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4 古代龍



 西の方角を見て「いるわね」と、つぶやいて「それでは少年、行きますよー」と言いながら、空中を浮遊していたタリアはスーッとちひろ子のもとへと近寄る。


 魔法とは原理の異なる管理システムの機能を使い、球形の物理型障壁を発生させると二人を包みこむ。


 一瞬で空高く浮かび上がり、かなり速い速度で西に向かって飛行移動を始めた。


 あっという間に広大な森を抜け、ズコット山の麓に到着すると、そのまま頂上付近平坦部まで、止まることなく一気に登る。


 目的のケパレトと名を呼ぶ、古代龍の棲む山頂中心に向かって歩いていると、先をいくタリアが、一際大きな岩山に向けてゆびを指した。


 ちひろ子がそちらに視線を向けた直後、雷鳴のような鳴き声と共に、標高が高いせいでもあるのか周囲の凍てついた空気が硝子を割ったように飛び散り、大きな岩山だと思っていたものが動いた。


 つい、さきほどまでは、不動の岩塊と思われた古代龍が、二人に向かって振り返り、ギロリと睨んで言葉を発した。


【それで、その小僧はなんだ?】と地鳴りのような声でうなると、いちいち空気が振動する。


 そんな古代龍の様子にも、気にすることなくタリアは答える。


「久しぶりねぇケパレトくーん。この子はね、ここに来る途中で拾ったの、ねー、あらぁ」


 クスクスとわらい、ちひろ子の顔の前でフリフリと手を左右に振るタリア。


「器用なのね、立ったまま気絶してるー」と、更にケラケラわらうと、そう言ったそばから「ドサッ」と崩れ倒れるちひろ子。


【ちと、悪戯が過ぎたかのう。それで、そいつはなんじゃ?】


「えーと、説明するね。この子の精神核なんだけど、すこーし前に、わたしを慕うアウレリアの子たちが召喚に失敗しちゃってね。


 用意された器に入れなくて、さまよってたのよぉ。それでね、拾ったまではいいけど、どうしようか迷っちゃって、もう面倒だからケパレト君に決めてもらおうと思って会いに来たの。


【ならば、拾わねばよかろう】


 そうなんだけどー、慕われるのも悪い気はしないっていうか、正直に言うとね、かわいく思えてきちゃって。


 そうかと言って召喚を手伝うわけにもいかないし、だってね、さすがに、ほら、管理者のわたしが、一方に肩入れできないでしょ?」


【だのう……】


「でもー、ケパレト君のところに来る途中で、偶然その子がクロスタータの森に倒れてたのね。


 規定を破るつもりなかったんだけどー、見かけちゃったし無視するわけにいかないじゃない?


 間に合わなかったのは残念だったけど、一応蘇生もしたんだよぉ。


 それでー、その迷子さんをね、その子のカラダに入れちゃったの」


 急な、はやくちになるタリア。

「だめかな、いいよねいいよねぇ? だってずっと無休で働いてるんだよぉ。

 わたし良い子で頑張ってるんだから、ね、ケパレト君ならどうする?」



【急に捲くし立てるでない、落ち着けタリア。結局のところ、慈悲を与えたんじゃろ?】


「まぁ、わたしが失敗の穴埋めする必要ないんだけどぉ」


【うえからは、何とも言ってこんのか?】


「うう、あの方たちには些細なことだから見逃したのか、それともこの子を暇潰しの賭けネタにするのか、わたしにはわからないけどね、まだなにも言ってこないよ。


 いま、なにもお沙汰がないなら、きっと大丈夫だと思うの。好きにしろってことでいいでしょ、ね。エヘヘ」



 タリアが、ケパレトの鼻先を指でこづいた。

「それでね、ものは頼みなんだけどぉ」


【いやじゃ、断る】


「まだ、何も言ってないんですけど!」


 怒るようなポーズをして、そのあとで上目使いに身をよじる。


「わたしたちぃ、ながーい付き合いだよねぇ?」


【なんじゃクネクネしおって、腹の具合でも悪いのか?】


「ちょっと、なによそれ、ケパレトじゃないんだからぁ」


【わしは龍だぞ? 人の子は扱えん。わかるじゃろ】


 ケパレトは、ため息をつくと続けた。


【それに、近頃はなんだかモゾモゾしてのう、もうじきのような気がするんじゃよ、次が何処ともわしには決められんし】


「あらそうなの? 早いわねえ」


【うむ。そなたからすれば高々一万年など短かろうのう】


「それなら、昇華転生するまででいいから、わたしのお願い聞いてよぉ。

 ほらー、異界のきみ、白目むいてる場合じゃないぞー」


 と、倒れて横になったちひろ子を、揺らして起こそうとするけれど、一向にピクリともしない


「あぁもう、仕様がないなぁ」


【さては、巻き込んでわしを共犯にするつもりじゃな。


……ハァ、やれやれ。わしは無事に昇華出来るのかのう。心配になってきたぞ】



    *



 ——はい、手はこうよ——


 ……。



 そうそう————やればできる子だよ、ガンバレ。


 …………。



 ————まあまあの出来ね。


 ……。



「じゃ、あとはよろしくねー、それと逝く時は、わたしのところに寄るんだよー」


 軽い口調でそんな言葉を言い残し、タリアが立ち去ってから、ほどなくしてちひろ子は目を覚ました。



「なんだ夢か……、そうだよね、そんな異世界に来ちゃうとかさ、もうファンタジー過ぎるって、異世界小説読みすぎかよってね、ハハハ」


 辺りを見回すと、枯れた木々が立ち並び、わずかかに雪らしきものが岩肌にのって残っている寒々しい風景。時折『ヒュォ』と風が通りすぎる。


「さむうー……、くない、全然寒くないね? この風景にしてこの体感って、まだ夢見てる? わっはぁ、だいぶイカレてるなこりゃ」


ちひろ子は、おでこをペチリと平手でたたくという、古来より故郷に伝わる伝統のポーズをして呟いた。




「む? ようやく起きたか。ヒト族は弱いからのう。


 おまえを風の障壁で覆っていたからなあ、寒くはないと思うんじゃが」と、ちひろ子のそばに立つ、一人の老人が話しかけてきた。



「うわっと! ビックリした、急に話かけないで。今度はどこの誰?」



 そう問われた老人は「どこの誰かと言われてもなあ、ズコット(さん)に住んどるケパレトじゃと名乗る他ないがのう。


 今度は驚かせないようにと思うて、人の姿に転移して待っとったんじゃがなあ。龍の姿よりは良かろう?」と困った様子でケパレトであると明かした。



「りゅ龍様でしたか、こんな矮小なわたし如きが、気を使わせてしまってごめんなさい、なんでもしますから殺さないでください、お願いします」と土下座をして弁明をするちひろ子。



「騒がしいやつじゃのう。小僧、少しは落ち着くんじゃ」



「ヒッ! お願い食べないでっ」



「誰が食らうものか、人間など不味くて食えんわい」



「それは食べたことがある感じの言い方」



「知りたいか?」



「遠慮します。それで、この状況はなんですかね?」



「せわしないのう。急に冷静になりおって、肝が大きいのか小さいのか解らんやつだ。


 まあよい。おまえの事はな、タリアから頼まれたんじゃ。あれも助けた手前、おまえをそこらに放り出したら、すぐ死んでしまうと思おたんじゃろうのう。


 ここで生きるすべをな、わしに教われというて、あずけたんじゃよ、全く面倒な話じゃ」




「それって、もしかして丸投げされたんじゃないの?」



「うむ、おそらくそうじゃろうのう。それはまあよいとして、そうじゃまだ、ことづてが残っとった」



 話によると、どうやらわたしの魂に細工したようで、体から読み取れた個体情報などいろいろと、具体化して視られるようにしたらしい。



「心持ちを保つには、些少の役に立つであろうと言うておったぞ。それに、『教えてタリア先生』と呼べば、アサルアムンの基礎知識くらいは提供するとも言うておったな」

 わしに押しつけておいて、何が先生じゃ。と、ブツクサ言っている。



「うほっほーい。異世界定番、ステータス来たよ」と、ニタニタ笑いが止まらないようすのちひろ子。




「おっと、そうじゃ、もう一つ忘れておったわ。


 ゴホッ、あー、あー。『おまえだけが特別ではないからのう。じゃが、この事は二人だけの秘密じゃよ』


 ふむ。ハトとやらの形とはこうじゃったかの? よし、良いできじゃ。


 ツンドラ? とやらで伝えろと言われたんじゃがのう、ツンのあとにどうしろこうしろと、うるさくタリアは言うておったが、あれはいったいどういう意味の、んん? どうしたそんな顔しおって。


 おい小僧、どうじゃろう、タリアになろうた通りできたと思うか?」




 タリアに言われるがまま、真面目に請け負い、ポーズまでとる老人姿の古代龍に親近感も湧き、いつのまにか恐怖心が薄まったちひろ子は上機嫌に唱えた。


「ステータスオープン! ほあ? 出ないよ」




「ほっほ、タリアの言うた通りじゃな、ほんとに言いおった」



「?」



「念じると、あたまに像が浮かんで視える、そう言うておったぞ」



「それ先に言って」




 ケパレトが、タリアから教えこまれたセリフの正解はこちら、『あんただけが特別じゃないんだからね。でもー、この事は二人の秘密だよハート』でした。


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