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決勝戦・後半①「反撃の狼煙」

後半開始のホイッスルが鳴る。


予想通り展開になった。


ハーフタイムで立て直したはずの流れは、開始数分でまた押し返される。


相手は、焦らない。


ボールを奪うと、すぐに縦へは行かない。

一度、後ろへ戻す。


揺さぶる。


こちらのラインを、左右に引き伸ばす。


キャプテンが声を飛ばす。


「下がりすぎるな!」

「中締めろ!」


守備は崩れていない。

だが、押されている。


走らされている。


後半開始から10分。


それは、右サイドから始まった。


相手のウイングがボールを受ける。


1対1


こちらのサイドバックは間合いを詰め、縦を切る。


抜かれてはいない。


だが、抜く必要もなかった。


ヒールで、内側へ落とす。


走り込んできたボランチが、ダイレクトで展開。


逆サイドへ大きく振られる。


その瞬間、チームのブロックがわずかにずれる。


ほんの半歩。


だが、その半歩を、相手は共有している。


逆サイドの選手は、すでに動き出していた。


トラップと同時に、クロスの体勢。


速い。


低く、鋭い。


ニアへ走るフォワード。

ファーへ流れるもう一人。


キャプテンはニアを消しながら、視線だけを外へ流す。


その動きに合わせ、隣のセンターバックが、身体を投げ出した。


だが——


中央へ、マイナスの折り返し。


そこにいたのは、走り込んできた中盤の選手。


迷いなく、振り抜く。


強烈なミドル。


キーパーの手をかすめ、ゴール左隅へ突き刺さった。


ネットが、深く揺れる。


0−2。


歓声が、地面を震わせる。


誰のミスでもない。


誰かがサボったわけでもない。


対応はしていた。


だが、上回られた。


個の質。

判断の速さ。

連動の完成度。


一つ一つは僅差なのに、重なれば決定的な差になる。


このチームは、去年よりも強くなった。


走れるようになった。

戦えるようになった。

迷わなくなった。


完成度が高い

そう言われ、期待されてきた。


——だが。


強くなっているのは、相手も同じだ。


六連覇を狙うチームが、止まっているはずがない。


ピッチの空気が、少しだけ重くなる。


それでも、誰も下を向かない。


キャプテンが両手を叩く。


「まだいける!」

「顔上げろ!」


その声に、応える声。


だが、スコアボードの0−2

それが現実だ。



監督の視線が、一瞬だけ俺を捉えた。


後半10分。


ピッチでは、王者が主導権を握っている。

焦りはない。動きは正確だ。


「……やはり強いな」


監督が小さく呟く。


その言葉には、悔しさよりも確信があった。


そして。


「羽谷。準備しろ」


短く、迷いのない声。


心臓が一度だけ、強く打つ。


それ以上は乱れない。


俺は立ち上がる。

ビブスを脱ぎ、スパイクの紐を締め

リストバンドを、見つめる。


FW起用。


交代ボードが掲げられた瞬間、スタンドがざわついた。


「1年?」

「さっきまで出てなかったよな……?」

「この場面で?」


遠くでそんな声が聞こえる。


だが、もう関係ない。


タッチラインに立つ。


ピッチの匂い。

踏み固められた芝。

選手たちの呼吸。


一歩、足を踏み入れた瞬間——


音が遠のき、視界が澄む。


動きの流れ。

立ち位置の癖。

重心の傾き。


断片的だった情報が、静かに繋がっていく。


(崩せる)


前半45分。

ベンチから見続けたものを、今から試す。


その時、ふと、ある言葉が脳裏をよぎった。


――サッカーは殺し合いじゃ!


ゴールが命で、ボールがナイフ。


自分の選択ひとつで、生きるか死ぬかが決まる。


それを怖がらず、楽しめるやつだけが、

ピッチに立ち続けられるんじゃ。


フランスで聞いた、おじいちゃんの言葉。


(……さあ、仕留めようか)


そう思いながら、俺は選択する。



ピッチに入り、笛が鳴る。

最初のプレーは、軽くワンツー。様子を見る。


三度目。

ボールが、俺の足元に入った。


——行ける。


相手DFの重心が、ほんのわずかに内へ寄る。

(……そっちか)


フェイントは入れない。

歩幅をひとつ、合わせるだけ。


縦を切った“つもり”の足が、空を切る。

角度が、変わる。


無駄のないタッチ。

スピードに乗る。


二人、三人。


追う影だけが、背後に伸びる。


最後に残ったのは、キーパー。


視線が合う。

距離、角度、タイミング——すべてが揃う。


振り抜く。


乾いた音。


ネットが揺れる。


——行ける。


そう判断した瞬間、勝負は決まっていた。


1―2。


まだ足りない。

だが、火はついた。


俺は静かに息を吐く。


ここからだ。


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