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9ロックの存在 ④

デニスにはある秘密があった。その内容は突飛であり荒唐無稽であり妄想の産物かと疑いたくなるような内容だった。それはデニスが10歳の誕生日を迎えた夜だった。夢の中である人物と会ったのだ。彼?は光が人型を模したような姿であり判別がつかなかった。紡がれた声も中世的でありいっそ神々しささえ感じられた。自らを神の使いと名乗った彼は言った「貴方は勇者である」と。


彼曰くはるか遠い北の地で邪神が誕生すると。貴方はそれに対抗するため選ばれた存在であると。邪神やその眷属に存在が知られれば貴方も貴方の周りの人たちも皆殺しにされると。なので力を蓄え経験を積みなさいと。やがて運命が貴方を導くだろうと。


お告げを聞いてからデニスの生活は一変した。最初こそ興奮冷めやらず親に言いそうになってしまったが寸でのところで踏みとどまった。お告げの中で言われた勇者の存在が明るみになれば皆殺しの憂き目にあうことを思い出したからだ。誰にも言えない勇者という重責に襲われながらデニスは行動を始めた。


それまでの子供らしい生活を改め、不真面目だった勉強に励み、子供ながらに真剣に木の枝を振るった。それまでの悪ガキのふるまいから人が変わったようなデニスに周りや親は心配したものの素行自体は良くなったため次第に何も言われなくなっていった。友達との付き合いも悪くなり次第に誘われることすらなくなっていったが唯一ロックだけはしつこく誘ってきた。うっとおしく思いながらも嬉しかった。


14になった頃素振りしていたのをガルに見込まれ剣を教えてもらえるようになり、自分は着実に勇者として訓練を積んでいたが一つ気がかりがあった。おとぎ話で語られる勇者は幼少の頃より華やかな活躍をしていたがデニスは未だ実戦を知らない半人前でしかないのだ。自分は本当に勇者としてやっていけるのか焦ったデニスは子供だけでは行くことを禁止されている森へ入り魔物との実戦経験を積もうとしたのだ。


親の使い古しの剣を手に森へと入ったデニスは3匹のゴブリンと遭遇、無我夢中で剣を振り倒せたもののとどめを刺すこと怠ったため逆撃を受けそうになったところをこっそりついてきていたロックに庇われたのだ。ゴブリンの爪はロックの背に傷を残しそこから感染、1週間もの間寝込むことになってしまったのだ。友人を守るどころか守られ親からこっぴどく叱られ落ち込んでいたデニスは熱でうなされ眠っているロックについ聞いてしまった。


「ねえ、何で僕を助けたの?」


「・・・友達が辛そうにしてたら助けるのは当たり前だよ・・・」


「っ」


答えが欲しくて聞いたわけではない、独り言のようなものに答えが返ってきたことに驚く。閉じていた瞼を開きのそりと起き上がったロックからの思わぬ返答に耳を疑う。


「辛そう?僕が?」


「うん・・・デニス君、気づいてない?ここ最近ずっと泣きそうな顔してる」


子供心に憧れた勇者だが年を重ねるにつれ意味の重さに潰されようとしていた。誰にも相談できず自らの胸中に溜めこむ毎日。邪神と戦うなど想像もつかずそこに至るまでどれだけ命がけの戦いをせねばならないのか。訓練ばかりの毎日でいざ戦いになったとき自分は本当に戦えるのか。そんな疑問ばかりが頭をよぎり、少しでも払拭したくて今回言いつけを破ってまで森へと行ったのだ。結果は散々だったが。


「何言って・・・そんなわけ・・・っ」


涙が頬を伝う。自覚してしまったらもう止まらなかった。ボロボロと涙をこぼしロックに縋りつく。4年間ため込んでいた思いが溢れ言えなかったことも次々と口をついて出る。ロックは何も言わず黙って聞いていた。ひとしきり話し終えたデニスは今更ながらにとんでもないことをしてしまったことに気づく。自分が勇者であるとばらしてしまったこと。無様にも泣き叫んでしまったこと。顔が赤いのは泣いたからか羞恥か、はたまた両方か。悶絶しているデニスを他所に一つ頷くとロックは思いもよらぬことを言い出す。


「そっか、なら僕がデニス君を守らなきゃね」


「へっ?」


ぽかんとするデニス。


「だってデニス君は皆を守って戦う勇者なんでしょ?なら僕がデニス君を守ってあげる」


「ロック君・・・」


勇者が守られる?想像だにしていなかった言葉に唖然とする。皆を守るため悪い神と戦う。そのために強くならなきゃいけない、そう思い込んでいたデニスにとって誰かと共に戦うという発想はなかった。

事態の重大さを理解していないのかもしれない、でも、それでもデニスは救われたのだ。自分は一人じゃないんだと。目頭が熱くなり顔を上げる。今更ではあるが男として泣き顔を見せるのは恥ずかしいのだ。零れ落ちる前に足早に部屋を出ていこうとする。


「ぼ、僕もう行くから寝てなよ。あとこのことは秘密ね!」


「うん」


部屋の戸を閉めたデニスは聞かれないように呟くのだった。ありがとう、と。








「デニス・・・?」


転機ともいえるあの日を思い出していたデニスだったがレーネの声に引き戻される。あの日した約束は今も続いており、デニスは冒険者登録したその日にロックとパーティーを組み共に戦いゴートとレーネが加わり4人となった。またデニスが勇者であるというのも2人だけの秘密であり目の前の2人は知らない。


「昼間の話を聞いてからずっと考えてたんだ。あいつにはほんとに何もないのかってな、でもそんなわけないんだよ。さっき2人も言ってただろ、ロックのおかげで今があるって。」


躊躇いなく頷く2人。デニスも頷くと言葉を続ける。


「俺もそうなんだ、あいつに助けられて今の俺がある。もっといえば今俺たちがこうやってパーティーを組んでいるのもあいつによるところが大きい。でなければ俺たちは今もばらばらだったかもしれない。な?これも立派な才能だと思わないか?」


「確かにそうね・・・」


「うん」


「しかもあいつにだってちゃんと切り札がある。えげつないのがな」


デニスのいう切り札に思い至ったのか顔を顰める2人。


「あれは酷かったわね」


「うん、あれは酷い」


「な?あれを思いつくのも実際に作るのも俺達には思いつかない。要はあいつの才能ってのは俺たちと分野が違うんだよ。ないんじゃない、分かりづらいだけなんだ」


「いわれてみれば、そうね」


「それで、どうする・・・?」


ロックにはロックの長所がちゃんとあることに安堵するレーネだが昼間の話の答えにはならない。いかに機転が利こうが求められているのは純粋な実力でありゴートはその先を聞いているのだ。


「うん・・・結論から言うとな。いつかは分かれなければならないと思っている。」


「・・・」「・・・」


落胆を隠せない二人に問いかける。


「まあ聞け、俺はなあいつには俺たちとは別の道を歩んでほしいと思っている」


「どういうこと・・・?」


「言葉の通りさ、ロックは確かに冒険者には向いていないかもしれない。でも冒険者が全てってわけでもないだろ?さっき言ったあいつの長所は冒険者以外の方が向いている気さえするんだよ」


「でも・・・」


「ガルさんもな、意地悪で言ったんじゃねえと思ってる。もしも俺たちのせいであいつに何かあれば俺は自分を許せない」


「・・・」


「俺たちはカルソーとグローベルしか知らない、でもさ世界は広いんだぜ。俺はあいつに世界を見せてやりたい、いろんな町に行っていろんな風景を見ていろんな人に会ってみたいんだ」


「ここにいたんじゃ駄目だ、きっとランク1のままパッとせず終わっちまう。あいつの才能はこんな所で腐らせていいものじゃねえ」


デニスの話しは一緒に戦うという2人の約束を守れないものだったが、自分を守ったせいでロックにもしものことがあってはデニスはきっと立ち直れないそんな予感があった。


デニスの話を聞き葛藤していた2人は同時に顔を上げる。


「分かったわ、あんたの意見に賛成よ。別々の道をいったとしても今生の別れじゃないしね」


「うん、生きてさえいれば会える。それで十分・・・」


「まあ今すぐって話でもないしな。あいつもきちんと説明すればきっとわかってくれるさ」


3人の中でとりあえずだが答えが出たことで気が緩んだのだろうゴートの腹の虫が騒ぎ出す。


「ほっとしたら腹減ったな、女将さーん」


「待ちくたびれたよ!さっさと注文しな!あと10分遅かったら追い出してたからね!」


酒場にきて注文もせず長々としゃべる客なぞ営業妨害もいいところだ。手持ちを相談しながら注文していく3人だった。

主人公終始蚊帳の外でしたね

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