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県大会編・本番

・二回戦


シードのため、初戦は二回戦からだった。


スタンドには保護者の姿も増え、いつもよりざわめきがある。

それでも、ピッチに立つ選手たちの表情は硬い。


羽谷叶弥はベンチに座り、スパイクの紐を結び直してから、ゆっくりと顔を上げた。


まだ、自分は輪の中心にはいない。


それでも、視線だけはピッチの中央に置く。


「羽谷。今日はベンチで、よく見ておけ」


監督の声は淡々としていた。


「分かりました」


小さく頷く。

それ以上の言葉は、必要なかった。


試合が始まる。


キャプテン――相沢先輩が最終ラインを見渡し、声を出す。

その一声で、ラインがすっと揃う。


三年生たちは迷いなく走る。

ボールを失えば即座に戻り、奪えばシンプルに繋ぐ。


派手さはない。


だが、崩れない。


声の掛け合い。

距離の取り方。

パスの強弱。

ボールを失った後の切り替え。


どれも過剰ではなく、足りなくもない。


海外でやってきたサッカーとは違う。

もっと感情が前に出て、個がぶつかり合う世界だった。


だが、ここには“整う”という強さがある。


無理に仕掛けない。

焦らない。

回しながら、少しずつ相手の選択肢を削っていく。


ベンチの叶弥は、ボールではなく――“流れ”を追っていた。


どこで重心が傾くか。

誰が一歩早く反応するか。

相手が顔を上げる前に、どれだけ制限できているか。


派手なプレーはない。

だが、この静かな制圧こそが、このチームの形なのだと理解する。


(……悪くない)


前半終了間際、相手が焦れてロングボールを放る。

キャプテンが跳ね返し、セカンドボールも回収。

そのまま丁寧に繋ぎ、最後はサイドからのクロス。


先制点。


ベンチが沸く。

それでもピッチ上は、騒がない。


二点目も同じだった。

焦らず、崩れず、積み重ねる。


ホイッスル。


勝利。


叶弥は立ち上がり、拍手で仲間を迎えた。


汗に濡れた三年生たちの背中は、確かに頼もしい。


(……少しずつ、分かってきた)


自分の場所は、まだここじゃない。

だが、遠くもない。


次に呼ばれるその瞬間までに、

このチームの呼吸を、すべて覚える。


県大会は、観察から始まった。



・三回戦


残り10分。

スコアは2―0。


ベンチの空気は落ち着いているが、

ピッチの前線には、わずかな疲労が滲んでいた。


戻りが、半歩遅い。

パスのテンポが、ほんの少しだけ重い。


キャプテンの声は変わらない。

だが、受け取る側の足が鈍くなり始めている。


その時。


「羽谷、行け」


短い声。


それだけで十分だった。


叶弥は立ち上がり、ユニフォームの裾を整える。

リストバンドを握り直し、深く息を吸う。


呼ばれたポジションは、ボランチ。


守るだけではない。

試合を整える場所だ。


タッチラインに立つ。

交代ボードが上がる。


一歩、ピッチに踏み入れた瞬間――


視界が広がった。


観客の声が遠のき、

ボールの軌道だけが鮮明になる。


相手の立ち位置。

味方との距離。

一瞬だけ空く、中央のスペース。


――見える。


最初のボールが足元に入る。


迷いはない。


ワンタッチで前を向かず、

あえて横へ落とす。


味方が受ける。


その動きに合わせ、叶弥は半歩だけ角度を変える。

次のパスコースを作る。


テンポが、戻る。


(……なるほど)


このチームは、勢いで押すのではない。

間を揃えれば、自然と前へ進む。


残り5分。


相手が前掛かりになる。

だが焦らない。


奪ったボールを一度預かり、

視線を上げる。


逆サイド。

スペースが開いている。


ロングパスではない。

速すぎない、ちょうどいい強さ。


受けた味方が、余裕を持って前進する。


歓声が少し大きくなる。


派手な突破も、豪快なシュートもない。

それでも、試合の温度が確実に落ち着いていく。


守備も整う。

攻撃も急がない。


呼吸が合う。


それだけで、十分だった。


ホイッスル。


試合終了。


勝利。


叶弥は歩いてベンチへ戻る。


その途中、キャプテンと目が合う。


ほんの一瞬。


キャプテンは何も言わない。

ただ、短く頷く。


それだけで、伝わった。


(……悪くない)


まだフォーワードじゃない。

だが、無意味でもない。


このチームの中で、自分の役割は確実に形になり始めている。


肩の力を抜き、空を見上げる。


県大会は、まだ続く。


そして次は――

もっと試される。


いよいよ本番が始まりました!

これから熱いシーンを書いていくので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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