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5崩れる平穏⑤

「はあっ!」


デニスに繰り出した刺突がオークの喉を突き刺す。勢いあまって深く差し過ぎてしまいその隙を別のオークが襲い掛かろうとするもレーナの放った矢が顔を狙って放たれ阻止される。たたらを踏み後ずさるオークとの間にゴートが割って入ると直径1Mはある大きい盾を鼻先に突きつける。オークは突如視界いっぱいに広がる盾を払いのけるべきか構わず攻撃するべきか躊躇が生まれる。その一瞬を見逃さないゴートは持ったメイスを膝に叩き込むとオークは情けない悲鳴を上げ崩れ落ちた。最後にちょうどいい位置にまで下がってきた首をロックが切り裂いて絶命させる。


「これで何匹やった?」


とりあえず目につく範囲に魔物が居なくなったので4人は門裏に座り込んで休憩を取っていた。デニスの問いにレーネが指折りながら答える。


「オークが20ってとこかな?ゴブリンは30くらい?」


「50は・・やってる・・」


「確かにな、皆にどかしてもらえなきゃそこらへん死体だらけで足の踏み場もないくらいだ」


今も村人たちが見張りをする傍ら死体を邪魔にならないよう道の隅にどけてくれているのだ。今や教会は避難した村人が中だけに入り切らず外の庭にも溢れている。皆不安そうにしておりざわざわとしているかと思うとロック達に数人が近づいてきた。


「ロックお兄ちゃん、はいお水」


幼い子供たちの持ってきたコップをそれぞれ受け取った4人はぐいと呷り一息つくことができた。


「ねえお兄ちゃん、だいじょぶかな?」


おどおどと不安そうにしている少年はマルク、村で数少ない子供の一人だ。不安でたまらないであろう子供たちをあやすように頭を撫でる。


「大丈夫だ。門に向かった人たちは俺たちよりも戦い慣れてるし、ガルさんにボルドさんなんて引退したとはいえランク3、中級冒険者である二人に勝てる魔物なんてこのあたりには出やしないからな」


「そーそー、ガルさんなんて大剣を片手で振り回すんだぜ。それでいてきちんと型に沿ってるしぶれないんだ。あんなの並みの冒険者にはできないね」


目をかけてもらっているデニスが我がことのように自慢げに話すとすかさずレーネも話に混ざってくる。


「分かるー、あたしもボルドさんに教えてもらって大分経つけどあのひと半端ないね。あたしなんて初級撃つのがやっとなのにあの人中級ばんばん撃っててさあ魔力量どーなってんだって話」


「二人とも、強い・・・」


二人を誉めまくる3人を見て笑いながらそれにな、と言葉を続ける。


「この籠城もそう長くは続けなくていいと思ってる」


「?」「?」「?」


子供たち含めみんながロックの言葉を理解できず首を傾げる。


「多分そうかからずに救援が来るはずだからな」


「救援?どこからだよ?」


「ここらで救援寄こしてくれるなんてとこなんてひとつしかないだろ?」


「まさかグローベルから?でもどうやって?救援要請に誰かいったの?」


グローベルとはカルソー村から馬で半日ほど進めば着く隣町のことだ。人口は5千程もあり冒険者もさることながら兵士もそれなりの数を揃えているはずだ。確かにグローベルから救援が来ればオークとゴブリンの群れなど物の数ではないだろう。だがレーネの懸念ももっともでありグローベルへ向かうには街道を通らねばならず今回の襲撃者たちである魔物は街道すぐ近くの森から湧き出していた。つまり救援を呼びに行こうとすれば必然魔物の近くを通らねばならず早朝から襲撃が始まったことも相まってそんな余裕はどこにもなかったはずなのだ。


「まあボルドさんが誰か行かせたかもしれないが俺が言ってるのはそのことじゃあない」


「じゃあなんでグローベルから救援が来るって分かるんだよ?」


「ゴートなら分かるんじゃないか?」


ロックは黙りこくっていたゴートに聞くとはっと顔を上げある人物の名を呟いた。


「テトラさん?」


ロックは頷く。テトラとはこのあたりを渡り歩く行商人であり時間に正確なことで知られるほど几帳面な性格の商人なのだ。テトラの売るお菓子が大好きなゴートだからこそ思いついたのだ。そのテトラがカルソー村に訪れるのがちょうど今日であり普段ならもう到着している時間なのだ。


「テトラさんは間違いなくこの状況を見ているはず、すぐグローベルに取って返して町長に伝えていれば救援を寄越してくれるはずさ。馬なら駆ければ3時間、もし上級冒険者が来てくれるんならもっと早いと思う」


ロック達の会話をそばで聞いていたのだろう仲間たちが関心する一方思わぬ朗報に子供たちや沈んでいた大人たちも俄かに活気づく。希望的観測にのっとった推測ではあるが落ち込んでいた士気を持たせられていたことに安堵していると。今一番聞きたくなかった報告が耳に届いた。


「南の方からオークが来るぞーっ!!!」


「!?」


すぐに門を出て状況を確認する。今までの魔物は大体が西や東から来ていた。南から魔物が来ない。それこそが南門で味方が今も戦ってくれている何よりの証左だったのだがそれが崩されてしまった。


それの意味するところは


「嘘っ・・・じゃあ皆はもう・・・」


蒼白になりがたがたと怯えだすレーネ、盾もメイスも取り落とし俯くゴート、ロックも震えが止まらない。デニスも押し黙り一言もしゃべらない。やがて近づくにつれ群れの先頭を歩く一匹の異様さに気付いた村人が次々に口を開く。


「でけえ・・・」「なんだありゃあ・・・本当にオークなのか・・・?」「肌の色が違う・・・?」「何か手に持ってやがる・・・」


見上げるほどに大きいオークを前に誰も戦おうとできなかった。あからさまに怯えているロック達を見て先頭のオーク、オークジェネラルは手に持っていたソレを放り投げた。嫌らしい笑みを浮かべる。


鈍い音を立てて転がったそれは半ばから折れた大剣と血にまみれた杖だった。


ガルとボルドの獲物がここにあるという現実についに村人たちはパニックとなる。


救援はまだ来ない。

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