブルの感覚。
シュートの感触。
あの半拍の判断。
すべてが、まだ指先に残っている。
——悪くなかった。
確かに、楽しかった。
それでも。
(……天才、か)
その言葉は、軽くて、重い。
俺は特別じゃない。
ただ、選んできただけだ。
迷わず。
恐れず。
今日も、そうしただけ。
キャプテンがフォローしてくれた。
仲間が信じてくれた。
だから、勝てた。
(今日は、もう休もう)
空を見上げる。
雲の隙間に、星がひとつだけ光っている。
(今日のサッカーは、楽しかった)
それでいい。
深く考えるのは、また今度だ。
——こうして、県大会は終わった。
海外で覚えたサッカーと、
この国の“部活”という文化。
最初は、少しだけ窮屈だった。
でも今は、違う。
仲間がいて、
信じる声があって、
託される視線がある。
(……なんか新鮮だ)
俺は、少しだけ笑った。
この場所で戦うのも。
きっと、悪くない。
これにてシーズン1完結です。
ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!
シーズン2につきましては、現在準備中です。少しお時間頂ければと思います。
2月27日より再開予定ですので、またお付き合いいただければ嬉しいです。




