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第2章:ファースト白液は顔面シャワー!

 森の中を、俺は葉っぱ一枚の原始人スタイルで当てもなく彷徨っていた。

 あの謎の老賢者が残していった「股間キャノン」というパワーワードが、脳内で無限ループしている。


 自分の股間に何かが宿っている?  キャノンが?

 

  馬鹿馬鹿しい。いくら異世界に来ちまったっぽいからって、そんなファンタジー展開があるわけ……いや、異世界だからこそアリなのか?

 もう何が何だか。


「とりあえず、落ち着け俺。まずは現状確認だ」


 自分の股間を見下ろす。

 そこには相変わらず、俺の平凡な「息子さん」が葉っぱの陰で静かに佇んでいるだけだ。

 特に大砲のような形状に変化した様子はないし、禍々しいオーラも出ていない。

 

 ……やっぱり気のせいか?

 あのじいさん、ただのヤバい電波系だったんじゃ……。



 そう安堵しかけた、まさにその時だった。

 

「「「グオオオオオオオオオッ!!」」」 

「きゃああああああああっ!!」

 

 森の奥から、複数の獣の咆哮と、可憐な少女の悲鳴が同時に響き渡ってきた!


 なんだ!?  まさか、もうこの世界の洗礼イベント開始か!?


 音のした方向に駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 数匹……いや、十匹は軽く超えるであろう巨大な猿型の魔物――例えるならゴリラとキングコングを足して2で割り、さらに凶暴さをマシマシにしたような、見るからにヤバそうな奴ら――が、一人の少女を取り囲んでいるではないか!

 

 少女は十六歳くらいか?

 紫色の髪をツインテールにし、可愛らしい魔法使い風のローブを身にまとっている。

 手には小さな杖。

 どうやら薬草でも摘みに来ていたらしい、足元には小さなカゴが転がっている。


 彼女は必死に杖を振るい、小さな火の玉や風の刃を放っているが、フォレストコング(勝手に命名)の分厚い皮膚には傷一つついていない。

 完全に多勢に無勢。

 絶体絶命の大ピンチだ!


 まずい!  このままじゃあの子が!


 丸腰の俺に何ができる?


 いや、何もできないかもしれない。

 でも、見捨てるなんて選択肢はねえだろ!

 

「お、おい!  そこの猿ども!  こっちだこっち!」

 

 俺は咄嗟に大声を張り上げ、フォレストコングたちの注意を引こうとする。

 数匹がギロリとこちらを睨んだ。


 よし、かかった! ……って、バカ俺!

 注意を引いてどうする!

 武器も何もないのに!


 パニックで頭が真っ白になる。

 そうだ、あのじいさんの言葉!

 

 「股間キャノン」!

 もうこれしかない! ヤケクソだ!

 

「うおおおお!  出ろォォォ!  俺の股間から何かスゴイの出ろォォォ!  股間キャノン、発射ァァァァァ!!」

 

 俺は両の眼を固く閉じ、下腹部にありったけの力を込めて絶叫した。

 するとどうだろう!

 

 ビッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 俺の股間から、目も眩むような純白の液体が、まるで消防車の放水もかくやという凄まじい勢いで噴射されたのだ!


 しかも、狙ったわけでもないのに、その白い奔流は、フォレストコングに襲われかけていた少女――少女(と後に知る)の顔面を、まるで的を射るかのように正確に、そして情け容赦なく直撃した!


「きゃあああっ!?  な、なんなのこの生温かい液体はぁぁ!?」

 

 少女が、顔中を白い液体でビシャビシャにされながら、甲高い悲鳴を上げる。

 そりゃそうだ。

 いきなり股間から謎の液体を顔面にぶっかけられたら、誰だってそうなる。

 

 ごめん、マジでごめん!

 でも不可抗力なんだ!


 しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。

 

 白い液体を浴びた少女の身体から、まるで内側から発光するかのように、七色の虹のような凄まじい魔力のオーラが噴き出したのだ!

 

「え……?  なにこの、力が無限に湧いてくる感じは……っ!?」


 少女自身も、何が起こったのか分からず戸惑っている。

 だが、その瞳には先ほどまでの恐怖はなく、代わりに未知の力への驚きと、そして確かな高揚感が宿っていた。


「「「グオオオオオッ!!(なんかコイツやべえ!)」」」

 

 フォレストコングたちが、少女の尋常ならざる変化を敏感に察知し、一斉に襲いかかろうとする。

 だが、もう遅い。

 

「よくわかんないけど……いっけええええええええっ!!」


 少女が杖を天に掲げると、その先端から巨大な光の剣が無数に形成され、フォレストコングの大群に向けて一斉に射出された!

 

 ズバババババババッ!!

 

 光の剣は、フォレストコングの屈強な肉体を紙切れのように貫き、薙ぎ払い、切り刻んでいく。

 森の木々をなぎ倒し、地面をえぐり、まさに一方的な蹂躙。

 敵は悲鳴を上げる間もなく、光の粒子となって消滅していく。

 

 さらに少女は止まらない。

 

「凍てつけ、万物!  絶対零度アブソリュート・ゼロッッ!!」


 彼女がそう叫ぶと、周囲一帯の空気が一瞬にして凍りつき、残っていたフォレストコングたちは巨大な氷の彫像へと姿を変えた。

 その光景は、もはや魔法というより天変地異。

 圧倒的、としか言いようがない。


 俺は、そのあまりの光景に、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

(俺の……俺のアレから出た液体で、あの子が世界を滅ぼしかねない強さに……?  なんだこれ、俺の股間、実は戦略兵器か何かなのか?)

 

 開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。


 やがて、全ての魔物を殲滅し終えた少女は、ぜえぜえと荒い息をつきながら、その場にへたり込んだ。

 顔は白い液体でびゃしゃびしゃだが、興奮で紅潮し、瞳は潤んでいる。

 

「す、すごい……!  この力……!  もしかして、この液体のおかげ……?」


 彼女は自分の顔にかかったままの白い液体に恐る恐る触れ、そしてハッとした表情で俺の方を見た。

 その視線は、俺の顔と、葉っぱ一枚の腰ミノ、そしてその中心部(と思われる場所)を往復している。


 数秒の沈黙の後、少女の顔がみるみるうちにリンゴのように真っ赤に染まっていった。

 そして、わなわなと震える指で俺を指差し、ありったけの声で叫んだ。

 

「へ、変態ーーーーっ!!!」


 次の瞬間、彼女は杖を構え直し、顔中を例の液体でベトベトにしながら、猛然と俺に襲いかかってきた。

 いや、追いかけ回してきた、と言うべきか。


「待って!  違う!  誤解なんだって!」

「問答無用!  森の風紀を乱す顔面シャワー変態野郎は、このリリアーナが成敗してくれる!」

 

 顔は聖女のごとく輝き、力は破壊神のごとく、しかし言動は完全にパニクった少女そのもの。


 俺は、自分の股間から放たれた液体が生み出した、あまりにもカオスな状況に頭を抱えながら、少女の容赦ない追撃から必死に逃げ惑うしかなかった。

 

 俺の異世界ライフ、どうやら「変態」という称号からスタートするらしい。

 不本意すぎる。


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