5 ステータスオープン
出身:カーサレッチェ共和国、廃村
種族:精霊族、ハーフドワーフ
性型:雌雄型、オス
年齢:十三才
内名〈ないめい〉:{ここには渡来してきた者という意味をもつ精霊文字でフルネームが記載}
外名〈がいめい〉:改名ロコ(前ピテル)
視能:構造的には高い性能が期待できる(エルフ種遺伝)
聴覚:精霊族特有の形状、広範囲の小さな音も拾えるはず
魔力:種族特性あり
腕力:常人以上の資質(ドワーフ種遺伝)
脚力:腕力共にドワーフ特有の肉質
特技:手のひらと筋肉周りの状態から、弓使いに特化していると推察
総評:優、筋肉は裏切らないでしょう
「……」
タリア、ただの筋肉好きだったか。
どうも思ってたのと違うんですけどっ、ごめん、ワクワクしちゃった過去のわたしよ、許して。
ところで雌雄型のオスってことは男の子だよね。タリアとケパレトも、小僧だの少年だのと言って、どうりでおかしいなと感じてたんだ。
「うん、しっかりついてるね、フフ」良いですね、今世は男子ですか。
わたしは幼い頃、ヒーローものがとても好きで、一度は変身してみたいって願望あったけど、まさかこんな形で叶うとは、意外にちょっとうれしいかも。
いやあそれより、いろいろと脇に置いといてさ、少年はピテルって名前なんだ。かわいらしい名だね。
正直に言うと、名前はわからない方が良かったかな。知ったところで使わないし使えないでしょ。
こうして体を引き継いだけれど、そこまではね。名付け親がこの子を想って付けた名前だろうし、亡くなってるからといって少年から奪っていい理由にはならないと思うんだよね。なーんてカッコつけてみたりして。
そもそも生い立ち知らないし、生きてるあいだに入れ替わったわけじゃないんだしさ、人生まで継ぐのは無理があるよ、うん。
そのあたりがモヤってジレンマに陥るけど大丈夫か、セーフだよね?
幸いと言っては語弊があるけれども、多少は顔が変わったみたいなこと言ってたし、もしやピテル君だとは知人でも気づかないだろう。そうだ、このことはとりあえずわたしの胸に仕舞っておこう。
それにしてもこれは、ふーむ、なんだろうか、ハーフドワーフってさ。こいつはまた、聞き慣れない単語が出てきたよ。
さっきはいいひとぶって、らしい事言ってたのに、そういうところを気にしちゃうとか『ちっさいやつ』って言われそうだ。けして偏見なんてないからね、ほんとだよ?
でもこれ、ハーフエルフの間違いとかではないのかな、ほんとにー? まさか、全身毛むくじゃらじゃないよね? もじゃだめ絶対やだよ?
顔さわった感じは大丈夫みたいだね。おほ、むしろスベスベだー、十三才だもんね。髭で顔が埋もれてなくてほんと良かった。小さい妖精おじさんだったら嫌だもんね。まぁ将来は知らんけどね、祈っとこ祈っとこ。
はいはいこの際、容姿は置いといてだね。なんたって遺伝子がすごいわ。受け継いだスペックがなにげに高いから、期待も大きくなるね。
でも、父と母、どっちがどっちかわからないけどさ、エルフとドワーフって、お話と違って仲悪くないのかな?
あぁしかし、これだけすごい性能してるってのに、子どもだからとはいったってさ、この遺伝子をもってしても生きながらえることができないとは、実に厳しい世界なんだな。
それだけ過酷ということなのかも知れないけれど。ちょっと気おくれしちゃうね、やっていけるかなぁ、わたし。
それにちょっと気になった点もある。魔物とか野生動物にやられたんではなく、刃物傷で亡くなっていた事だ。盗賊の類いだろうか、それともなにか諍いでもあったのか。なんだか怖い世界だ。
恐らくこの先、わたしがその理由を知る事もないだろうけれどね、たぶん。けれどもしこれがフラグで、わたしになにかしらの役割りがあるなら、できる限り力を尽くそう。
だって偶然だとして、この体を譲り受けられた事でわたしは助かったんだからね、これ以上の幸運はないだろう。
はい、しけた話は終わり。よし、二度目の人生なんだ、楽しめるとこは楽しんで、この世界を生きて行こうじゃないですか。お礼を言うのもおかしいけれど、ありがとうピテル少年。
いつか観光してさ、キミにもらったキレイな瞳で、いろんな景色を見てまわるからね。
さてさて、予想していた定番のステータスじゃなくて、ちょっと物足りなさを感じたけど、自分がどういう存在なのかとか、そのへんは少し理解できたから良しとしようか。
せっかく創ってくれたんだし、もしかすると、この先、何か更新されるってことがあるかも知れないからね、タリアの言う通りモチベーション維持に、たまに眺めてみるのもいいだろう。
「ハアーああ」
でもね、アニメとか小説にある所謂チートじゃなくてもいいからさ、異世界に来たならね、ほらやっぱりいかにも厨二病ごころをくすぐるようなスキルっぽいものって、有ってもいい気がするんですよ。
スペックは十分過ぎるほどチートだから贅沢っちゃ贅沢なのよな。まぁ無いものはしょうがない。
タリアはもういないしさ、スキルに代わる特別な何か、能力的な要素? そういうの詳しくケパレトに教わりたいけれど『ちと用事を済ませてくるから待っておれ』とか言って、どこかに出かけてしまった。はい早速の放置プレイですわ。いま、魔物に襲われたら、秒で死ねるんですけどね!
いくら頂上付近は匂いづけして行くから心配するなと言われてもねえ、怖いし心細いから、一人にしないでほしいんだけど。
ああそうだ、かあさん今頃寂しく思ってるだろうか。暫く会ってないけど、次郎は元気にしてるかな。かあさんの事よろしく頼むね。
あれ? やだな、この状態で雨とか無理すぎるんだけど。
……なんだよもう、今泣いてる場合でもないんだよな。「ズズッ」
…………。
ふぅ。無駄に水分を失ってしまった。不安になる事は、なるべく考えないように気をつけよう。
さて、能力の件は、ケパレトが戻るまで希望は残すとして、スキル以外の他に何か有るかも知れないし、それに実際、魔力は在るんだから魔法に関しては期待してもいいだろう。
ピテル少年には使えて、わたしには使えないとか、すくなからず懸念はあるけれど、折角この世界には魔法があるのは分かってるんだから是が非でも使いたいよね。
危険な目にさえあわなければ、楽しくやれそうなんだけど。異世界に魔法って、まさにファンタジーの醍醐味、しかも古代龍にまで出会えたなんてさ、考えたらほんとは凄いことなんだよなぁ。
めちゃくちゃ怖かったけどね、ちょっぴり漏れたのは内緒だぜ、「フッ」
いまも、シンとして静かなのが逆に怖いんだよー。
不安をごまかすのに、ブツブツ独り言を言っちゃってさ、完全に危ない子だよね。
このモヤモヤする、いやな気持ちを消し去ってくれるものはないものか。
「んーむう」
この地でサバイバルするなら、狩りは必須だろうか。弓が得意って、そりゃ有り難い特技だけどねえ、そんな武具、今ないしさ、持ってなけりゃ意味ないよって。
あ、正確には壊れた弓ならあの場に落ちてたんだっけ、なんなら握り手に刺繍が施された、ご立派な小刀もあったから、一応拾ってあったんだ。
自慢じゃないけど生まれてこのかた、包丁など、ほとんど持ったことなんかない。わたしはキッチンばさみ派なのだ。
そんなわたしが、小刀を振り回すなんて無理に決まってるって。少なくとも、今のところは。
「もう、そこらに落ちてる小石でも投げろっていうのかよー」
お、いやそうか、それはそれで有りなのか。
腕力はドワーフ譲りだし、以前の非力なわたしなら考えもしなかった方法だったけど、ファンタジーに当てられた今のフワフワした心境からか、案外やれる気になってきた。
どうせケパレトが戻るまで暇なんだ、駄目もとでちょこっと投げてみようかな。
そう思って直ぐに、ちひろ子は足下に落ちていたテニスボールくらいの石を拾い、三メートルほど離れた背の低い枯れ木に向かって投げてみた。
「ブーォン、バキャ」という乾いた音と共に、標的にしたそれの太い幹の部分が半分ほど抉れて吹き飛んだ。
放心した様子で、自身の手のひらを握ったり開いたりしたあと、ニカっと笑うちひろ子。
「テッテレー。おいおい待て待てー、どうしちゃったのちひろ子ちゃんたら、ずいぶんとマッチョになっちゃったんじゃないのう?」
これがこの世界の標準なのか、はたまたドワーフの血がなせる技なのか、まあ後者だろうけどね。
もちろん知ってたさー。
それにしてもすさまじい、まさかここまでとは! もとの世界だったら、マジもんで化物だよ。
伝説の、某男子ハンマー投げオリンピック金メダリストもビックリだね。
あー、いや彼なら、超人だからね、ひょっとしなくても、出来ちゃったりするんじゃないかな、ほんとに。
それはともかくとして、獲物を仕留めることを本気で考えてみると、石を投げるって結構動きが大きくて、気配を撒き散らしてると思う。生き物が投石に当たるまで、じっと動かないで待っててくれるはずもない。
おそらくだけど、動作に時間をかけると逃げられるだろうし、距離も取られて避けやすくなると思うから、当たらないんじゃないかな。
といっても素人の考えたことだから確証ないし、なんとなくそう思っただけ。
狩りにしたって、近づけても十メートルくらいとか、いや、野生を舐めてはいけないね。
競泳プールの端っこぐらいには離れてないと駄目な気もするし、それでもまだ近いのかも知れないが。
なんかこうもっと、初動を小さくする方法だとか、適当に少ない知識の中を探してみるが。
「んーむむむ」
やっぱりそう簡単に都合よく浮かばないかあ。
ぽけえーっ、と空を眺めて見たり、鼻をほじってピンッと小指ではじき飛ばしたり……。
おおおお、そうだよ、指でね! 指弾てどうやるんだっけ? こうかな。記憶を頼りに今度は小石を使い、適当に親指ではじいてみる。
先ほどとは別の場所にある、もっと距離の離れた枯れ木に向けて指弾を放ってみるが「ヒュンスカッ」と外れてしまった。
さっきは、的も近くて容易に当てられたけど、これだけ離れると難しくなるものなんだな。
飛ばす小石は、的にしている木までの勢いはあるし、やり方はそんなに間違ってはいないはずだ。頑張って続けてみよう。
「ヒュンスカ、ヒュンスカ」と、なかなかに外しまくって狙いが定まらない。
どうも、まぐれ当たりがカスるくらいで、当てたという感触がつかめない。
しばらく練習を続けていたけど、次第に飽きて苛立ちも募ってきたので、もう止めようかなと思い始めた時だった。
『手伝ってあげるよ』
そんな囁き声が聞こえた気がした。
「ビシュッ」という木の幹を貫通した音のあとに、「カッ」とそのうしろの岩に小石が当たる音がした。
ほう、これなら当たりさえすれば、小動物程度なら仕留める事は出来そうだ。
それにしても、さっきのは何だったんだろうか。一度聞こえた以降は、なにもない。
まあいい、きっと風が木の葉を揺らした音と聞きまちがえたんだろう。よし、このまま練習あるのみだ。
最初は難しいと感じた指弾も、この身の潜在能力の高さからか、一度コツを掴んだら、ほぼ九割以上、狙った場所を当てられるようになった。
ついにはなんと、連射までこなせるようになり、なんだか楽しくなってきた。
以前のわたしは、こういった実技関係が、あまり得意ではなかった気がする。と言って勉強ができたかって言ったらそうでもないんだけどね。
スポンジのように、とまではいかないけれども。いいね、努力のしがいがあるって。
そもそも生存率が低そうな世界なんだから、わたし自身の本能が、生き残るため必死にもなるってもんだ。
うん、うん、必死過ぎて指から血が出てるのも気づかないほどだ。安心した、あんな事できても普通に人間だったね。
しっかし遅いな、やだなもう、まさか面倒になって捨てられたかなあ。
ここの、{ここには渡来してきた者という意味をもつ精霊文字でフルネームを記載} というステータスのところ
ロコがハーフドワーフという設定なので、J・R・R・トールキンのキアス文字風のものを使いたかったんですけれども、文字化けしない代替があれば、いつか改修したいです。