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第6章:もうどうにも止められない股間キャノン!?

 数日後、俺たちはついに王都オルデインの巨大な城門をくぐった。


 ワイバーンの巣での一件以来、アッシュの俺に対する視線には「コイツ、マジで制御不能の最終兵器(股間的な意味で)なんじゃ……」という若干の畏怖と、九割九分の呆れが混じるようになった気がする。

 気のせいであってほしい。

 

 リリアーナは、あの自動顔面シャワー事件と連続戦闘の疲労がまだ残っているのか、心なしか顔色が優れない。

 それでも王都の壮大さに目を輝かせているあたり、この子のメンタルは鋼鉄でできているのかもしれない。


 王城は、もう言葉を失うほどのデカさと豪華さだった。

 そこら中に金ピカの装飾が施され、赤い絨毯がどこまでも続いている。


 案内された謁見の間は、天井が俺のアパートの天井の十倍はありそうな高さで、壁には英雄譚を描いたのであろう巨大なタペストリー。

 あまりの荘厳さに、俺は完全に田舎者丸出しで口をあんぐり開けていた。


 リリアーナも緊張した面持ちで俺の隣に立っている。

 アッシュだけは「ふん」とか言って澄ましているが、絶対内心ビビってるだろ、お前も。


 広間には既に、鎧をピカピカに磨き上げた騎士たちや、いかにも「我、大魔導師なり」といった雰囲気を醸し出すローブ姿の老人たちがずらりと整列している。

 その全員が、緊張した面持ちで玉座を見つめている。

 

 やがて、玉座に座る恰幅のいい中年男性――オルデイン7世陛下が、重々しく口を開いた。

 その声は、見た目に反してよく通る。

 

「遠路ご苦労であった。今、我がオルデイン王国は、かつてない危機に直面しておる。魔王ザルガードの軍勢が、北の国境を突破し、王都に迫りつつある!」

 

 謁見の間が一瞬にして静まり返る。

 魔王……マジか。

 本当にそんなファンタジーのラスボスみたいなのがいるのか、この世界。


 続いて、騎士団長だという、顔に大きな傷跡を持つ厳ついオッサンが、苦渋に満ちた表情で報告を続ける。

 

「魔王軍の幹部、”黒曜の将軍”バルバトスは、単騎で我が国の一個騎士団を壊滅させるほどの力を有しております。通常の戦術では、もはや……打つ手がございません!」

 

 いやいや、それもう詰んでないか?

  騎士団壊滅って、どれだけ強いんだよ黒曜の将軍。

 俺の股間キャノン(物理)じゃ、逆立ちしたって勝てそうにないぞ。


 国王陛下が、俺たちを力強い目で見据える。

 

「そこで、諸君らの『特別な力』に、最後の望みを託したい! 既成概念を打ち破る、新たな戦術、未知なる能力! それこそが、この国を、いや、世界を救う鍵となるやもしれぬ! どんな些細な力でもよい! このオルデインを救うため、その力を示してほしいのだ!」

 

 国王陛下の魂の叫びに、集まった者たちの間に緊張と、わずかな決意の炎が灯る。


「私の魔法が……国を救う……!」


 リリアーナが、隣で小さな声で、しかし確かな意志を込めて呟く。

 その瞳は、真っ直ぐに玉座を見据えている。

 顔色はまだ本調子ではなさそうだが、その心は既に臨戦態勢だ。

 

 俺は? 俺はもう、床のシミになりたい。

 誰か俺の存在をフォトショップで消してくれ。

 

 アッシュは……うん、壁にもたれて腕を組んでいる。

 こいつ、本当にマイペースだな。


 その時だった。

 俺の淡い現実逃避の願いを木っ端微塵に打ち砕く声が、国王の傍らから響いた。

 神経質そうな眼鏡の文官が、手に持った羊皮紙を読み上げ始めたのだ。

 

「陛下、こちらのリストによりますと……特筆すべき能力を持つ者がおります。『特殊能力・股間キャノン』……」


 なんでだよ!

 なんで俺の能力だけそんなピンポイントで読み上げるんだ文官!

 アルム村の村長、絶対余計なこと書きやがったな!


 文官は、俺の内心の絶叫などお構いなしに、自信満々に続ける。

 

「――その効果、推薦状によれば、『女性魔法使いの潜在能力を極限まで引き上げ、一時的に超常的な力を与える神聖なる白い液体を、股間より“無限に”生成可能』と! これはまさに、我が国を救う天啓やもしれませぬ!」

 

 無限じゃねえよっ!

 しかも「神聖なる」ってなんだよ!

 俺の股間はそんな高尚なモンじゃねえぞ!

 もっとこう、俗っぽいんだよ!


 国王が、その報告に「おおおおっ!」と玉座から身を乗り出した。

 その瞳は、もはや伝説の聖剣でも発見したかのような、ギラギラとした輝きを放っている。

 

「まことか、文官!  無限に湧き出る聖水……いや、白い液体とな!?  なんという奇跡!  ぜひともこの場でワシに、そして絶望に沈む我が国の民に示してほしい!」

 

 いやあああああ!

 公開実演は勘弁してくださいっ!


 俺は顔面蒼白、膝は大爆笑している。

 

 リリアーナは「陛下! お任せください!」と、なぜか一人で盛り上がって俺の腕をグイグイ引っ張る。

 

 アッシュは……うん、壁際でプルプルと肩を震わせ、必死に笑いをこらえている。

 お前、絶対後で腹筋崩壊するまで笑うだろ!


 周囲の騎士や魔法使いたちの、好奇と期待と若干の侮蔑と、あとドン引きが入り混じった視線が、俺の股間と、その前に立つリリアーナの顔面に集中砲火のように突き刺さる。

 

 この羞恥プレイ、どんな罰ゲームだよ!


「さあ、見せてみよ!  その『股間キャノン』とやらを!  我らに希望の光を!」


 国王陛下の、期待MAXの声が謁見の間にこだまする。


 もうダメだ……。こうなったら、やるしかねえ……。

 

 俺は覚悟を決め、下腹部に全神経を集中させた。

 

 頼む!  頼むから、今度こそちゃんと制御させてくれ!

 そして、できれば控えめに、上品に出てきてくれよ、俺のキャノン……!


 だがしかし!


 俺の股間は、俺の切なる願いなどまるで意に介さず、またしても最悪の誤作動を起こしやがった!


 ブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 必死に股間を押さえる俺の手が震える。

 もはや、もはやキャノンが俺の制御を完全に離れ、まるで生き物のように脈打っているのだ!

 

「陛下! どうかご無礼をお許しください! しかし、この状況は……ああ、ああああああっ!」


 次の瞬間、まるで決壊したダムのように、白い奔流が謁見の間を襲った!

 

「きゃああああっ!」

 

 リリアーナは顔を覆うが、もはや手遅れだ。

 液体は彼女の顔面だけでなく、肩も、胸元も、美しいローブのあちこちをまだらに濡らしていく。

 

「おお……おおおっ! 力が、力がみなぎってくるううう!」

 

 リリアーナは絶叫しながらも、その声には歓喜の色が混じっている。

 彼女の身体から溢れ出す虹色のオーラは、いままでの比ではない。

 まるで太陽が室内に出現したかのように、謁見の間全体を眩い光で包み込んだ。


「おおおっ!これが、これが伝説の『聖女の祝福』かっ!」

「なんと神々しい……!我が国の希望の光だ!」

 

 王や騎士団長は、リリアーナの姿に感嘆の声を上げている。

 いや、だから聖女とかじゃないし、俺の股間から出てる液体だし!

 

 アッシュは壁際で、「……やはり、こいつら、何か根本的に狂っている」とでも言いたげに頭を抱えている。

 全くもって同感だ。


「も、もういやぁぁ! でも力がぁぁぁ!」


 リリアーナは半泣きになりながら、無意識のうちに杖を天に掲げた。

 その瞬間、天井のシャンデリアがガタガタと揺れ始め、壁に飾られた歴代国王の肖像画がカタカタと音を立てる。

 

「リ、リリアーナ様! 落ち着いてください! その力は……!」

 

 文官が慌てて声を上げるが、もはやリリアーナの耳には届いていない。

 彼女の瞳は虚ろで、ただただ溢れ出る魔力の奔流に身を任せているようだ。

 

「これが……私の……力……!」


 彼女がそう呟くと、謁見の間の窓ガラスがピシリと音を立てて砕け散り、床の大理石には亀裂が走る。

 おいおい、これ、弁償とかどうなるんだ!?


「誰か! 誰かこのキャノンを止めてくれぇぇぇ!」


 俺は必死に股間を押さえるが、もはや焼け石に水。

 むしろ、押さえれば押さえるほど、勢いを増しているような気さえする。

 

「陛下!危 険です! お下がりください!」

 

 騎士たちが慌てて国王の前に立ちはだかるが、彼らの鎧もみるみるうちに白い液体でまだら模様になっていく。


 ドゴォォォン!


 ついに、リリアーナが無意識に放った魔力の奔流が、謁見の間の壁の一部を派手に吹き飛ばした!


 土煙が舞い上がり、騎士たちの悲鳴と、何かが崩れる轟音が入り混じる。

 

「あ……あ……」

 

 リリアーナは、自分が引き起こした惨状を目の当たりにして、ようやく意識を取り戻したようだ。

 顔面蒼白になり、わなわなと震えている。

 

「わ、私……なんてことを……」


 ようやく俺の股間キャノンの勢いが弱まり、噴水ショーは鎮静化の兆しを見せ始めた。

 謁見の間は、まるで台風一過のような有様だ。

 壁には大穴が開き、床は白い液体で水浸し。

 高価そうな調度品も無残に転がっている。


 リリアーナは、魔力を使い果たしたのか、その場にへたり込んでしまった。

 俺も、なんだか全身の力が抜けていくのを感じる。


 国王は、水浸しになった玉座からゆっくりと立ち上がり、俺と気絶したリリアーナを見下ろした。

 その顔には、恐怖と、畏怖と、そしてほんの少しの……いや、かなり大きな期待が入り混じっているように見えた。

 

「……すさまじい……力だ。これほどの力が実在するとは……! 我が国は、救われるやもしれん……!」


 その声は、わずかに震えていた。


(オワッタ……いろんな意味で本当に終わった……俺、城の修繕費とか請求されないよな……? それだけが心配だ……)

 

 俺は、床に飛び散った白い液体を眺めながら、現実逃避にも似た思考にふけるしかなかった。

 

 こうして、俺の異世界ライフ第一幕は、王城を物理的に(そして社会的に)揺るがすという、とんでもない形で幕を閉じたのだった。


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