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21 暴力の権化①

魂魄転生は術として拭いきれぬ問題点があった。幾つもの魂を融合させるため元の人格がきれいさっぱり失われ全くの別人となってしまうことだ。それに情緒も不安定であり期間を置き人格をある程度馴染ませないと喜怒哀楽が制御できずおよそ使い物にならないのだ。


オークチャンピオンも例外に漏れず蘇生当初混乱を極めていたがオーク種のなかでも闘争心の塊とされるオークチャンピオンにランクアップしたことで強烈なまでの本能に支配され戦いのみを求めるようになった。その過程でオークジェネラルの時の記憶なども失われていたがただ一つ脳裏にこびりつくように残ったものがあった。それはある個人への激烈なまでの敵愾心だった。こいつだけは殺さねばならぬという絶対の意志。そして復讐の機会を与えられたオークチャンピオンは本能を開放する。









「グオオオオオオオオオッ!!!」


大量の砂埃を巻き上げながら突っ込んでくるオークチャンピオンの狙いをその場にいる全員が理解した。標的とされたのは致命傷を与えたデニスではなかった。かといって剛力を見せつけたゴートでもなく爆炎で痛打を与えたレーネでもない。一番戦力として見向きもされないであろうロックだった。


「ロオオオックーーー!!」


「行けーーーっ!!!」


デニスの上げた叫びを更なる声でもって返す。振り返るなと言わんばかりに。ポーチに残っていた球を全て掴み振りかぶり投げつけると色とりどりの煙が立ち込めオークチャンピオンの姿を覆い隠す。


「く、くっそおおーーー!!」


ロック達に背を向け走り去る。その目には涙が滲んでいた。


ロックは迫りくる絶望を感じながらも煙から距離を取る。自分が狙われたのは嬉しくない誤算といえよう。最悪なのは言うまでもなくデニスが狙われることだ。そうなってしまえばロック達の目論見は水泡と帰してしまう。死を目前にした焦燥が身を焦がすが頭のどこかでこれが最良だとも思っていた。ロックが囮となりゴートとレーネに時間稼ぎをしてもらう、今とれる最善の策といえた。急場だが仕込みも済ませたロックは逃げ回るでもなく敢えて待ち構える。さほど経たずに煙を突き破って筋肉達磨の豚頭が突進してきたと同時にピンポン玉サイズの火球が着弾し小規模な火華が咲く。レーネの放った火妖精の悪戯(リトルフラワー)だった。この魔術は威力を捨てて音と煙、閃光を放つという派手さに割り切った魔術だった。


「!?」


「まだまだっ!」


ただでさえ威力が低い魔術がオークチャンピオンに痛打を与えるれるわけもなく火傷すら負わせることはできない。しかし煙を抜け獲物の姿を見つけ歓喜に沸いていたオークチャンピオンにとってこの瞬間ロック以外は眼中になかった。そのため不意打ち気味に決まった魔術に驚きを隠せなかったのだ。絶え間なく火華を咲かせ続け視覚と聴覚を封じると背後に回り込んでいたゴートが振りかぶっていた戦槌を膝裏に叩きつけた。


手加減無しの膝カックンを食らい短い悲鳴と共に尻もちを着くオークチャンピオン。無防備に晒された後頭部に勝機を見出したゴートは大上段に構えた槌を全力で見舞う。


どれだけ格上であろうとも頭が弱点なのは変わらない。生物である以上鉄の塊を叩きつけられて無事でいられるはずもないはずなのだ。必勝の予感を確信に変えながら振るったはずだったが返ってきた手応えに確信は木っ端みじんに打ち砕かれることとなる。


「!?」


頭蓋を潰す手応えのはずが砕けたのは戦槌のほうだった。信じがたいことだがオークチャンピオンの頭は鉄の塊よりも強靭だったということだ。砕けた獲物に呆気に取られたゴートは伸びてきた腕に気づくのが遅れた。胴体を鷲掴みにされたゴートは高々と掲げられると万力の如き握力で握りつぶされた。


「ごぼぉっ!」


口から大量の血を吐き出したゴートは虚ろな目を彼方へ向け弱弱しく手を伸ばしたかと思うと糸の切れた人形のように動かなくなる。


「ゴーートオーーーッ!!」


「こんのおおーーーーーっ!!!」


ロックの絶叫が上がり、レーネが吠える。今や放たれる火球はレーネの激情に呼応するように熱量を上げていき一発一発が先ほどオークジェネラルに痛打を与えたものと遜色ない威力となっていた。魔力効率の良い触媒が使われているボルドの杖を使ってなお急速に魔力が失われているのが分かるが己の内に燃え盛る激情を糧に魔術を唱え続ける。いつしか大量の汗が滴り乱れる呼吸と抗いがたい倦怠感に支配されとうとう片膝をつく。


「こ・・・これだけやれば・・・」


「レーネっ・・・お前」


息も絶え絶えになりながらも杖を頼りに立つレーネの元へロックが近寄る。ゴートが殺されたのに何もできない自分につくづく無力さを感じながらも黒煙漂う前方を固唾をのんで見据える。やがて煙が晴れたその先に二人は信じがたいものを見る。

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