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34 道具屋ニクス

「ロコの異世界日常譚。冒険しなくちゃダメですか? 〜突然ライフポイントがゼロに……どうやら異世界で転性したみたいです〜」


という現在の題名を


「ロコの異世界生活。」


という題名のみに今更変えるのは有りですかね?


それと、ビビり過ぎて Ꭱ15 にしていましたが、

まったく大丈夫だということで外しました。



「好きに見てていいが、買う気になるまで声はかけないでくれよ」


 読書中であったのか、手元の本に視線を落としたまま、こちらも見ずに、まあまあな塩対応である。


「あの、これを渡すように言われて来た者ですけど」


 本を閉じ、初めてこちらを見た、道具屋の店主ニクス。


「ああ、きみはギルドに居た少年か」


「はい、ロコって言います、隣は友人のリィヤです」


「番いのリィヤと申します。よろしくお願いします」


「あ、ああ、ツガイとは?」


「いや、いいんです、気にしないでください。ちょっと変わってるので。

それと、先ほどはありがとう御座いました。おかげで、このラズリをギルド公認で連れて歩けます」


「チュイッ」


「ほう、それは良かった。それで、わたしに何かようかね?」


「これを」と言って、割とキレイに整頓された机の上に、ギルド長モーリスから預かった手紙を置いた。


「ふむ」


 ギルドの封蝋を解いて手紙を読むニクス。


「これには、きみに渡す認証札を作れと書いてある。


 なに……元々は冒険者が飼獣登録する際の備考欄に、従魔師と書いていたものを、ニクス氏(わたし)が提案したことが周知されれば、年齢を問わない資格取得が常態化することになるかも知れない、などと恨みごとのように書きつらねてある。


 これも、あれこれ仕事が増えることの、その責任を取れと言っているのだろうが、次の取引で値引きを企んでるな。ケチなモーリスめ、無償でとは、おこがましい」



「あ、お金なら支払います。あまり持ち合わせはありませんけど、自分のためですから」



「ほう、感心だな。冒険者どもは図々しい者が多くてね、てっきりモーリスの意見に便乗するかと思ったが、ああ、そう言えば、きみはまだ年齢が達していなかったか。


 見ての通り、決して繁盛しているわけでもないのでね、こちらとしても、そうして貰えると助かるよ」



「あ、いえ、すみません。よろしくお願いします」



「あり合わせでいいなら、明日の午後には渡せると思うが、どうするかね?」



「えっと、そんなに早くできるんですか? 全然それで問題ありません、大丈夫です」



「あー、ところで、つかぬ事を聞くが、きみの知り合いに、ケパレトという名前か、もしくは非常に珍しい種族の生き残りだという者は居たりしないだろうか?」



「ぁ、それっ」


「いや、ギルドでも感じたことだが、きみから知り合いによく似た匂いがするものでね。わたしの思い過ごしであるかも知れないから、間違いであったら気にしないでほしい」



「え、やだ、(にお)いますか?」

 クンクンと袖口の匂いを嗅いだりしているロコ。



「はは、そうではないさ。彼の魔素を感じるというか、似た雰囲気が、きみの側から感じると言えばいいのかな。

 もしかしたら、彼が手放した何かしらの物を、きみが身に付けているだけなのかも知れないがね」



 もしかしてとは思ってたけど、話に聞いてた道具屋のエルフってやっぱりすごい似合ってる感動だわ。仲が良かったかは分からないけど、悪人とは言ってなかったと思うし、ケパレトが身分を明かしてる程度には信用できる相手だよね。


「あのう、ニクスさん、そのかたとはどんな間柄なのでしょうか?」



「ああ、何か警戒させてしまったようだが、あの者とはくされ縁というのかな、時折わたしの手伝いをしてもらったり、その逆であったり、仲が良いともいえないが、古い付き合いではあるね。


 彼は、何かにつけて『尻尾も生えとらんくせしおって若造が』と言うのが口癖でねえ、これでも千を越すくらいには歳を重ねているのだが。


 まあ私に言わせれば、そんなものが生えてしまっては、邪魔でしようがないんだがね。はははははは」



「はわあ、一千才ってすごい……そうだ、えっと」

 ニクスの話しぶりから信用できそうだと考え、ロコはリィヤと顔を見合わせ、リィヤが頷くと、背負っていた背嚢からガサゴソとケパレトの魔精石を出して机の上に置いた。


「まさか、これはいつごろ……いや、やはりあの時か。きみは、昇華に立ち会ったのかね?」



「はい、数日前に」



「なるほど、これですべて合点がいったよ。そこに連れている者は、魔獣ではなく精霊獣だね。漏れ出る波動でそれとなく感じてはいたが、それで、きみらは何をどうするなど、目的はあるのかね?」



 ずいぶん、先回りしてグイグイ聞いてくるヒトだなと思ったが、まあ悪心は感じ取れないし、なぜかこのヒトには話してもいいような気がしたので、昇華する間際にケパレトから頼まれた事を、かいつまんで話してみた。


 ただし、タリアのことまでは話さない。それを話せば自分の出自を話す羽目になるかも知れないからだ。さすがに、そこまでは必要ないだろう。リィヤもわたしの肩にそっと手を置き、同調しているようだ。



「ふむ、それで龍のところに預けようと、そういうわけだね」



「そうなんです、預けるかどうかは別にしても、頼まれた事なので、一度会いに行って来ようと思います。ただ、南としか知らされてないので居所を探すのが先になるでしょうけど。


 そういったわけもあるので、この子を連れ歩いて何か問題が起こる前にと飼獣登録しに来ました。

 できれば路銀も稼ぎたくて、売れるものならこの石も売ろうと思うんですけど」



「売るって、それを売ってしまうのかい?」



「はい、んー、なんて言っていいのか……これは、ケパレトではない気がするし、勝手な思い込みなんですけど、ケパレトなら『路銀の足しにするといいじゃろう』って言ってくれるかなと思って、あ、けどそれって心がないと思いますか?」



「いやまあ、うーむ、答え難いよ、きみ。ははは。

 ただ、後悔しないか? とは思うがね。他に稼ぐ当てはないのかい?」



「いますぐっていうのは無いですね。もうケパレトの鱗も落ちてたものは全部売ってしまったし、狩りで集めた毛皮も肉も残ってません。それに知っての通り、冒険者登録もできないので依頼で稼ぐことも出来ませんから」



「ならば提案なんだが、しばらくの間わたしの手伝いをするというのはどうだろう。南へ行くのも、いつまでにと、期限があるものではないのだろう? 無論、手当ても出そう。

 それと、その魔精石もわたしに買い取らせては貰えないだろうか」



「ほんとですか! 魔精石まで買ってもらえるなんて、でもボクを雇って大丈夫なんですか?」


 手当てなんて出して大丈夫なのかと、ロコは心配そうに店内を見渡してつぶやく。



「正直だな、きみは。


 ちょうど、一人で素材を集めるのも、苦労するようになってきたところでね、冒険者ギルドで人を頼もうかと思っていたところなんだよ」



「そういうことなら、喜んでお手伝いさせてもらいます」



「では、契約は成立したということで、宜しく頼むよ。ああ、それと、宿はもう取ってあるのかい?」



「はい、街まで同行してくださった商人のかたの口利きで、泊まらせてもらえる宿は取ってあります」



「それなら、せっかくこの時期に街へ来たんだ。今日、明日は祭りを楽しむといい。そのあいだに認証札を作成しておこう」


「え、そんな、百年に一度のお祭りですよ? ボクなら待てますから、お休みまで働かせるなんて出来ませんよ」


「なに、気にしなくていいさ、もう飽きるほど経験してるからね」


「それでも、お休みの日は休んでください」


「わかったよ。言う通り、休み休みやることにしよう」


 ロコは、リィヤと顔を見合わせ、苦笑いをする。


「では、ほどほどにお願いしますね」

 これは、なに言ってもダメなタイプらしい。エルフでもワーカホリックっているんだなと思うロコである。


「ああそうだ、きみもずっと宿を取るのは金銭的にも大変だろう。明日には引き払って来なさい。わたしの家には空き部屋があるから、そこを使うといい」



「え、あ、はい、色々とありがとう御座います」



「いいんだよ、ケパレト()には、ほんの僅かだが世話になったからね、縁があるきみを助けるのも、やぶさかではないよ」



    *



 大方の目的を達成できたわたしたちは、街なかの商店街を冷やかしながら歩いている。


 たまに、ラズリを見て吃驚するヒトはいるが、足枷をしているのを見留めると、騒がず興味を失ったように通り過ぎてくれる。


 街を守る防壁の門に、従魔用の足枷が置かれているこの街では、従魔の存在がそこそこ認知されているようだ。


 とはいえ、ラズリは従魔ではないし、実は従属の契約などもしていないのだが、バレると厄介なので内緒だ。


 街の中央広場が近づくにつれ、普段から有るしっかりしたつくりの観光客向けの屋台に加え、回帰祭用に臨時で組まれた木材の枠や、土台に布が巻かれただけという簡素なつくりの出店(でみせ)も軒を連ねている。


 ウロウロとやっているうちに陽も高く上がり、お昼も近づいたところで、例によって何のお肉か知れない串焼きを購入して食べる。


 勇気を出して何のお肉なのかと聞いてみると、街に来る途中に出会った牛型のミティスタウルスという魔物肉だった。


 店主にお願いして、焼く前の味付けしていないお肉を串焼きと同じ値段で売ってもらった。捕れたて新鮮とは言えないが、ラズリに生肉、わたしとリィヤは串焼きをもらい、中央の噴水の縁に腰掛けて、それらを頬張った。


 お昼どきとあって、お客さんが列をつくり並びだした。評判のお店だったみたいで、混む前に買えて良かった。


 お肉自体の味も、肉はしっかり肉の味がある赤身肉と、脂がとろけるバラ肉が、交互に四つ大きな塊で串に刺してあり、飽きずに美味しく食べられた。


 薄くタレが塗られていて、わずかに果物みたいな香りと、ほんのりとした甘みはクドくなく、非常にこのお肉に合っている。


 食べ終わってから、お客さんが途切れたところを見計らい、店主に果物の名前を聞いてみたが、当然教えてはくれなかった。この世界の果物だけでなく、それ以外もそうだが、知らない食べ物が多いので、新しい出会いに当分は楽しめそうだ。


 お祭りに並ぶお店は、何も食べ物屋ばかりではない。大道芸を披露している一角があったり、輪投げや矢を投げる(まと)当てなんかもある。


 西洋風の移動式遊園地とまではいかないが、ちょっとした人力観覧車も設置され、この街の首長が祭りを楽しみに来た子どもらのためにと呼んだものであり、無料とあって子どもたちや、なかには大人も入り混じり歓声を上げている。わたしたちもそこに混ざって、ちゃっかり一通り遊ばせてもらった。


 それら全体のつくりや雰囲気が、こちらの世界観とはズレがあるように思え、強いて言えばオールディーズを題材にした映画のそれっぽさも感じさせるので、もしかしたら、その時代の西洋人か、それを懐かしむ人が転移してきた際に、遊び心で持ち込んだ文化なのかも知れない。


 そんな事を考えながら歩いていると、縁日の型抜きを見つけてしまった。材料を何で作っているのかは分からないが、間違いなくあの型抜きだ。これは絶対、西洋人の転生者ではないだろう。


 わたしたちもチャレンジしようと、店主に銅貨一枚を渡すと、四枚と引き換えてくれたので、ちょうど二人で二枚ずつ、リィヤと分けて遊んだ。ちょっとラズリが、つまらなそうな顔してるけど、ラズリに型抜きは出来そうにないから我慢してね。


 むかし、縁日でやった記憶はあるけれど、あの子どもの頃の集中力は発揮できずに二枚とも割れてしまった。リィヤもコツがつかめず惨敗。店主のおじさんが、したり顔で追加の四枚を持ち『やるかい?』と言ってるのが悔しいけど、景品に魅力がないので止めといた。


 そうこうしているうちに、日も傾きかけ。辺りも暗くなり始めた頃、大道芸のジャグリングが火を灯したものに変わり、光を使った魔法なども見られるようになる。


 通りの街灯もポツポツと点きはじめたので、このままカウントダウンに居残るヒトたちをあとに、わたしたちは、夕飯とお湯をいただくために、一旦宿に戻ることにした。



    *



 宿に到着したわたしたちは、ニクスさんを当てにして二日分の料金を払い、夕飯を用意してもらっている間にお湯をいただくことにした。できれば湯船につかりたかったが、風呂付きの宿は値段も高く、もっと稼がなくては手が届かない。


「こんなとき、一瞬でログハウスに転移できたら最高なんだけどね」


「ふふ、そうですね」


 転移魔法は有るけど一般的ではなく、一部の少数民族が使用していて、魔法の詳細は門外不出らしい。リィヤなら知ってるけど簡単には説明できない。なら、亜空間を教えてもらった時のように、強制的にインストール、と言いかけて止めた。もう、その荒業はできないことを思い出した。リィヤに申しわけなさそうな顔をさせてしまった。


 気まずくなった空気を変えようとして「温かいお湯で背中を拭いてあげるね」なんて言ったら「では、お返しにわたくしも」と返ってきたので、なんとか誤魔化せてよかった。


 ラズリを食堂に連れて入れないけど、部屋には追加で掃除用に割り増し料金を払えば一緒に入れる。そういう宿を紹介してもらったのだ。厩舎も有るが本当に馬用で、他の馬が怯えるから駄目だと言われた。従魔用はもっと大きな都市ぐらいにしか無いらしい。しかし、かえって一緒に居られるので、こちらとしてはラッキーだ。


 今日の献立はシチューだと言っていた。料理店の味というよりは、家庭の味といった感じで、ちょっとだけ家のことを思い出してしまった。もう、泣けることも少なくなったが、そうそう割り切れるものでもなく、あっちの世界が恋しい気持ちは無くならないものだ。


 そろそろ花火があがるよと、給仕のお姉さんがいうので、食事を終えたわたしとリィヤは、ラズリの待つ部屋に戻る。


 宿の店主にお願いして分けてもらったヴェラヴィス〈ウズラのような鳥〉のお肉を持ち帰ってきたが、お腹は減ってないと言うので、ラズリには明日あげることにして収納に仕舞っておいた。


 窓をあけると、ちょうど花火の打ち上げが始まるところだった。方角も見える位置で、なかなかの幸運だ。部屋の椅子を窓に寄せ、二人と一匹で花火を眺める。


 カラダをお湯で拭いたことで旅の緊張も解け、夕飯を食べてお腹も膨らみ、遠くに聞こえる喧騒と、花火の音が心地良く、まぶたが重くなってきた。カウントダウンは参加したかったけど、眠さには勝てない。



 おやすみリィヤ、おやすみラズリ。



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