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雷の章

重たかった空気が急に軽くなった気がする

止まっていた時間が動き出す


6階の最奥の部屋――そこには、何もなかった

だが、天井には空の裂け目が直に開いていた

紫の雷が脈打つように光っている


「……なにも無い?」

ミリが疑問を口に出す

その時だった

石板がアオの手の中で熱を持つ

これは――呼びかけている?

「いる ここにいる」


石板の中心から光があふれた

空のひびが、それに応えるようにきらめく

そして現れた

雷の塊のような雲が部屋の中央に浮かび上がる


『長かった』

2人の感情に直接声が届く

『わたしは壊れ 引き裂かれ 忘れられた』

『けれど きみたちは 来た』

『雨の民――嵐に打たれても 歩く者たちよ』


石板の欠片

それは【記憶】だった

世界が壊れた瞬間をその中に記憶していた

2人の脳裏に天気図が裂けた映像が流れる


青く晴れた空が突然ひび割れる

雷が荒れ狂う

逃げ惑う人々 崩れる街

そして、誰かが最後に言った

「天気を取り戻せ――きっと誰かが黄金の花を―― 」


――


雷の章がアオの石板に吸い込まれる

天気図の範囲が広がった

新しい天気記号 雷が横に増えている


空の裂け目が少しだけ色を薄くする

これで……終わり?

どちらも、しばらく口を開かなかった

欠片と対峙するのは死さえ覚悟していた

まさか迎え入れられるとは……


やがて、アオがぽつりとつぶやいた

「天気を取り戻せるって」

「うん……だって、雷がそう言ってた」

2人は立ち上がる

新たな石板を手にして


石板の裏面に文字が浮き出る

《雷を打ち消す黄金の花》

空の裂け目が静かに閉じていく

静かになったヴァスノミアの街


2人は次の空へと歩き出した

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