7ロックの存在 ②
この世界におけるランクとは他所でいうレベルとは似て非なるものである。経験値を稼いで上げられるものではなく、魂の昇華とでもいうべき要素でありそも簡単に上がるものではない。ランクを上げる要素を簡潔に述べるとするならば限界を超えること、これに尽きる。自分の殻を破るともいわれており並大抵のことではないのだ。手っ取り早いのは九死に一生を得るような極限状態での命のやり取りだ。それゆえ魔物と戦うことの多い冒険者や傭兵、兵士なんかはランクが上がりやすいとされている。勘違いしてはいけないのはその条件は誰にも、本人でさえ分からないということだ。例えばランク1の冒険者AとBが同じ魔物と戦い重症を負うほどの激戦を行ったとして、Aはランクが上がったとしてもBは上がらないということが往々にしてあるのだ。一説には魂には昇華できる限界があり、個人差もあるが上がらない者は一生上がらないらしい。己の魂に限界を感じたものは引退していき引き際を見誤ったものから命を落としていく。ちなみにランクは心臓のある箇所、胸部に生きとし生けるもの全てに文様として刻まれておりランクが上がればより複雑になっていく。
ガルの無慈悲なまでの宣告に尊敬していることすら忘れたデニスは勢いよく掴みかかる。
「何であんたにそんなことが分かるんだよっ!ランクってのは本人ですら分からねえはずだろうがっ!」
至近距離から怒声を浴びせられたガルだが全くひるむことなくデニスの眼光を受け止める。
「俺が言ってるのはな、お前たちの実力の話だ」
「?」
ランクと実力は大雑把に言えば同じだ。高ランクならば強いというのは常識であるほどに。分かるようで分からない、ガルの物言いにすかさず反論する。
「はあっ!?俺らはまだ半年しか経ってねえランク1だぞ!実力もくそもあるかよ!」
ゴートもレーネも同意見のようで口を挟まない。
「自分じゃ気づいてねえか・・・いいか、お前たちは半年前と比べ明らかに強くなっている。日々手合わせしている俺が言うんだ間違いねえ」
「「「!?」」」
「お前たちは半年前と比べ自分が全く成長していないと本当に思っているのか?オークを一太刀で切り捨て、真正面から攻撃を受け止め、魔術と弓術を両立させる。そんなことが半年前できていたか?」
「それは・・・」
思い当たる節があるのだろうデニスの手がわずかに緩む。あれは冒険者を初めてすぐの頃、ロックが体調を崩してしまい3人でオークと戦った時だ。デニスの撃ち込んだ一撃は肩を断ち切れず半ばで止まり反撃を許してしまいゴートが割って入るも受け止めきれず吹き飛ばされる。一方でレーネは慣れない魔術と弓術を何とかものにしようとするあまり両方うまくいかず散々だった。
「だ、だけどそれを言ったらロックだって一緒に戦ってきたんだ。上がってるはずだろうがっ」
ガルは静かに目をつむり頭を振る。
「あいつの実力はここ3か月ほとんど上がっていない。身のこなしこそ上手くなったがそれ以外がほとんど変わっちゃいないんだ」
「う、嘘だっ!」
「あいつがいつから投げナイフとか投げものを使いだしたのか分かるか?」
「え?」
呆けたように声を上げるもすぐには思い当たらず後ろの二人を見やる。ゴートはうんうん唸り、レーネが自信なさげに
「最近・・・だったような気がする」
その答えはガルではなくボルドからもたらされた。
「ちょうど3か月前だ。あいつ思いつめた顔をしてたんでな相談にのってやったんだよ」
いわく自分が強くなっている実感がないとのこと。同じように鍛えているのにデニスのように剣も満足に振れず、ゴートのように前衛も張れない。レーネと違って魔術の上達も実感できない、と。悩んだロックは色々な冒険者を見てきたであろうベテランのボルドを頼ったのだ。
「だから俺は教えてやったのさ、あいつにもできるやり方をな」
それが投げナイフといった投げものだったのだろう。
「そんな・・・あいつ・・・そんなこと一言も・・・」
人知れず友人が苦悩していたことを知らされデニスの手はだらんと下がる。後ろの二人も勢いはもはやなく肩を落としていた。
たった3か月で自分の限界を悟る。この世界で生きる上でそれがどれほど酷いことか3人には想像しかできない。突きつけられたロックの苦悩の重さも。仲間達がメキメキと実力を伸ばしていく中自分だけが足踏みをしている。大事な仲間と思っていた自分たちこそがロックを追い詰めていた事実に愕然とする。
「・・・」
黙りこくってしまった3人の前で腰を落とし目線を合わせたガルは言葉を続ける。それは4人にいずれ来るであろう事実だ。
「優しいなおまえらは」
「?」
「いいか、お前たちは3人はこの先経験を積んでいけば間違いなく上に上がっていける。同じパーティーを組んでいればランク2までならロックも着いていけるだろう」
それは声音こそ優しいが言い聞かせるだけの圧があった。
「だがその先はもう無理だ、ランク3ともなればお前たちにとっては適当な相手かもしれないがロックにとっては間違いなく格上、一つ間違えば容赦なく死んでしまう」
「・・・」
「同じパーティーであっても実力差が開けば外し外されるのが珍しくないのが冒険者だが、お前たちはきっとしないんだろうしロックもどうにかして役に立とうとするだろう。今回あいつが組んだ連携はそれほど見事だった」
「お前さんらのパーティー結成にロックがいかに大事かは知っている。だからこそあいつを、ロックを死なせたくないのならばいつかは決断せねばならん。あいつのためを思うのならばな」
「そんな・・・そんなのって」
泣きそうなレーネの声にデニスもゴートも何も返せなかった。
余談ですがこの世界の最高位はランク5です。ですがランク5のゴブリンがいたとして最強というわけではありません。オークのランク5と戦えばまず間違いなく負けます。種族値も大きく影響を与えているわけです。