第5話.ペレル・グリュ
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「宝石」と称するにふさわしい逸品に、さしものハリエットも心躍った。
細かな内包物やひび割れの一切ない、丁寧に大切に保管されてきたことが窺える女性用の指輪。
(この指輪をどんな人が、どんな風に身に着けていたのかしら……)
指輪のサイズから華奢な女性像が脳裏に浮かぶ。
蔦模様を連想させる精緻な彫刻が指輪全体に施され、まるで植物が虹色の鳥の卵のようなオパールを大切に守っているかのようだった。
指輪の刻印を確認すると、20金の地金に「FRY」の文字が見える。この蔦模様のデザインは、アストリカで人気を博したフェレイユ社の「宝石物語」シリーズの一つだ。今回のデザインは、春のモチーフをテーマにしたラインナップである可能性が高い。
フェレイユ社の宝飾品はオルデン国内でも非常に人気があり、その名声は一部の貴族や王族の間でも絶大だった。
特に、リゼアル王女が身につけた大粒のサファイアのブローチは、多くの人々の記憶に鮮やかに刻まれている。夜会でそのペンダントが披露されるや否や、王女の優美な佇まいと相まって、国内で大きな話題を呼んだ。
その後、フェレイユ社は王女のブローチを基にしたデザインを「冬のシリーズ」として発表。雪の結晶を思わせる精巧なデザインが施されたブローチは、王女の気品と美しさを象徴するものとして、多くの貴婦人たちの羨望の的となった。彼女たちの間では、フェレイユ社のジュエリーを所有することが、洗練と富を示す一種のステータスとなり、瞬く間に流行の中心となったという。
ペレル・グリュは単なる装飾品の域を超え、持つ者に特別な物語と品位を与える存在として、今なお人々の心を惹きつけている。
(お伽噺の中にいるみたいな、なんてすばらしい指輪)
ペレル・グリュは美術品としての価値も高く、骨董品や宝飾品の世界では語り草のような存在だ。
だが、そもそも生産数が少ない上に、限定販売の品。
市場に出回ることはほぼなく、ごく稀に見つかっても、贋作か模造品であることがほとんどだった。
ハリエットは思い返す。このシリーズの指輪を目にしたのはこれで三度目だ。
初めて見たのは骨董品鑑定士として修業中の頃、父の友人の宝石鑑定士の店で。
二度目は、兄が蚤市で雑多な宝飾品の中から掘り出したもの。それが本物だと判明したときには、思わずひっくり返りそうになったものだ。
(とはいえ、この指輪が本物のペレル・グリュかどうかは、さらに専門的な鑑定が必要ね。蒐集家の多い人気のシリーズだから、どんなに高額でも欲しいという方はいるだろうし、贋作でも欲しがる人がいると聞くわ。うちよりもっと大きな宝飾品専門の買取店や、それこそ、フェレイユ社に持ち込んだ方が価格は跳ね上がりそうだけれど)
フェレイユ社は自社が製作し、販売した宝飾品の真贋の鑑定や買取も積極的に行っている。
そうして集められた品々は年に一度、オークションにかけられることも多く、美術的価値の高いものは博物館に寄贈されたり王族が私費で購入することもあるという。
(うちのような小さな骨董店には縁のない話だけれどね)
ハリエットはもう一度ルーペでそっとオパールの光を確認する。青緑と赤オレンジの輝きが光の角度に応じてゆらめき、まるで静かな水面に太陽の光が踊るかのようだ。
「どうかな?何か分かった?」
観察を終えた彼女を、アルフレッドがじっと見つめていた。




