第3章: 股間キャノン連続噴射で聖女爆誕!
「待てって! だから誤解なんだっつーの! あれは事故で、その、なんだ、生理現象みたいなモンで……って、違うわ!」
「問答無用! この森の聖域を顔面シャワーで汚した罪、万死に値する!」
俺は、顔中を例の白い液体でベトベトにした魔法少女――リリアーナに、文字通り死ぬ思いで追いかけ回されていた。
彼女の魔法の威力は元に戻っているようだが、怒りのボルテージは最高潮らしく、小さな火の玉や風の刃がビュンビュンと俺の頬を掠めていく。
当たったら普通に怪我するんですけど!?
そんなこんなで、俺たちが雪崩れ込んだのは、森を抜けた先にある小さな村だった。
穏やかな田園風景に、可愛らしい家々が立ち並ぶ、絵に描いたようなファンタジー世界の村だ。
……だが、俺にとっては地獄の入り口だった。
「なんだなんだ!?」
「変な格好の男が!」
俺の葉っぱ一枚の原始人スタイルと、リリアーナの「この変態ー!」という絶叫により、村人たちはあっという間に俺を取り囲み、広場の中央へと引きずり出した。
「皆の衆、静まれ!」
やがて、村人たちをかき分けて現れたのは、立派な髭をたくわえた恰幅のいい老人。
この村の村長さんらしい。
彼は俺の姿を一瞥し、次にリリアーナ(のベトベトの顔)を見て、険しい表情で断言した。
「ふむ……その娘の狼狽えようと、お主のその破廉恥極まりない格好! これは断じて許せん! 皆の者、この痴れ者を捕らえよ!」
おいおい、俺の異世界ライフ、開始数時間でどんなハードモードだよ!
そして、まさにその時だった。
「「「ギギギギギィィィィィィ!!!!」」」
甲高い、耳障りな叫び声と共に、村の入り口からおびただしい数の緑色の小鬼――ゴブリンが雪崩れ込んできたのだ!
しかも、その数は尋常じゃない。ざっと見て50……いや、100匹はいるか?
中には、一回り大きな体格で、禍々しい棍棒を持ったリーダー格らしきゴブリンも混じっている。
「ゴ、ゴブリンの大群だ!」
「村が襲われる!」
「武器を持ってこい!」
村は一瞬にしてパニック状態に陥った。
村の男たちが鍬や鎌を手に立ち向かおうとするが、多勢に無勢。
子供たちの泣き叫ぶ声が響き渡る。
リリアーナはゴクリと喉を鳴らし、そして俺の方を振り返った。
その瞳には、羞恥心と、期待と、そしてほんの少しの好奇心が入り混じっている。
「……そこの変態! もう一回、あの聖水(仮)を私に……! 今度は、もっとたくさん!」
そう言って、彼女はグッと目を閉じ、覚悟を決めたように俺の目の前に自分の顔を差し出した。
……いや、その体勢、完全に顔面シャワー待ちなんですけど!?
しかも聖水(仮)ってなんだよ!
俺の股間から出る液体だぞ!?
だが、村の危機を前に、俺に選択肢はない。
「ええい、こうなったらヤケクソだ! 聖水(仮)だろうが何だろうが出てこいやァァァ!!」
俺は腹を括り、リリアーナの顔面めがけて、連続で股間キャノンを数発お見舞いしてやった!
ビシャッ! ビシャッ! ビッシャアアア!!
「んんんんーーーーーっっっ!!!」
リリアーナは、顔中どころか髪の毛まで白い液体でビッショビショになりながらも、苦悶と法悦が入り混じったような奇妙な声を上げる。
そして次の瞬間、彼女の身体から、先ほどとは比べ物にならないほどの凄まじい虹色のオーラが、まるで火山噴火のように噴き上がった!
「くっ……何度浴びてもこの屈辱は……拭えない……! でもでもでもでも! 力が、力が身体の奥底から無限にみなぎってくるぅぅぅぅぅ!!」
完全にハイになっているリリアーナ。
その瞳は爛々と輝き、もはや別人だ。
「蹂躙開始っ!!」
雄叫びと共に、リリアーナは単騎でゴブリンの大軍団の真っ只中に突撃した!
その戦いぶりは、まさに「無双」の一言。
彼女が右手を振るえば、数十体のゴブリンが巨大な炎の渦に飲み込まれて消し炭になる。
左手をかざせば、地面から巨大な氷の槍が無数に突き出し、ゴブリンどもを串刺しにする。
跳躍すれば、その着地の衝撃波だけで周囲のゴブリンが吹き飛ぶ。
もはや魔法使いというより、格闘ゲームのラスボスに近い。
リーダー格のゴブリンが巨大な棍棒を振り下ろすが、リリアーナはそれを片手で軽々と受け止め、逆に棍棒を奪い取ると、その棍棒でリーダーゴブリンをホームランよろしく彼方へとカッ飛ばしてしまった。
「おお……聖女様だ!」
「我らが村に聖女様が降臨なされた!」
「顔は聖水(?)でビシャビシャだが……とにかくすごい! 万歳! 聖女様万歳!」
村人たちは、そのあまりにも現実離れした光景に、恐怖を通り越して熱狂的な興奮状態に陥っている。
うん、気持ちは分かる。
俺もポカーンと口を開けて見ているだけだ。
俺の股間から出た液体が、こんな人間離れした力を生み出すなんて、誰が想像できる?
やがて、ゴブリンの大軍団は文字通り壊滅。
広場には、黒焦げになったり氷漬けになったりしたゴブリンの残骸が転がるのみ。
全ての戦いが終わった時、リリアーナの身体を包んでいた虹色のオーラがフッと消えた。
途端に、彼女の身体がぐらりと傾いだ。
「うぅ……なんだか急に眠気が……頭もクラクラする……もう、ダメ……パタッ」
そう言い残し、リリアーナはその場にへたり込むようにして倒れ込み、そのままスースーと寝息を立て始めたのだ。
「おい、大丈夫かリリアーナ!?」
俺が慌てて駆け寄ると、村長さんも心配そうに覗き込んできた。
「これは……聖なる力を連続で使用した反動……? やはり、あれほどの力には相応の代償が伴うものなのじゃな」
いや、聖なる力というか、俺の股間力なんですけどね。
そして代償はリリアーナの顔面と体力、と。
俺は、すやすやと眠るリリアーナの、まだ白い液体で汚れたままの寝顔を見下ろしながら、深くため息をついた。
どうやら俺は、この異世界で「単なる液体供給役」として、この子のコンディション管理という新たな悩みを抱え込むことになったらしい。
前途は多難だが、とりあえず村は救われた。……のか? いろんな意味で。