6ロックの存在 ①
「うわあああっ!?」「がはっ!」「・・・ぐううっ!」「みんなっ!・・っ!」
デニス、ロック、ゴートの3人がガルの剣技によって吹き飛ばされ少し離れていたレーネに向かって切っ先が突きつけられる。ガル対ロックのパーティーによる模擬戦は傍目には圧倒的なまでの実力を見せつけられる形で決着がついていた。
「はっはっは、まだまだあめーぞ」
「あたたたた」
「うう、いってえー」
「・・・」
「うーん、いい線いってそうなんだけどねえー」
木剣とはいえ打ち据えられた箇所は本気で痛い。涙目でさする3人とお手上げとばかりに座り込んだレーネ。ガルも木剣を下ろし空気が弛緩すると隅で観戦していたボルドが含み笑いを隠そうともせず寄ってくる。
「なーに言ってんだ、まんまと引っかかっておったくせに」
「ぐっ」
ここは村長宅の隣に立つガルたち夫婦が住む家であり、その庭でもってガルは暇を見つけては冒険者をしごいているのだった。ばつが悪そうにそっぽを向くガルに対して4人とも驚きを隠せない。
「ほんとですか!?」
ずいっと身を乗り出すロックに根負けしたのかやがて観念したように肩を落とすと不承不承頷く。
「ああ、おっさんの言うとおりだ。ったくよくあんなの思いつくな一瞬ひやっとしたぜ」
「っしゃ!」
「・・・あれは、あの連携はお前が考えたのか」
「ええ、この前はこてんぱんにされましたからね。どうにか一矢むくいたくて」
「「・・・・・・・」」
まるで悪戯がうまくいったような笑みを浮かべてガッツポーズを取るロックを見て何事か考えていたガルとボルドは顔を見合わせ小さく頷く。
「あー、ロック、悪いがポールんとこ行って酒買ってきてくれ」
「ええっ俺?酒なら家の中にあるじゃないっすか」
「ぐっ、いやな?カミさんが禁酒しろってうるさくてな、勝手に飲んだのばれたら怒られんだよ。お前らの分もなんか買ってきていいからよ」
なんで俺が・・・愚痴をこぼすロックに多めに銅貨を握らせるとデニス達も立ち上がる。
「俺ビール飲みてえ」「あたし何か甘いのの気分~」「・・・腹減った」
当然のように着いて行こうするデニス達に何故か焦り始めるガル。
「まてまてっ!ロックだけで行ってこいっ」
はあっ?なんで?とばかりに4人に胡乱げな顔を向けられたガルは視線を彷徨わせると困ったようにボルドを見た。ボルドは額に手を当ててため息をつくと濁しながら適当に合わせてやった。
「あー、3人には違うことを頼むんでな、悪いがロックだけで行ってきてくれんか?」
4人は顔を見合わせると仕方ないとばかりに肩をすくめた。それぞれの希望を聞くとロックはポールの営む雑貨屋へと走っていく。ロックが遠ざかっていくのを確認していたガルに向けてデニス達のじとーっとした目が向けられていた。
「な、なんだよ?」
「ガルさん・・・いくらロックにしてやられたからってこれはないんじゃないの?」
「・・・パシリ・・・」
「ねー、ちょっと大人げないっていうかー」
「はあっ!?」
「ぷっ」
どうやら今回ロックの立てたであろう作戦に嵌められた腹いせでロックをパシらせようとしていると思われているらしく、危うく器の小さい男認定されかけていることに気づき先ほどとは違う意味で焦るガルと吹き出すボルド。
「ち、違うぞ!お前らに話しておきたいことができたからな、ロックには席を外してもらったんだよ。お、おいっおっさんからも何とかいってやってくれ」
たまらず隣で笑いを噛み殺しているボルドに助けを求める。
「くっくっく。ああ、あいつを前にしてだといいずらい話だからな、ちっと外さしてもらったんだよ。なにせあいつに関する話だからな」
どうやら嘘は言ってないようだが言葉の意味が分からず顔を見合わせる3人。
「あーっと、何から言ったもんかね。・・・えーっとまずデニス、お前の剣の才能はな多分俺よりある。ランク4も夢じゃないくらいにな」
「えっ!?ほ、本当ですか!?」
いきなり褒められると思ってなかったデニスは驚くやら嬉しいやらで混乱していた。
「それとゴート、お前のその体は鍛えればオーガやトロールにだって引けを取らないだろう」
「・・・・・・」
魔物のなかでも特に破壊の権化と称されるオーガやトロールと比べられ、ゴートは両手をぐっと握るとまんざらでもないように頬を緩ませる。
「お嬢ちゃんもな、このまま経験を積めばまず間違いなく名うての魔術師になれんだろ」
「ええっそんなあ・・・。?あれ、でも・・・」
憧れのボルドから太鼓判をもらいにやけてしまうレーネだったがあることに気づき笑みを潜めてしまう。
「・・・ねえ、ボルドさん。ロックを外したのってそういうこと?」
レーネの問いの意味が分からず首をかしげるデニスとゴートだがガルとボルドは何も言わない。
「?」「?」「・・・」「・・・」
「単にあたしたち褒めてくれるんだったらわざわざ嘘ついてまでロックだけ行かせる必要なくない?禁酒って噓でしょ。ミレーユさんそんなこと言わないもん。なのに外させたってことはそういうことなんでしょ・・・?」
ガルの妻であるミレーユと親交のあるレーネは気づいてしまう。ガルの言葉が嘘であることに。それにボルドが同調した意味も。
いつも陽気なレーネらしくない雰囲気に戸惑いを隠せない二人だが続く言葉に衝撃を受けた。
「レーネ?何言って「まだわかんないの!?この二人はね!ロックには才能がないって、この先足手まといになるって言ってんのよ!!」
「!?」「!?」
激昂して言葉を荒げるレーネの言葉でやっと真意に気づいた二人は信じられないものを見るような眼を向ける。
「ガルさん・・・嘘だよな?・・・・・・嘘って言ってくれよ!!」
デニスの懇願するような言葉を受けてなおガルは表情を崩さない。次第にゴートの顔も険しくなる。それでもガルはその先を話すためあえて真実を突きつける。
「本当だ・・・ロックにお前らのような才能はない。お前らと一緒にランクアップすることは・・・ないだろう」