雪の章
街の中心へと進む
風はなく、音もない
雪だけが静かに降り続いていた
その中心に、それはいた
氷のように透き通る光の像
少女にも老婆にも見える
時間の流れに関与しない存在
「これが……雪の章?」
ミリが小さく呟いた
アオが石板を触ると少し光る
「うん そうだ」
――
アオが一歩踏み出す
像が顔を向ける
『ようこそ』
『長く、長く、待っていた』
『雨と雷を持つ者』
「君が凍らせたの?」
『人々に望まれた』
『涙が流れるたび、街は壊れていった』
『だから悲しみごと時間を凍らせた』
「あなたはなぜ、凍らせた後もここにいるの?」
『誰かに思いを伝えたかった』
『伝える者が居ないと、この街は生きていなかった事になる』
『私の街でもある』
アオが石板を前に出す
「街だけで無く世界を治したい 君の想いも連れて」
像がうなずいたように見えた
次の瞬間――音もなく砕けた
アオの石板が光る
冷たいのに、ほんのり温かい
石板の裏面に新しい文字が浮き出る
『氷を溶かす禁断の太陽』
封じられていた街が、静かに動き出す
――
雪の章を吸収すると空気が変わった
雲が少し薄く明るくなる
アオとミリはしばらく街の通りを見ていた
「分かる?」
ミリがぽつりと言う
「うん 誰かが……泣いてる」
そして、凍っていた人々が少しずつ動き始めた
「ピシッ」という氷が軋む音が聞こえる
1人の女がしゃがみ込んでいる
手には小さな手袋が片方だけ
「……マイ……マイ」
彼女は繰り返しその名前を呼ぶ
男が家族を探す声が聞こえる
「おーい どこ行ったんだ 出てこーい」
彼らは思い出してしまった
封じたはずの記憶
「見送った背中」
「届かなかった言葉」
もう居ない者達
元から寒く過酷な土地だった
天気図の崩壊で交易は分断され、街には悲しみが溢れた
彼らは【雪の章のちから】から逆に救いを感じた
「これが凍ってたもの……全部悲しみだったの?」
アオは黙ってうなずいた
「忘れてたんじゃない……忘れようとしてただけなんだ」
街全体から泣き声がする
氷から溶けた代償
――
「どうして戻した」
誰かが言う
「おまえたちが来なければ、まだ眠っていられたのに」
男の目は濁っている
「この悲しみをどうする」
「生きてて意味があるのか?」
ミリは答えられない
アオも言葉を失っていた
ただ――そのとき
「でも……会いたかった」
老婆の声が聞こえる
手には子供を描いた絵があった
「この子の顔を忘れたまま死にたくなかった」
アオ達への非難の声は無くなる
行き場を失った感情だけが人々の心に残る
「悲しみは消えない」
アオは言う
「でも……凍らせても解決はしない そうだろ雪の章」
石板が静かに光る
空の色がまた少しだけ明るくなった
雪が少しずつ弱くなっている
作者メモ
前話までキリの良い所で話を区切っていた
短すぎる感じもしたため、2話分を1話にしてます
そのため雪の章は話数的にはサクサク終わりました
今後は話しの内容によって
・構成上1話のままの話しと
・読みやすく2話まとめた話し
両方出て来るかと思います
1話の長さは決めておらず
あくまで書いてみて→読みやすそうな話しの節目で区切ってます




