8 魔法のお話 2
わたしの稚拙な駄文を読んでくださり、本当にありがとうございます。PVが増えるたびに、とても嬉しい気持ちでいっぱいになります。
ちなみにサブタイトルの転性の文字は、転生の誤字ではありません。
これからも、よろしくお願いいたします。
「んわぁ! あつ、あっつ」
ロコは慌てて上着を脱ぎ捨て、地面に落ちていた枯れ枝を拾い、ボロ布に叩きつけて火を消した。
力加減がわからず、枝が粉砕するまで上着を叩いたせいで、ボロ布にとどめを刺してしまったようだ。
……。
「ビッ! クリしたなー」
再起動に二秒掛かった。
自己流でやって、いつもの失敗するやつだ。
自信家じゃないんだけどね、反省反省。
「仕方ない、悔しいけど、また頼っちゃうか」
だって、もとより魔法の存在が無い所から来たんだから、魔素を感じることが出来ないなんて当たり前なんだってば。
そもそもからして〝魔素〟が何なのか分かってないんだから。
聞いた方が早いってのも、わかってるんで、はいはい、やってみたかったんですよー。
簡単に解釈すると、この惑星には油層やガス層のように、魔素の層もあって、それが大地や大気に溶け込むんだと。
そして、植物や一部の生物たちが、酸素のようにエネルギーとして取り込んだりもする。
しかし、高濃度の魔素に当てられると、酸素中毒のような痙攣、めまいなどといった異常をきたし、魔素中毒とよばれる状態になるようだ。
それを防ぐため、ほとんどのアサルアムンに生息するものたちは、進化の過程で魔素を体内で作れるようになり、その魔素で体の表面に薄い膜を張り、魔素には魔素でと、体を守るようになったとのことである。
その後、自らの気づきと管理側の誘導で、或るものは更に魔素を使い操作して、身体強化に努め、また或るものは研究し研鑽を重ね、多様なタイプの、魔法というものを開発して、今に至る。
生物が死ぬと、魔素も大地に帰るか、または大気に溶け込む。
それ自体は液体でもあり気体でもあるのだとか、超臨界流体ではなくてだのと、そのあとも色々説明はされたけれど、結局あたまに残ったのは、無色透明の物質ということだけ。
すでに、あたまは渋滞しまくっている。わたしにはなんの事やら、まったくわからないので、わたしにとっては謎物質という理解しかない。
ヒト種族では、大気中に溶け込んだ魔素を視認出来るものはいないみたいだが、昆虫や鳥などは紫外線が見える、といった事があるように、妖精タイプなどに見受けられる、魔素を視認できる生物は僅かながら存在するらしい。
ただし、ヒト種族も肌に感じるといったような知覚が出来るものと、一部のヒト種族、主に獣人系は匂いを嗅ぎ分けるものがいるということだ。とまあザックリこんな感じでなんとなく説明を受けた。
しかし、この状態はまずい。服だなんて言えたものではない。ボロだったにしろ、何も纏っていないよりはマシだった。
やはり後悔とは、あとに立つものなんだなあ、なんて感慨にふけっている場合ではない。
さっきは、ウーウー唸ってはみたものの、一向に魔素を感じられず、ついなんとなく、某戦闘民族で名高い、金色の髪を逆立てたあの彼を思い浮かべただけだったのに、まいったな。流石にこれじゃあ寒いよ。
それに、前にも聞こえた小さな囁き声が、さっきも聞こえた気がしたんだけれど。気のせいだったのかな。
それから、はじめ、夏のプールの生暖かい水に肩まで浸かっているような感じになって、で、少しあとに、炎天下の海辺で長時間寝てしまった時のような火照りで、体が熱いと思った瞬間、金色のオーラが湧き立つではなく、あろうことか赤い炎でメラメラと服を燃やしてしまったわけなんだが……。
まああれで、なにかの感覚をつかめたかもしれないと思えばいいか。思い違いじゃないことを祈ろう。
オークスによれば、おそらく服がくたびれて汚れていたのと、死んでた時に付いた、あっと、死んでた時って表現も怖いね。
それで、自身の脂を含んだ血糊や、わたしの死体(正確にはピテルくんの)に口をつけてた動物たちの、毛の脂やらなんやらが、ボロ服に染み込んでドロドロだったから、急激な魔素の噴出による熱運動だとか、その辺りがきっかけで、発火点に至り、燃えたのではないか、ということだった。
うーん、難しい事はよくわからないが、火は危険だから、良い子のみんなは気をつけよう、とほほ。
ともかく燃えてしまったものは、元に戻らない。ただ、結果としては燃えたのだ、やった嬉しい!
おそらくこれは、見兼ねた精霊たちが手伝ってくれたに違いない。「精霊さん、ありがとう」と確信はないんだけれど、とりあえずお礼を言っておく。
自身の魔素と、集めてくれた魔素の多さも相まって、魔力の制御が効かなかったのかなと、適当に予想して結論づける。
いいんだよ、なんでも。終わり良ければなんとかだからね。終わらないけどね、始まったばかりですよ。
オークスから教われたことで、魔素のことも理解できた、ような気がする、たぶん。
魔法が使えたこの感覚を忘れない内に、早くなにかしてみたい。そうだなあ、さっきの石つぶてで、枯れ木を吹き飛ばした指弾に応用できたらいいけど。
草木に土や水とか、どこでも手に入るもので玉の代用にできるか考える。小石がなきゃ困るんじゃ意味ないからね。
まず水は除外、手元に無いし、ここは乾燥してるから、おそらく魔法初心者には、ハードルが高いと思う。
なら、草木より多くあるってことで、そこらの土からやってみるか。地面から土を少量えぐり取って、ドワーフ譲りの力技で、パチンコ玉くらいに圧縮して固める。
その時あの感覚をなぞりながら、オークスに解説いただいた、魄胞から魄脈を流れ、全身に行き渡っている魔素を手のひらに集める。
それを、手で握った土の密度が大きくなるように、念じながら染み込ませる。
実際にも、練り固める感じに両手で土をこね、コロコロと手を擦り合わせて、形を整えてから丸めてみた。
「おー、磨いた小さな泥団子みたいだ」
わたしらの親の世代で流行ったリバイバルというか、一周回ってもう一度来たみたいで、弟や近所のお子様たちとよく作ったものだ。
少し光沢のある焦げ茶色をした、何かしらの金属にも見える、パチンコ玉くらいのモノが数個出来上がった。
早速、近くの枯れ木に指弾を当ててみる。どうもコントロールがうまくいかないみたいで、木に当たっても、横滑りしてはじかれたようになる。
指から放つ瞬間も、玉の表面がツルツルしていて滑るのだ。硬そうだからと、黒光りしたボウリングの玉を連想したのがいけなかったのかも知れない。
そこで地面から新たに土を取り、魔素を練り合わせてから、あえて玉の表面を、ザラザラした感じになるようにイメージして作り直し、再度指弾を打ってみた。
今度は予想通りうまくいった。指の掛かり具合も良く、コントロールし易くなって、木に当たった時もザリザリと削りながら貫通するようで、殺傷力も数段あがった気がする。
だがしかし、それと同時に、指への負担も増えてしまって地味に痛い。
小石の時は「タッ」くらいで我慢できたが、これは流石に「イダダッ」ぐらい痛くて集中が途切れる。なんとか指先の強化はできないだろうか。
だいぶ時間を掛けたが、なんとか手のひらだけに纏う魔素の膜を、なんて言うか、ぴっちり手にフィットするタイプの、使い捨て手袋をしたような感じに区切り、空気がもれないように密閉した。
更に滲み出た魔素との間に、数ミリほど厚みのある、適度に張った空気の層を作り、その状態で試しに指弾を打ってみたら、クッションが効いて、痛みも我慢できる程度には軽減された。
うむ、これで少しはマシになったと思う。あとは、指が勝手に豆でもできて強化されるだろう。
何度か試す内に、土玉も念じるだけで形成できるまでになった。やればできる子ちゃんなのだ。
「あーあぁ、ちょっと疲れた、喉乾いたし、おなかも減ったなあ、もう覚悟してあそこの山ブドウもどき、食べちゃおうかな」
「何を裸でブツクサ言うておる、寒くないのか? 案外丈夫なんじゃな」
「お、帰ってきた、疑ってごめん」
「なんじゃ?」
「いや、なんでもないよー」
補足です。
◇魄胞〈はくほう〉◇
魄胞とは、体内に有る魔素を作り出せる器官。作り出した魔素は、魔のうに濃縮した形で保管される。
◇魔のう◇
胆汁を溜める胆のうが有るように、アサルアムンに生息する多くのものに魔のうが有り、魄胞で作られた魔素は、一旦魔のうに濃縮して溜められる
◇魄脈〈はくみゃく〉◇
魄脈とは、魔素が流れる毛細血管のようなもので、それに繋がっている魔線から魔素は滲みだし身体中を覆う。微細な空気孔は有るので皮膚呼吸を阻害しない。
◇魔線◇
魔線とは汗腺のようなもの。