全てを集めて
雨は
かつてのように激しくは降っていなかった
雲は薄く霧のような雨が続く
アオたちが村へ戻ると、人々は驚きと期待に満ちて集まってきた
「戻ったのか!」「全部そろったのか?」
アオは小さく頷いたが、どこか元気がなかった
「全部揃ったんだけど……」
彼の様子に、村人たちは黙り込む
ただ1人、長老だけがゆっくり頷いた
「よくやった とりあえず休みなさい」
家に帰ると家族が迎えてくれた
「立派になったね」
母の言葉にアオとミリは照れくさそうに笑った
マリョが真面目な顔で言った
「風の都市の学者です お世話になります」
その堅苦しさに、アオとミリは吹き出した
――
翌朝
長老が村はずれを指差した
「見せたいものがある」
草に覆われた地面の下、そこにはわずかにずれた石がある
長老は石をずらし隠し扉を開けた
地下へと続く階段がそこにあった
「お前の祖父――更に前の代から天気図を研究した場所じゃ」
灯りを持ち奥へと降りていく
壁には何百年前かも分からない、古い言葉が彫られていた
『天は裂け 大地は言葉を失い 人々は互いを忘れた』
長老が呟く
「世界が分断された時から、この遺跡はあった 何かを伝えるために」
中央の机にはぎっしりと天気図の模様が彫られている
アオが持っていた石板に似た模様もあった
真ん中に大切そうに置かれた書物
絵と記号ばかりが書かれていた
「これは……?」
長老がうなずいた
「言葉が失われた時代の物じゃ。ワシにも読めん」
アオはがっかりしたように肩を落とす
「じゃが、あの男はこう言っていた――【全ての章は1つだった それを分けた者がいる】と」
「それだと……」
「そうじゃ、世界は壊された 理由も、やった者も、すべて封じられた」
長老は静かに言った
「答えはひとつ――高き塔にある」
ミリが息を飲む
「バベルの塔!」
「禁じられた地じゃ だが石板を揃えたお前達なら、何か変わるかもしれん」
アオは頷いた
「行こう もう……引き返せないから」
マリョも言った
「私も行くよ 見届けたい、この世界の終わりと始まりを」
向かう先は
かつて空へと届いた塔
――
「……天気が何もない」
アオがそれに最初に気づいた
雨 雪 風 太陽それらを感じない
暑くも寒くも無かった
特徴が無いという事に逆に不気味さを感じる
地平の向こうに、それは突き刺さるように立っていた
「バベルの塔か」
雲に隠されていたその姿が、今ははっきりと見える
その塔はまるで1本の糸のように、空から地上へと繋がっている
塔のふもとに近づいたとき、三人はその巨大さに言葉を失った
根本は金属に覆われた巨大な建物
その先は細く天まで届いている
「空と地をつなぐ階段」
マリョが呟く
科学者の声が感情に揺れていた
――
「何か……違和感がある」
中に入ったミリが、ふと足を止める
アオも静かに目を凝らす
ぼんやりとした人影が浮かび上がっている
3人ともほぼ同時に警戒する
しかし人影は動かなかった
なにかをしてる途中に止まったのか中途半端な恰好だ
形は人に見えるが金属で覆われ、もはや人には見えない
「何だコレは?」
全員の疑問を代弁するようにアオが言う
マリョがササッと近づき色々といじくり回す
「古代文明の物……私は学者であり技術者では無いので分かりませんね」
悔しそうにマリョが言う
しかし周りを見回すと再び元気になる
辺り一面に金属板 観測装置 制御装置
何かのスイッチがそこかしこにある
「キャッ」
ミリが短く悲鳴をあげた
そこには動物の骨が大量にある
骨に穴が開いているものも転がっていた
「これは~その人型が施設に侵入した動物を排除してたんでしょう」
新しい物から古い物まで積み重なっている
「この施設の維持管理や警備をしていたが、最近止まってしまった」
マリョが探偵のように推理をしだす
ミリが気づく
「最近あった世界的な出来事と言えば――」
「そう、君たちが天気図の欠片を集め出した この人型も【何か】影響を受けた」
マリョの推理が終わる
その【何か】が分からないが