2崩れる平穏②
刃に付着した血を拭い、投げナイフを回収すると二人はお互いの状況を報告しあう。
「そんで?西地区は回り切ったのか?」
「ああ、その帰りに奴らに遭遇してな助かったわ」
「俺も東地区回ってきた、森に近かったベル爺さんとこは駄目だった・・・」
「っ!?・・・ちくしょう、何でこんなことに・・・」
ことの発端は日も登りきらぬ早朝村に鳴り響いた警鐘だった。隣町に向かう街道にほど近い森から突如としてゴブリンとオークの群れが現れ村に向かってきたのだ。警鐘で跳ね起きたロックは買い置きのパンを口に詰め込むと装備を身に着けある場所へ向かい走り出す。
冒険者ギルドカルソー出張所と書かれた看板を掲げた家屋に入ると初老に差し掛かった男性が集まっていた冒険者に指示を出していた。ロックよりも年季の入った装備を着込んだ彼らが慌ただしく出ていくのを見ながらその男性に近づくとロックに気づいたようで声をかけてくる。
「おおロックよく来た」
「ボルドさん何があったんです」
この出張所の代表を務める男、ボルド・レパードである。ボルドは白髪交じりの頭を乱暴にかきむしると困ったようにこぼす。
「街道に近い森からゴブリンとオークの群れが出やがった。数はざっと数百ってとこらしい」
「なっ・・・」
ゴブリンもオークも別に強い魔物ではない、ロックとてこの半年で何度も討伐している。はっきり言って弱い魔物だ。だがどんな雑魚でも数百の群れとなれば立派な脅威だ。加えてここカルソー村は戦力が十分とは言えない。出張所とは支部以下の小規模な人数で構成されており代表のボルドと受付の女性は共に引退した元冒険者である。この二人のみで運営されているのがこの出張所なのだ。こんな田舎の村では大した困りごとも起きない、強い魔物もいないとなれば依頼もたかが知れており皆村を出て行ってしまうのだ。結果として今カルソー村にいるのは大半が一度もランクアップをしていない低級冒険者ばかりだった。この村が魔物に蹂躙されるかもしれない、その事実に戦慄が走り顔色は蒼白になる。
「まああんま思いつめんな、ガルがもう既に向かってるからな。あいつがいりゃ雑魚なんていくらいようがかわりゃしねえ、俺も行くしな」
「お、俺は何をしたら?」
「お前には東地区を回って避難を呼びかけてほしい、村の奴らはまだ事態を知らねえ。教会に受け入れてもらえるよう伝えてあるはずだ。それと武器になりそうなもん持ってくように言っとけ、いざとなりゃ男どもには戦ってもらわにゃならんからな。デニスには西地区を、ゴートは南地区、レーネには北地区を既に頼んである」
「分かりましたっ!」
あれから出張所を出て東地区の住居を片っ端から回り避難するように伝えた。オークに襲われている避難中の家族を助けるため注意を引いたり、また一緒に戦ったりと自分にできることをこなしていった。村内に散らばる家々を巡り終わり最後に一番中心から離れていたベルという一人暮らしの爺さんの家が見えた時愕然とした。扉が乱暴に破られており中から多数のオークやゴブリンが出てきていたのだ。あの気のいい爺さんが帰らぬ人となってしまったことに怒りが沸き起こり口元を血で染めたあの畜生どもを殺してやりたい衝動に駆られるも10匹を超える集団に挑むのが自殺行為でしかないと自分を抑え込み一目散に逃げだすしかなかった。